怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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まだらの推理

安楽椅子探偵は角に寄る

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 数時間後、俺たちは事件現場前に来ていた。被害者には毛布が被されている。
「あれ? 角野さんは?」
 現場にいたのは堀さんのみ、彼女は首を振る。
「いません。捜査や調査はこちらに任せて推理のみを披露する、いつもの事です」
「安楽椅子探偵ってやつですね!」
「そんなにいいものではありませんけれど……」
 堀さんは困ったような笑みを浮かべ、扉を開ける。
「被害者を除けば全てそのままです、入り口の鍵は閉まっていましたが……。因みにマスターキーやスペアキーは常に誰かの監視下にあったとの事です」
「被害者に渡された鍵は盗まれたりしていなかったんです?」
「旅館の方で保管しているそうです。あの後部屋の中、扉の近くで発見されました」
「なるほどです」
「あ、物はなるべく動かさないようにお願いします」
「了解した。では、調査といこう」

 入り口を背に部屋を見渡す。
 まずは左、ベッドが一つ置かれている。
 横には小さなライトと鏡……
「割れちゃってますねえ」
「強く衝撃を与えたようだね」
 鏡は中央から全体的に亀裂が入っている。ガラスのように飛び散っている様子はない。
「犯人との争いでぶつかったとか?」
「それは違うと推測しています」
 下里の疑問に答えたのは逆方向を見ていた角野さん。どうやら自分で調査をしながらも此方の会話を聞いているらしい。
「他に争った形跡はありません。もし争っていたならあんな死に方はしないでしょう」
「あんな死に方?」
 ひとねが聞くと堀さんは「ああ」と何かを思い出したように手を叩く。
「話していませんでした。心臓への一刺し、その他周辺に幾つかの刺し傷がありました。しかし他には切り傷も擦り傷も無し、服も髪も血以外は乱れても汚れてもいません。寝ている間にやったような刺し傷です」
「睡眠薬でも飲ませたんですかね?」
「今回の場合準備が必要な犯行は無いんじゃなかったか?」
「動機なき殺人、でしたね。彼も明確な答えは出していません」
 そう言って堀さんは自身の調査に戻る。
「じゃあなんで割れたんでしょう?」
「焦った犯人が割ってしまったとかか?」
「偶然ってのもあるからな」
「充分にあり得るが推測の為の要素が少ない。次にいこう」

 次は右側。小さいテーブルの上にフルーツ盛りが置かれている。
 林檎に蜜柑、バナナにキウイ。盛りとは言ったが飾りつけられたようなものではなく。丸ごとといった感じだ。
 殆ど手は付けられていないが、林檎だけが半分無くなっている。綺麗に真っ二つである。
「凶器じゃ……ないですよね?」
 下里が指したのはフルーツ盛りの横に置かれた果物ナイフ。血にも染まっておらず、使われた形跡はない。
「凶器はサバイバルナイフだったと思う。私物じゃないか?」
「果物の他にも色々と特産品が置いてあるね」
「そういえば間取りも少し違いますし、少しグレードの高い部屋なのかもですね」
「これといって何もないね。次」

 正面。旅館特有の謎スペースである。
 小さな机と椅子がある。窓は少し大きめで、大人でも通れそうなくらいだ。
「窓……は気分が悪くなるなら見ない方がいいね」
「いや、大丈夫だ」
「わたしもだいじょーぶだよ」
 そう、窓には第一発見者であるアルバイト君が見たという血がついている。
 飛び散ったというよりは誰かの何かについた血が付着したという感じだ。
「犯人が付けていったか、あるいは被害者本人か……ともあれ」
 ひとねは側面に付く鍵を指す。鍵は扉を固定していない。
「密室では無かったらしい」
「でも此処結構高いぞ。普通に怪我しそうだ」
「コレとか使えば大丈夫じゃないですか?」
 下里の目は倒れて散らばったリュックの中身の一つ、丈夫そうなロープを見ていた。
「登山用ロープか、なるほど。じゃあ犯人はここから逃走を?」
「衆人監視とまでは行かなくとも個人的監視があった。その方法を取るならばそれを掻い潜らなければいけない」
「個人的監視? 誰か見てたって事?」
「灰藤さんか」
「ああ、あのアルバイトさんですね」
 そう、第一発見者たる彼は犯行予想時刻の殆どをこの下で過ごしていた。その前から部屋に入っていたと仮定して、ここから入ることは出来ても出ることはできない。
「それさえクリアすれば犯行は可能か……?」
 三人で考えていると後ろから堀さんが近づいてきた。
「そろそろアリバイの無かった方々に聞き込みをするのですが……こられますか?」
「いいんですか?」
「はい、話はこちらで通してあります」
「じゃあ……」
 ひとねに目を向ける。視線には気づいているようすだがこちらを見ることなく、ひとねは即答する。
「行かせてもらおう」
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