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まだらの推理
探偵×旅館=
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「じゃーん! どうです先輩!」
夕焼けを見ながら一人部屋でくつろいでいると蹴破ったくらいの勢いでドアが開き下里が入ってきた。時刻は十七時前である。
「オートロックじゃなかったか」
「はい、内側から閉めるタイプですね。普通の家みたいな感じです」
そういえばよくある鍵に番号の書いたタグをつけた物だった。
「下里さんはホント元気だね……」
部屋に用意されていた茶菓子を手に持ったひとねも入ってくる。
「君は着替えない派か」
「そんなのあったのか」
「そこの押し入れに布団と一緒に入っているよ」
ひとねは話題に上がった浴衣を着ている。特に特徴のない柄である。
帯はちゃんと締まっているが全体的に緩めであり、羽織りと共に少し大きめのものだ。恐らくゆったりした方が楽なのだろう。
「こっちも景色同じですねー」
「隣の部屋なんだから当然だろ」
勝手に窓を開けて下を見下ろしている下里も浴衣を着ている。
「ちょっと待ってください! こんな可愛い後輩の浴衣姿を描写なしで終わらすとかありえなくないです?」
「何の話だ、何の」
「感想をプリーズ! どうです? ほらほら!」
目の前でヒラヒラと揺れる布は薄いピンク色をしている。
「温泉宿の浴衣としては珍しい色だな」
「歩いてる時に奥の方で見えたから聞いてみたんですよ」
詳しくは分からないがイベントなどで使うものらしい。大方下里のキラキラした目に押されて従業員が貸し与えたのだろう。
「ところで先輩、温泉宿の作法をご存知ですか?」
「作法? 湯に浸かる前に掛け湯とかか?」
「いえ、それも大切ですが違います。温泉を満喫した後の話です」
「…………わからん」
「腰に手を当てて牛乳を飲み、その後は卓球に決まってるじゃないですか!」
「それはお前がやりたいだけだろ」
「まあ、端的に言ってしまえばそうですね」
あっさりと認めた下里は「と、言うわけで温泉に行きましょう!」と俺を強引に連れ出した。
*
番頭のおばあちゃんに鍵を預け、脱衣を済ませて扉を開ける。
幾つかの温泉の先に更に扉があり、向こう側が露天風呂になっているようだ。
ロープウェイの故障の影響でここまで来れた人は数少なく、温泉も貸し切り状態である。
「せっかくここまで来たしな」
身体を洗い、湯で流して露天風呂への扉を開ける。
「おや、君か」
「どうも」
唯一入っていた角野さんは持っていた日本酒を飲み干し、徳利から注ぎ足す。
「君も飲むかい?」
「未成年です」
「そりゃ残念だ。いやあ、凝り固まった腰が緩んでいくよ。仕事なんてするもんじゃないね」
「探偵も身体を使うんですか?」
「いや、使わないけど疲れた。そもそも外に出るのが疲れる」
大きく息を吸い、一呼吸置いてからそれを吐き出した後、角野さんは壁の方に向かって大声を出す。
「堀ちゃんもゆっくりしてるかーい?」
『セクハラです』
「なんでさ!」
どうやら壁の向こう側は女湯の露天風呂らしい、桶が一つ飛んできて角野さんに直撃する。
「こっちには学生君もいるんだぞう! 当たったらどうするんだ」
『声のした方に投げたので問題ありません。それにこちらにも学生方がいます、セクハラを通り越して犯罪です』
「話しかけるだけで犯罪者とは……」
『せんぱーい! わたしも桶投げるんで場所教えてくださーい!』
「投げるなよ!」
『ジョーダンですよぅ』
「さっきから静かだがひとねはどうした。どっかでのぼせてるんじゃないだろうな」
『ひとねちゃんは電気風呂にハマってましたよー』
「おばさんみたいだな……あでっ!?」
小さい声で呟いただけだというのに、桶が飛んできた。
犯人は……言うまでもないだろう。
*
「さあ、卓球といきましょう! お二人もやります?」
牛乳片手に少し雑談をした後、俺たちはゲームコーナーに向かうことにした。なんだかんだ一時間近く入っており、全員の頬が赤くなっている。
「僕は面倒だから審判になろう、ダブルスでやりなよ……ん?」
角野さんが無精髭を撫でて廊下の方を見る。
女将と従業員の青年がとある部屋のドアを叩いている。
「……ふむ」
しばらくすると女将がマスターキーを使って鍵を開ける。
「あの部屋には客がいたよな?」
「何かあったらしいね」
女将が悲鳴を上げ、腰を抜かしたように座り込む。
「だいじょーぶですか!」
駆け寄った下里が女将の視線の先にあるモノを見て小さな悲鳴を上げる。
後から追いついた俺たちもようやくソレを目にする。
そこにいた人はこの世から消えていた。比喩とかそういうモノではなく、ましては怪奇現象的なソレでもなく。
その胸に刺さっているのは包丁……よりも刃の短い刃物。ソレを中心に服が赤く染まっている。
「こ、これは……」
有り体に見たままの印象で言ってしまえば____死体である。
夕焼けを見ながら一人部屋でくつろいでいると蹴破ったくらいの勢いでドアが開き下里が入ってきた。時刻は十七時前である。
「オートロックじゃなかったか」
「はい、内側から閉めるタイプですね。普通の家みたいな感じです」
そういえばよくある鍵に番号の書いたタグをつけた物だった。
「下里さんはホント元気だね……」
部屋に用意されていた茶菓子を手に持ったひとねも入ってくる。
「君は着替えない派か」
「そんなのあったのか」
「そこの押し入れに布団と一緒に入っているよ」
ひとねは話題に上がった浴衣を着ている。特に特徴のない柄である。
帯はちゃんと締まっているが全体的に緩めであり、羽織りと共に少し大きめのものだ。恐らくゆったりした方が楽なのだろう。
「こっちも景色同じですねー」
「隣の部屋なんだから当然だろ」
勝手に窓を開けて下を見下ろしている下里も浴衣を着ている。
「ちょっと待ってください! こんな可愛い後輩の浴衣姿を描写なしで終わらすとかありえなくないです?」
「何の話だ、何の」
「感想をプリーズ! どうです? ほらほら!」
目の前でヒラヒラと揺れる布は薄いピンク色をしている。
「温泉宿の浴衣としては珍しい色だな」
「歩いてる時に奥の方で見えたから聞いてみたんですよ」
詳しくは分からないがイベントなどで使うものらしい。大方下里のキラキラした目に押されて従業員が貸し与えたのだろう。
「ところで先輩、温泉宿の作法をご存知ですか?」
「作法? 湯に浸かる前に掛け湯とかか?」
「いえ、それも大切ですが違います。温泉を満喫した後の話です」
「…………わからん」
「腰に手を当てて牛乳を飲み、その後は卓球に決まってるじゃないですか!」
「それはお前がやりたいだけだろ」
「まあ、端的に言ってしまえばそうですね」
あっさりと認めた下里は「と、言うわけで温泉に行きましょう!」と俺を強引に連れ出した。
*
番頭のおばあちゃんに鍵を預け、脱衣を済ませて扉を開ける。
幾つかの温泉の先に更に扉があり、向こう側が露天風呂になっているようだ。
ロープウェイの故障の影響でここまで来れた人は数少なく、温泉も貸し切り状態である。
「せっかくここまで来たしな」
身体を洗い、湯で流して露天風呂への扉を開ける。
「おや、君か」
「どうも」
唯一入っていた角野さんは持っていた日本酒を飲み干し、徳利から注ぎ足す。
「君も飲むかい?」
「未成年です」
「そりゃ残念だ。いやあ、凝り固まった腰が緩んでいくよ。仕事なんてするもんじゃないね」
「探偵も身体を使うんですか?」
「いや、使わないけど疲れた。そもそも外に出るのが疲れる」
大きく息を吸い、一呼吸置いてからそれを吐き出した後、角野さんは壁の方に向かって大声を出す。
「堀ちゃんもゆっくりしてるかーい?」
『セクハラです』
「なんでさ!」
どうやら壁の向こう側は女湯の露天風呂らしい、桶が一つ飛んできて角野さんに直撃する。
「こっちには学生君もいるんだぞう! 当たったらどうするんだ」
『声のした方に投げたので問題ありません。それにこちらにも学生方がいます、セクハラを通り越して犯罪です』
「話しかけるだけで犯罪者とは……」
『せんぱーい! わたしも桶投げるんで場所教えてくださーい!』
「投げるなよ!」
『ジョーダンですよぅ』
「さっきから静かだがひとねはどうした。どっかでのぼせてるんじゃないだろうな」
『ひとねちゃんは電気風呂にハマってましたよー』
「おばさんみたいだな……あでっ!?」
小さい声で呟いただけだというのに、桶が飛んできた。
犯人は……言うまでもないだろう。
*
「さあ、卓球といきましょう! お二人もやります?」
牛乳片手に少し雑談をした後、俺たちはゲームコーナーに向かうことにした。なんだかんだ一時間近く入っており、全員の頬が赤くなっている。
「僕は面倒だから審判になろう、ダブルスでやりなよ……ん?」
角野さんが無精髭を撫でて廊下の方を見る。
女将と従業員の青年がとある部屋のドアを叩いている。
「……ふむ」
しばらくすると女将がマスターキーを使って鍵を開ける。
「あの部屋には客がいたよな?」
「何かあったらしいね」
女将が悲鳴を上げ、腰を抜かしたように座り込む。
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駆け寄った下里が女将の視線の先にあるモノを見て小さな悲鳴を上げる。
後から追いついた俺たちもようやくソレを目にする。
そこにいた人はこの世から消えていた。比喩とかそういうモノではなく、ましては怪奇現象的なソレでもなく。
その胸に刺さっているのは包丁……よりも刃の短い刃物。ソレを中心に服が赤く染まっている。
「こ、これは……」
有り体に見たままの印象で言ってしまえば____死体である。
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