怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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異界十字路

交差する世界

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「さあ、走りましょう! あの生徒会室に向かって!」
 今日中に出せばまだどうにかなる! という下里の言葉を信じ、俺たちは廊下を歩いていた。決して走ってはいない。
「てかこの部活に部費なんて必要なのか?」「何を言いますか! 毎日円卓の中央に添えられている色とりどりの甘味達は部費が来ることを見越して買っているのです!」
「下里さん、あの部屋の何処にも円卓なんてないよ」
「あれの上座って何処なんだろうね?」
「そういうのを無くす為の円卓じゃあなかったかな」
「そうだったっけ? ひとねちゃん物知りぃ」
「さっきまでアーサー王物語を読んでおきながら何故知らないんだ……」
「本は大筋を楽しむ派なのです。細かい事は気にしない」
「私は細かいところまで読んでしまうね、知らない単語が出たら調べるから時間がかかってしょうがない。君はどうだい?」
「俺? 俺は……」
 読んだものを全て覚えている物だから推理物なら探偵の立場になって考えたりもするが……ファンタジーとかになるとそうはいかない。強いていうならば……
「物語を楽しむ、でも大筋よりも伏線とか探し出すのが好きかな」
 そんな他愛も無い雑談を交わしながら瞬き一つ。
 その一瞬の合間に、世界は交差した。

 *

「へ?」
 目の前には下里の横顔。いや、それは別にいい。下里が横を向いたのなら見える光景である。
 しかしてその背景がおかしい。なんの変哲もない廊下、少し先の右側には消化器が置いてある。
 学校側の管理の為か消化器には修正液で大きく文字が書かれている。目の前にある番号の消化器を俺はついさっき目にして、横を通り過ぎたのである。
 つまり、端的にいってしまえば俺は身体ごと後ろに向いた状態になっている。
 ただ普通に歩いていただけだというのに、一瞬のうちに後ろを向いていたのだ。
 まるで時を止められて向きを変えられたかのような……
「おや? わたしなんで後ろ向いてるんですか?」
 下里の言葉でそれまでの思考が間違いだったと判明する。
 下里も俺も同じ方向を向いて歩いていた。
 彼女の横顔はなお見えている。それぞれ違う方向を向いているというのに同じ感想を抱くのは異質である。
 下里が見ている方向……今の俺から言えば右側を見て、どうやら厄介な事に巻き込まれたのだと悟る。

 俺の右側にも、同じ廊下が広がっていたのである。
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