怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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件の話

下里くだりの右腕は失われる

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「ああ! やっときた!」
 集合場所の公園に着いたのは五十五分。日を跨がなければ問題は無いが……
「五分でいけるのか?」
「そうだよひとねちゃん、準備の時間とか」
 公園に着くなりベンチに腰掛けたひとねは眠そうな目で砂場に置かれた件を横目で見る。
「大丈夫、さっき君には言っただろう? 一言で終わると」
「一言? そんな簡単なの?」
「ああ、下里さんが健斗をちゃんと小間使いしていたようだからね。簡単さ」
 気を利かせた下里が用意した缶コーヒーを啜っていると時計の針が重なった。
 日付けが変わった瞬間に何か起こる可能性もあったが、それはない。
 空の缶をゴミ箱に向かって投げ捨て、ひとねは立ち上がる。ゴミ箱に弾かれてポイ捨てになっている、後で拾っておこう。
「さて……健斗」
「へ? 俺?」
 下里の右腕を失わせるのに、なぜ俺?
「下里くだりの手伝いはもういい。私の助手として復帰したまえ」
「……まあ、そのつもりだが」
「ふう、眠い」
 ひとねがベンチに横たわる。
「えっ? ちょ、終わり?」
「信じられないなら証拠を見たまえ、無い事が証拠なんていう特異なモノだけどね」
 俺と下里は件を置いていた砂場を見る。
「あれ、無い、ですね」
 近づき、足で砂をかき分ける。
「……無いな」
「だから言っただろう? さっきの一言で『下里くだりの右腕は失われた』」
「まてまて、ホントにどういう事だ」
 見るからに面倒臭そうに起き上がったひとねはまた欠伸をしてそのまま話を始める。
「私が君たちにさせたのは『健斗を下里さんの右腕にする作業』だ」
「俺を、右腕に?」
「先輩は妖怪変化の類で?」
「ちげぇよ。 産まれてこの方人間の肉体を逸脱した事はない」
「そうですよねぇ」と下里は首を傾げる。
「君たちの推論方向は間違っていない。私は右腕という言葉を曲解した。もちろん言葉はそのままでね」
「と、いうと?」
「少しは自分で考えたまえよ。私はさっき一言で何をした?」
「先輩を助手に戻したね」
「いや、下里の手伝いをやめさせた」
「健斗が正解。結果どうなった?」
 下里の手伝いを終え、下里が右腕を失った。
 その右腕は俺で、つまり……
「ああ、そういう右腕」
「先輩わかったんですか? 私にも答えをプリーズミー」
「私が重複してるぞ……ようはアレだろ? 言い換えたら腹心とか懐刀だろ」
「ああ! 漫画とかで見る『ボスの右腕はオレだぁ!』ってやつですね」
「その通り。これで『下里くだりは右腕を失う』という文が成立するわけだ」
 流石のひとねもポイ捨ては気が咎めたのだろう。缶をちゃんとゴミ箱に入れて伸びをする。
「さあ帰ろうか」
「いや、まて」
「なんだい? やるべき事はやっただろう? 君がチラチラと視線を送っていた缶もこうして捨てた」
 俺はゴミ箱から缶を拾い上げ、首を横に振る。確かにゴミ箱だけど、この曲解はいけない。
「ここは燃えないゴミだ」
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