怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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件の話

件の少女

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 放課後。食べた昼食の味もわからず、授業もロクに聞けていない。
 もしかすると俺は告白されるかもしれないのだ!
 高鳴る鼓動を抑え、図書室に向かう。

「あ、先輩」
 人の少ない図書室の端に件の少女がいた。学年章はやはり一つ下、一年生の物だ。
「来てくださりありがとうございます。話は……奥で」
「図書室の奥はここだと思うけど」
「奥の部屋、です。司書室です」
 そういえばそんな表記を見た気がする。恐らくの場所はわかるが……
「数年前から司書はいないらしいし、その部屋も鍵が閉まってるぞ」
「それはまあ、コレがありますから」
 少女がポケットから鍵を取り出して部屋の方に向かう。
「職員室から盗ってきたのか?」
「いいえ先立った方々からの贈り物です」
「先立った?」
「卒業生という意味です。まあ、有り体に言えば図書部の部室です」
「君は図書部なのか」
「はい、現在唯一の図書部です……と、自己紹介をしていませんでしたね。初対面にこれは失礼でした」
 少女のスカートがフワッと回る。
「わたしの名前は下里くだりです。是非くだりちゃんとお呼びください」
   
 *

「お座りください」
「あ、おう」
 慣れた手つきでお茶を入れる彼女を改めて見る。
 背は俺を少し見上げる程小さく、目は逆に大きい。
 髪はショートボブだろうか? 前髪は中央から左耳の上にある髪留めにまとめられているが……
「どうぞ、美味しいですよ」
「ん、ありがとう」
 出されたのは熱いお茶、中央に置かれた大きな皿には一口大の饅頭が大量に置かれる。
 俺が茶を冷ましてる間に下里さんは饅頭を口に放り込む。
「これ、わたしのお気に入りなんです。あ、安いやつなんでお気になさらず」
 一口食べる。確かに普通の、スーパーで十個入りとかで売っているアレだ。
「……そんなに美味いか?」
「この如何にも安い味ってのがデリシャスなのです。量が多いのもベターですね」
「ふうん……」
 一つ食べるたびに最大の特徴であるアホ毛、側面から出ているアゲハチョウの口を逆にしたようなソレがピコピコと動く。
 ……と、俺はお茶を飲みに来たのではなかった。

「で、話って何かな」
 雰囲気的に告白じゃないだろうってのは勘付いた。しかし初対面の女子に対面で言われる事ってのは思いつかない。

 いや、まて。
 図書部と言ってたな。それに話しかけられた時の状況……まさか
 俺が鞄から机に出したのは怪奇探偵のチラシ。これを勝手に挟んだから下里さんは俺を呼び出したのだ……
「これの事か」
「……はい、やはり先輩でしたか」
「ああ、悪いことを……」
 謝罪の言葉は下里さんが倒した椅子の音に阻まれる。
 彼女は目を輝かせ、顔をグイッと寄せてくる。
「先輩が、怪奇探偵だったんですね!」

 *

「……えっと」
「あ、もちろん秘密にします」
「いや、そうじゃなくて……俺は怪奇探偵じゃないんだ」
「え……」
 彼女の目から輝きが失われ、ゆっくりと座った後にガクンとうなだれる。
「……すいません、それだけです。用事は以上です」
「いや、あの」
「わたしの事はこのまま放っておいてください。ショックと反省は昨日に置いてくるタイプなのでノープロブレムですよ」
 反省は持っていけよ。というツッコミは飲み込む。
「俺は怪奇探偵じゃないけど、怪奇探偵が誰かは知ってるぞ」
「…………!!」
 突然目の輝きを取り戻して身を乗り出す。
「本当ですか! 会わせてください!」
「構わないけど、一応確認しておく。怪奇探偵にどんな用事が?」
 乗り出した身を戻し、彼女は予想通りの言葉を返してくる。
「怪奇現象から救って欲しいんです!」
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