67 / 150
藤宮ひとねの怪奇譚
漠の恩返し
しおりを挟む
『彼女の中に、不死鳥はもういない』
「……え?」
画面の中のトシの言葉を飲み込む前に、彼は話を続ける。
『そもそも不死鳥については情報が少なかった。ただ『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』それしかわかっていなかったのだよ』
トシはズレたシルクハットを被り直す。
『しかし此度の収集によって新たな情報を得られた。基本は変わらない、しかし重要な事だ。
不死鳥が不老不死にするのは一時的、その身体が万全な状態になった時点で不死鳥は離れていく』
万全な状態。恐らくひとねがちゃんと歩けるようになった頃に不死鳥は離れていったのだろう。
『今回判明した不死鳥の情報はあのUSBには入れていない。この情報を教えたところで根本的な解決にはならないからね』
「……?」
『ま、ワタシがお節介を焼くのはここまでだ。この情報を教えるかどうかはキミが決めたまえ』
「…………?」
『さっきも言ったがこの動画は自動的に削除される。聞き逃したなら終わる前に巻き戻す事だ』
数秒の間の後、トシは小さく笑う。
『では、健闘を祈る』
*
トシの動画を見てから一週間が過ぎた。そろそろアクションを起こさなければ。
「ごちそうさま」
ひとねが晩飯を平らげたのを見て皿を洗い場に置く。汚れが乾かないように水をかけ、食後の茶を飲むひとねの向かいに座る。
「……何か言いたげだね」
「わかるか?」
「挙動不審にも程があるよ。遠慮せずにいいなよ」
「……ひとね、不死鳥ってなんなんだ」
「怪奇現象だよ。……物理法則で説明しろって話じゃないよね」
ああ、そうだ。こんな大事なことを濁していうのは失礼だ。
ならば、直球に。
「ひとね、お前はなんで不死鳥に取り憑かれたんだ?」
*
「その聞き方と言うことは、ある程度不死鳥については知ったようだね。あのエセ英国紳士か」
「まあ、そんなところだ。でも曖昧な知識だ。一応教えてくれ」
ひとねは一度目を閉じ、何かを決心したような目つきになる。
「不死鳥というのは『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』怪奇現象だ。情報はこれだけだが、取り憑いた原因がはっきりしているならそれを取り除けば不死鳥は離れるだろう」
「ああ、なるほど」
続く言葉を俺は心の中で止める。トシが伝えなかった訳がようやくわかった。
不死鳥を離すには後悔の解消が必要。ひとねはそう『勘違い』しているのだ。
不死鳥がもうひとねの中にはいない事、それを伝えるのは簡単だろう。
しかし、ひとねが不死鳥をそう理解し、未だ身体の中にいると思っているなら……
ひとねは未だ、何か後悔をしている。
不死鳥がいないと知ったところで後悔はなくならない。でも、後悔を無くす動機は失われてしまう。
ならば後悔を無くしてから、ソレを知れば良いのではないか。トシはそう考えたのだろう。
ならば俺はひとねを欺き、その後悔を無くしたい。ひとねの為とかそういう事ではなく、俺がそうしたい。
これは、俺の自分勝手な恩返しだ。
だから俺は聞かなければいけない。
「藤宮ひとね、お前の後悔はなんだ?」
「……え?」
画面の中のトシの言葉を飲み込む前に、彼は話を続ける。
『そもそも不死鳥については情報が少なかった。ただ『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』それしかわかっていなかったのだよ』
トシはズレたシルクハットを被り直す。
『しかし此度の収集によって新たな情報を得られた。基本は変わらない、しかし重要な事だ。
不死鳥が不老不死にするのは一時的、その身体が万全な状態になった時点で不死鳥は離れていく』
万全な状態。恐らくひとねがちゃんと歩けるようになった頃に不死鳥は離れていったのだろう。
『今回判明した不死鳥の情報はあのUSBには入れていない。この情報を教えたところで根本的な解決にはならないからね』
「……?」
『ま、ワタシがお節介を焼くのはここまでだ。この情報を教えるかどうかはキミが決めたまえ』
「…………?」
『さっきも言ったがこの動画は自動的に削除される。聞き逃したなら終わる前に巻き戻す事だ』
数秒の間の後、トシは小さく笑う。
『では、健闘を祈る』
*
トシの動画を見てから一週間が過ぎた。そろそろアクションを起こさなければ。
「ごちそうさま」
ひとねが晩飯を平らげたのを見て皿を洗い場に置く。汚れが乾かないように水をかけ、食後の茶を飲むひとねの向かいに座る。
「……何か言いたげだね」
「わかるか?」
「挙動不審にも程があるよ。遠慮せずにいいなよ」
「……ひとね、不死鳥ってなんなんだ」
「怪奇現象だよ。……物理法則で説明しろって話じゃないよね」
ああ、そうだ。こんな大事なことを濁していうのは失礼だ。
ならば、直球に。
「ひとね、お前はなんで不死鳥に取り憑かれたんだ?」
*
「その聞き方と言うことは、ある程度不死鳥については知ったようだね。あのエセ英国紳士か」
「まあ、そんなところだ。でも曖昧な知識だ。一応教えてくれ」
ひとねは一度目を閉じ、何かを決心したような目つきになる。
「不死鳥というのは『後悔したまま死にゆく人の命を救い、不老不死にする』怪奇現象だ。情報はこれだけだが、取り憑いた原因がはっきりしているならそれを取り除けば不死鳥は離れるだろう」
「ああ、なるほど」
続く言葉を俺は心の中で止める。トシが伝えなかった訳がようやくわかった。
不死鳥を離すには後悔の解消が必要。ひとねはそう『勘違い』しているのだ。
不死鳥がもうひとねの中にはいない事、それを伝えるのは簡単だろう。
しかし、ひとねが不死鳥をそう理解し、未だ身体の中にいると思っているなら……
ひとねは未だ、何か後悔をしている。
不死鳥がいないと知ったところで後悔はなくならない。でも、後悔を無くす動機は失われてしまう。
ならば後悔を無くしてから、ソレを知れば良いのではないか。トシはそう考えたのだろう。
ならば俺はひとねを欺き、その後悔を無くしたい。ひとねの為とかそういう事ではなく、俺がそうしたい。
これは、俺の自分勝手な恩返しだ。
だから俺は聞かなければいけない。
「藤宮ひとね、お前の後悔はなんだ?」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる