怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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浮遊霊は二人

二つ目の案は外に出ない

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「おやおや御二方、昨晩はお楽しみだったのかな?」
「……何を言ってるんだ?」
「こんな早朝に来たというのに二人とも揃っていたからね。彼は泊まったのだろう?」
「いえ、朝食を作りに来ただけです」
「えー、何かねソレは」
 朝からテンションの高い中本トシをよそに卵を焼く。
「ワタシの分も頼むよ」
「……食事、するんですか」
「必要はないけどね、味は感じるのだよ。話は少し長くなる、食べながらがいいだろう」
 やけに自分のペースに持ち込んでくる人だ。ひとねに視線を送ると「彼も依頼人だ、仕方ない」と返ってきた。
  
 朝食が揃い、少し食べ進めたところでひとねがパンを置いた。
「思い当たる未練はないのかい?」
「あるとすれば『妻に会いたい』だろうが妻はこの世にいない」
「そうか、じゃあ他に情報を話してくれ」
「ならばワタシの過去を話そうか」
「いや、未練の話を……」
「ワタシの過去こそ未練の話なのだよ」
「なんでもいいから話してくれ」
 ひとねに言われてトシは咳払いをする。
「ではお聞きいただこう。我が生涯最後の物語を!」

 *

「中本トシは旅人であった。世界中の怪奇譚を集めることを生きがいとしていた。
 妻もいたが遠き故郷に残し、一人気ままに旅をしては一年に一度帰る程度である。

 あくる日、ワタシは死んだ。しかし怪奇譚の収集に夢中で死んだことにしばらく気づかなかったのだ。
 そこから何日経ってから町に出て、己の死を知った時には己が未練というのがわからなくなっていた。
 どの瞬間に死んだのか明確にわからないのに未練も何もない。
 とりあえず故郷に戻るも妻はこの世におらず、仕方なく怪奇譚の収集をしていたのだ。

 そんな中この街でワタシが出会ったのはこの地下施設。怪奇現象『迷い家』だ」

 *

「迷い家? 見つけたら一つお宝を貰える不思議な、隠された家だっけか」
「まあ、纏めるならそんなところだろうけど……その性質とこの地下図書館は一致しない」
「しかして此処は迷い家。そもそも迷い家というのはお宝が貰える家ではない」
「違うんですか?」
「お宝が貰える迷い家も存在しただろうさ。ただしソレは迷い家の起こした事件の一つに過ぎない」
「一つの怪奇現象にも種類があると?」
「ノンノン、迷い家自体は一種類。似たようなものはあるだろうけどそれはまた別物さ。そこは生物と同じ、複数体はいれど種類は同じなのさ」
「……?」
 話が読めない。お宝が貰える迷い家は確かに迷い家ではあるが、それだけが迷い家ではなく、かといって迷い家が数種類あるわけでも……わからん。
 こんがらがった頭の紐をこねくり回しながらひとねを見る。
 目を閉じ、親指と人差し指で揉むように摘んでいた口の上を離して「ああ」と声をあげる。
「おや、何かわかったかね探偵クン」
「どうだろう、情報が少ない中からいくつか案は出たけど」
「話してみたまえ、事件の推理をしているわけではないのだからね」
 少し渋りながらもトシの目から逃げきれずひとねは小さく口を開く。
「一つ目は『迷い家は家に取り憑く怪奇現象』という案」
「正解だ探偵クン!」
 一瞬驚いた顔をした後、不満そうにひとねは口を閉じた。
「そう、そして取り憑いた家の特徴によって若干性質が異なる。故に伝承とは違えどここは迷い家なのだよ」
「しかし取り憑くだけ、なんて事はないんだろう? どんな家に取り憑くとか、取り憑いた家に影響を及ぼすとか」
「もちろんあるとも。迷い家が取り憑くのは取り壊された家だ」
「もうクイズ形式はいらない。疲れた。単刀直入に言ってくれ」
 ひとねの投げやりな発言にトシはわざとらしく溜息をつく。
「まったく、こういうのが楽しいというのに……じゃあ、仕方ない。迷い家を纏めて話すとしよう」
「…………」
 最初からそうすれば良かったのでは。なんて野暮な言葉を飲み込む……が、どうしても喉につっかえる。
 しかしソレを言うとより長くなるのは明白なので、俺はお茶で言の葉を流し込む。
 恐らく俺とは違う理由、ただ喉を潤す為にお茶を飲み込んだトシは一呼吸置いて得意げに話す。
「迷い家は取り壊された家に取り憑き、人の見つけにくい所に移動させる怪奇現象だ。その後、その取り憑いた家に相応しい人間を招き入れる」
 トシが立ち上がり、杖と床を鳴らす。
「招き入れられた人間が逃れる方法はただ一つ……その家のものを一つ持ち帰る事だ」
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