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悪魔と狸と時々探偵
灰色ローブのシャーロック
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目の前に広がるのは大きな校舎。今日の依頼先は少し遠くの学校らしい。
「ああ、ちょっと君達」
入ろうとしたところを警備員さんに止められた。
「許可証が無いと外部の人間は入れないよ、見学なら事前に予約が……」
俺が視線を向けると灰色ローブ姿の探偵は一歩前へ出て警備員に許可証を渡す。
「怪奇探偵シャーロックだ。上野という教師から許可証を貰っている」
ローブで顔が見えないからノリノリだなシャーロック……いや、ひとねよ。
「ああ、上野さんの。ご案内します」
警備員の人について校内に入る。
「さて、そろそろ教えて貰ってもいいか? ひと……」
そこまで言ったところで口を抑えられる。そうだった、今日は何故かシャーロックと呼べと言われたんだった。
「……教えて貰ってもいいか? シャーロック」
「いいだろう、ワトソン君」
咳払いをしてひとねは説明を始めた。
「今回の事件は小屋に入った人が目を覚まさないという依頼だ」
「…………」
いや、それは知っている。
俺は小さな声でひとねに耳打ちする。
「なんで今日はローブを被ってシャーロックを名乗っているのかって事だ」
「ああ、そういうことかい」
ひとねの手招きに応じて耳をひとねの顔に近づける。
「前にも言ったが私は行方不明扱いの人間だ。町とかならまだしも私くらいの歳の情報を持っていそうな学校はもちろん警戒すべきだろう?」
「なるほどな……で、見当はついているのか?」
「現場を見なければわからない、曖昧な事を言葉にはしたくない」
そんな他愛もない会話をしているとグラウンドに出た。そのまま案内されたのは端っこにぽつんと建てられた小屋。いや、建てられたより置かれたという感じだ。素人が何とか作り上げたような印象を持った。
「あんたがシャーロックとか言う探偵か」
そんな小屋の前で俺たちを待っていたのは上野と名乗る一人の男性。典型的な体育教師と言った感じだ。
「で、ここが例の小屋だ……入らない方がいいぞ」
上野が指した扉には画用紙で作られたポスターが張ってあり『2-Bミラーハウス試作品』と書かれている。
恐らく文化祭か何かの出し物なのだろう。
「ここに入った人が目を覚まさない……そういう依頼だったね」
ひとねのその言葉に違和感を感じた。それはおかしい
「目を覚まさないってどうやって確かめるんだよ」
ローブの陰からちらりと見えるひとねの目が俺をとらえる。
「矛盾点を感じたようだね、なぜそう思ったか言ってみたまえ」
なんだか違和感のある口調だが……まあいい。
「仮に目を覚まさないとして、それをどうやって確かめるんだ」
入った人が目を覚まさないのならばそれを確認しに行った人も目を覚まさないはずだ。呼びかけても返事がないという現象ならば声が出ないだけという可能性も否定できないのだ。
そんな推理とも呼べない疑問点を上げるとひとねは満足そうにうなずいた。
「君も助手として育ってきたようだね。いい観察力だ」
「じゃあその謎もいまから解くのか」
ひとねはかぶりを振る
「その矛盾は世間一般的な常識の範囲内で起こり得るもの、今回その矛盾は矛盾とならない。私が担当するのはただの事件じゃないからね」
「ああ……そうか」
ひとねが呼ばれたということは怪奇現象にまつわる事件だ。怪奇現象によっておこったものならば矛盾は矛盾じゃないのだ。
「……ですよね」
ひとねの言葉に上野は頷く
「ここに入った奴は十分くらい経った後グラウンドのどこかに突然移動している。意識を失ったまま、な」
「正確には十三分だろうね」
「図ったことはないぞ」
「いや、きっかり十三分で間違いない」
ひとねがここまで自信を持っていうのなら間違えないだろう。
「何人が意識を失っている」
「十一人だ」
「そうか、ならいい」
俺はたまらず人ねに質問をする。
「この怪奇現象はなんなんだ」
「これはミラーハウスのようだね。だとしたらこの状況で考えられるのは一つ、合わせ鏡の悪魔だ」
合わせ鏡に悪魔……そこそこ有名な怪奇現象というか都市伝説だ。
「このミラーハウス、何組の合わせ鏡が出来ている?」
「上下と側面にあるから三組だ」
「六枚の鏡からなるのか……じゃあ簡単なまじないは効かないね」
「無理……なのか」
「それはない、難易度が少しばかり上がっただけだ」
ひとねは小屋の扉にもたれかかった。
「そうだね……まずはこの合わせ鏡の悪魔の特徴と打開策を話そうか」
「ああ、ちょっと君達」
入ろうとしたところを警備員さんに止められた。
「許可証が無いと外部の人間は入れないよ、見学なら事前に予約が……」
俺が視線を向けると灰色ローブ姿の探偵は一歩前へ出て警備員に許可証を渡す。
「怪奇探偵シャーロックだ。上野という教師から許可証を貰っている」
ローブで顔が見えないからノリノリだなシャーロック……いや、ひとねよ。
「ああ、上野さんの。ご案内します」
警備員の人について校内に入る。
「さて、そろそろ教えて貰ってもいいか? ひと……」
そこまで言ったところで口を抑えられる。そうだった、今日は何故かシャーロックと呼べと言われたんだった。
「……教えて貰ってもいいか? シャーロック」
「いいだろう、ワトソン君」
咳払いをしてひとねは説明を始めた。
「今回の事件は小屋に入った人が目を覚まさないという依頼だ」
「…………」
いや、それは知っている。
俺は小さな声でひとねに耳打ちする。
「なんで今日はローブを被ってシャーロックを名乗っているのかって事だ」
「ああ、そういうことかい」
ひとねの手招きに応じて耳をひとねの顔に近づける。
「前にも言ったが私は行方不明扱いの人間だ。町とかならまだしも私くらいの歳の情報を持っていそうな学校はもちろん警戒すべきだろう?」
「なるほどな……で、見当はついているのか?」
「現場を見なければわからない、曖昧な事を言葉にはしたくない」
そんな他愛もない会話をしているとグラウンドに出た。そのまま案内されたのは端っこにぽつんと建てられた小屋。いや、建てられたより置かれたという感じだ。素人が何とか作り上げたような印象を持った。
「あんたがシャーロックとか言う探偵か」
そんな小屋の前で俺たちを待っていたのは上野と名乗る一人の男性。典型的な体育教師と言った感じだ。
「で、ここが例の小屋だ……入らない方がいいぞ」
上野が指した扉には画用紙で作られたポスターが張ってあり『2-Bミラーハウス試作品』と書かれている。
恐らく文化祭か何かの出し物なのだろう。
「ここに入った人が目を覚まさない……そういう依頼だったね」
ひとねのその言葉に違和感を感じた。それはおかしい
「目を覚まさないってどうやって確かめるんだよ」
ローブの陰からちらりと見えるひとねの目が俺をとらえる。
「矛盾点を感じたようだね、なぜそう思ったか言ってみたまえ」
なんだか違和感のある口調だが……まあいい。
「仮に目を覚まさないとして、それをどうやって確かめるんだ」
入った人が目を覚まさないのならばそれを確認しに行った人も目を覚まさないはずだ。呼びかけても返事がないという現象ならば声が出ないだけという可能性も否定できないのだ。
そんな推理とも呼べない疑問点を上げるとひとねは満足そうにうなずいた。
「君も助手として育ってきたようだね。いい観察力だ」
「じゃあその謎もいまから解くのか」
ひとねはかぶりを振る
「その矛盾は世間一般的な常識の範囲内で起こり得るもの、今回その矛盾は矛盾とならない。私が担当するのはただの事件じゃないからね」
「ああ……そうか」
ひとねが呼ばれたということは怪奇現象にまつわる事件だ。怪奇現象によっておこったものならば矛盾は矛盾じゃないのだ。
「……ですよね」
ひとねの言葉に上野は頷く
「ここに入った奴は十分くらい経った後グラウンドのどこかに突然移動している。意識を失ったまま、な」
「正確には十三分だろうね」
「図ったことはないぞ」
「いや、きっかり十三分で間違いない」
ひとねがここまで自信を持っていうのなら間違えないだろう。
「何人が意識を失っている」
「十一人だ」
「そうか、ならいい」
俺はたまらず人ねに質問をする。
「この怪奇現象はなんなんだ」
「これはミラーハウスのようだね。だとしたらこの状況で考えられるのは一つ、合わせ鏡の悪魔だ」
合わせ鏡に悪魔……そこそこ有名な怪奇現象というか都市伝説だ。
「このミラーハウス、何組の合わせ鏡が出来ている?」
「上下と側面にあるから三組だ」
「六枚の鏡からなるのか……じゃあ簡単なまじないは効かないね」
「無理……なのか」
「それはない、難易度が少しばかり上がっただけだ」
ひとねは小屋の扉にもたれかかった。
「そうだね……まずはこの合わせ鏡の悪魔の特徴と打開策を話そうか」
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