怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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赤顏酒会

電子の海のぼやきたち

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 スーツ姿の男性のスマホを覗く。ちょうど人から返信が来たところで、アカウントがすぐにわかる。
「…………」
 アルファベットや数字で組まれたアカウント名を頭の中で何度も反復する。
 偏食漠はもう俺の中にいないが、記憶力に関しては僅かに残っているようだ。
 スーツ姿の男性が電車から降りたのを確認して記憶したアカウント名をメモする。
「これで六人か」
 これだけあればひとねも満足するだろう。
 窓から外を見ると日が暮れかけている。ここまでやったんだ、報告がてらひとねの所で飯にしよう。
 俺はそんな事を考えながら地下図書館に向かった。

 *

「……ん、ご苦労様」
「今日はここで食わせて貰うぞ、何かリクエストはあるか?」
「なんでもいい……けど今からこのアカウントを調べるから片手で食べられるものがいい」
 そういう物と言えばサンドイッチだが……男子高校生としては夕食にサンドイッチじゃ物足りない。
 冷凍庫に冷凍ハンバーグが残っていた……ハンバーガー式サンドイッチと洒落込もう。
 電子レンジでハンバーグを解凍しているとひとねがパソコンを見たまま声を出す。
「私は軽いものにしてくれ」
「……おう」
 軽いものにあたりそうなのはキュウリくらい……最初からキュウリのサンドイッチが食べたいと言えばいいのに。
 俺がお人好しならあいつは強情だ。

 *

「……ほっひ」
 サンドイッチを頬張りならがひとねが俺を呼ぶ。
 何か説明を始めているようだが、何を言っているかわからない。
 差し出した水でサンドイッチを流したひとねは咳払いをして再度切り出す。
「調べた結果だけど、やはりあの肥満と小さい人は天狗のようだ」
 ひとねがこちらに向けたパソコンには『bostter』の幾つかのぼやきが纏められていた。もちろん俺が調べてきたアカウントのものだ。
『デブ部長が決めた部の印がダサいんだが』
『うちの部長と次長が手を組みすぎててツライ。どっちも絶対に意見を曲げない』
『会社の上が自惚れすぎ。デブは自分勝手だしチビはデブに味方しすぎ』
 少し見ただけでもわかる。あの二人……中年太りならぬ部長、小人ならぬ次長は天狗になろうと疑問が浮かばない人だという事だ。
 まあ、そこまでは予想通り。
「で、あの細身の人はどうだったんだ」
「問題はそこだ」
 ひとねがパソコンの画面を変える。
『あの部長と次長に弄られてる同期がいて可哀想、なんか痩せ細ってきてる気がする』
『あの細い後輩ちゃんが不憫、気まずそうにスマホに目を落としてるのをよく見る』
 その後に続くのは似たようなぼやきだ。
 つまりあの細身は部長と次長に連れまわされ、何も言えずにいるような性格だという事が考えられる。と、いう事は……
 俺の視線に気づいたひとねは頷く。
「そう、最後の一人は天狗になる要素がない」
「心の中では傲慢なのかもしれない」
「それはない、わざわざ心まで読んでいたのでは非効率的だ。天狗化は目に見えるくらい傲慢な人にしか起こらない怪奇現象だ」
 ひとねは残ったサンドイッチの小さな欠片を口に入れて飲み込む。
「今度はピンポイントだ、あの細身の男の事を調べてきてくれ」
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