怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
35 / 150
無意識かつ奇跡的

偏食は止まらない

しおりを挟む
「……何故だ」
 彼が悲しき記憶を話してから一時間。熱は下がるどころか少し上がっている。
 偏食獏は一番辛い記憶だけで無く、それに関連した記憶も上書きしていく。
 偏食獏と出会った後に関連した大きな出来事があってもそれは記憶の奥底に行くという事だ。
 つまり、彼が思い出すべき事はまだあるという意味となる。
 私はポケットから取り出した飴を舐めて考える。何か手がかりはないか?
「虐待……軟禁……あれ?」
 彼と弟が二人虐待を受けていた時は片方を軟禁する事で口封じをしていた。ならば対象が一人となる今はどうなる? 逃げた彼を捕まえて、家から出さないのが普通じゃないのか?
 しかし彼はほぼ毎日地下図書館に来ている。弟を殺してしまった事で親が反省した? いや、直後に彼を追いかけたぐらいだ。
 ならば何故……
 思考は玄関からのチャイム音で途切れた。
「……はい」
「健斗君かい? 最近休日も昼にいないようだけど、どうした?」
 モニターに向かって手を振っているのはスーツ姿の男性。
「失礼ですがどなたですか?」
「あれ、健斗君じゃない?」
「彼……健斗は今出られません」
 曖昧に誤魔化そうとすると男性は親しみやすそうな笑顔を捨てた。
「……簡単に言うと一人で暮らす未成年のサポートと生存確認をする団体だ。県の証明が必要なら見せる、健斗君に会わせてくれないか」
 なるほど、この町にはそういう物があるのか。モニターに向けられた紙を見る限り本当に県の職員なのだろう。
「わかりました」
 私は玄関の扉を開ける。男性は捨てた笑顔を拾っていた。
「どうもこんにちは」
「健斗は今熱を出して寝ています。確認なら静かにお願いします」
 男性は少し身を乗り出して彼の寝ている場所を見る。
「なるほど……大丈夫?」
「はい、私が看病していますので」
「えっと……君は」
「私は彼の……」
 彼の、なんだろう? 友達、親友……何か違う。最近はよく共にいる……わからないな。
「腐れ縁です」
 私が笑顔を作って言うと男性は納得して帰って行った。
「チェックが甘いな」
 もし彼が寝ているのでは無く死んでいたらどうする。私が犯人だったらどうするつもりだ。
 いや、今はいい。関係のない事は後にしよう。
 でも今の出来事で一つ手がかりを得た。彼の両親は今現在この家に住んでいないという事だ。
 両親がいない。両親だけが転勤などをしたのか、彼が逃げてきたのかはわからない。でもその両親と離れているきっかけとなったものが忘れている物かもしれない。
「失敗したな……」
 さっきの男性に聞いておくべきだった。まあ、嘆いていても仕方ない。
「さて……」
 私は思考する。彼の両親はなぜこの場にいないのだ?
 一番最初に考えられるのは警察による逮捕。どんな形であれ、人を一人虐待で殺しているのだ。
「健斗、話せるかい?」
「……少しなら」
 返ってきた声はかすれている。質問は最小限に……
「キミの弟は……無事葬儀をすませたのかい?」
「葬儀はしたらしい……俺が逃げている間に」
「……なら、両親は逮捕されたんじゃないのかい?」
「いや……弟は溺死だった。川で見つかった……」
 どうにか偽装したのだろう。彼の弟の死は隠蔽され、弟は事故死となっているわけだ。
「ありがとう……少しだけ待っていてくれ」
 私は彼を寝かせているリビングを出て横の部屋に入る。
 部屋の中にあったのは大きな化粧台とベット。それから高級そうなクローゼットだ。
 クローゼットの中にはレディースのスーツ。
 クローゼットについてあった引き出しを開けると判子やら手帳やらが無造作に入れられていた。
 書類を見る限り、この部屋を使っていたのは彼の母親のようだ。
 弟は事故死扱い。この家は彼の一家が住んでいた家。
 この二つから両親が逮捕された説、彼が遠くまで逃げた先がこの地である説が消えた。
「……よし」
 一旦頭を整理しよう。今回の問題点を改めて考える。
 そう、今回の問題点は……
「この家にいるはずの彼の両親はどこに行ったのか……だ」
 私は小さく、そう呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~

ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった! 年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……? やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか? 日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。 ※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。  前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。  前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。  作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです! 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中! 毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください! ▼全話統合版(完結済)PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473 一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...