怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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不死鳥の少女

マンホールのその下に

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 唐突だが、俺は落ちた。
 ……違う、これでは色々と説明不足だな。正確には開いていたマンホールから落ちた、だ。
 何故マンホールが開いていたか、とか何故うまい具合に俺が落ちたのだとか……今はどうでもいい。
 それより目の前に広がる光景こそが驚きだ。疑問だ。わけがわからない。
 落ちた先は臭い下水道では無い。紙の匂いがする大きな部屋だった。
 大きな地下図書館とでもいうべきか……
 壁は全て本棚で埋まっており、その全てが本で埋まっている。
 体育館だとか校舎だとかそんなレベルでは無い、途方も無く広い部屋に本が並べられているのだ。
 少し歩くと本棚には巻物的な物も並べられているのに気づいた。更に奥に行くと石板のような物。
「何だこれ……」
 思わず呟いて奥を見る。
 左右にそびえ立つ本棚にぎっしりと詰められた石板、少し歩くとようやく奥の壁が見えた。
 そこにはふかふかであろう椅子が置いてありその上に……
「……ん?」
 少女が座っていた。しかし少女はピクリとも動かない。
「ちょっ、大丈夫か」
 かけよって少女の身体を少し揺らす。何だ、どうすればいいんだ。
 気を失った人を見つけた時には……くそ、保険の授業ちゃんと聞いとくんだった。
 保健の授業保健の授業……
「えーと……そうだ! AED!」
 思い出して辺りを見る……
「何処だよここ!」
 てかAEDいらねぇ! 普通に息してるし。
 戸惑っていると少女が薄目を開けて小さな声で呟いた
「は……ダメ……」
「え? 何て?」
 少女の口に耳を近づける
「腹に何も無い……もうダメだ」
「…………」
 空腹かよ……いや深刻だけどさ
 俺はカバンの中からパンを取り出す。昼に残った物だ
「食えるか?」
 袋を開けて少女の口に近づける
「あう……助かる」
 数回食べさせてやると食欲に刺激されたのか少女はパンを掴んで自分で食べ始めた。
 パンを食べ終わった少女は俺の水筒の水を飲み干した。
「……ふう、助かったよ」
 少女はフラつきながらも立ち上がる。
 俺はようやく少女の容姿を完全に確認できた。
  綺麗な黒髪、全体的に中々に長いがポニーテールのようにゴムで纏めているテール部分の長さが特に半端じゃない。
 それは彼女の身長以上の長さで幾らか地面に触れてしまっているくらいだ。
 何処か風格を感じさせる目とそれに反する華奢な体。
 殆どの人が美少女だと認定するような、そんな少女だった。
 少女は椅子に座った後俺を見て目を丸くする
「今思えば……君のようなただの人間がどうしてここにいるのかな?」
 少し言葉に詰まる、ただの人間?
「じゃあお前はただの人間じゃないのか?」
 少女は立ち上がってこっちに向かってくる。
「少なくとも八十年くらいで死ぬ君達のような人間とは違うね」
「どういうことだよ」
 なんだか少し歩き方がおかしい、フラつくと言うかなんと言うか……
「信じないだろうけど言ってあげる、私はね……きゃ!」
 ダイナミックに転びかけた彼女を咄嗟に支える。
「大丈夫か」
「……どうも、久々に立ったものだから」
 体制を立て直して彼女はまた口を開く
「私は死なないわ」
 これが、俺と彼女の出会いだった。
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