錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

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勝利の大味は大犬も喰わぬ

インサークメント・ドッグ

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「そこの自由に動きすぎている医師! こっちへきたまえ!」
「遊撃班が自由に動いて文句でもあるか」
「臨機応変に動けとは言ったが遊撃班ではない!」
「まあいい……お、生きてたか」
 俺の次に棋王が捕まえたのは先生だった。
 前線で戦っていた団長やグリムさんなども引き寄せ、他の者に的確な指示を出して行く。

「ふむ、これくらい集まれば……」
 棋王が言葉を止めて見た先から担架に乗った人が運ばれてくる。
「重症です! 何処へ運べばいいですか!」
 数人を引き連れて怪我人を運んできたのはコカナシ。
「何人かこの者達について後方へ向かってくれ。その後の事は任せる! 代わりにコカナシ君は残ってくれ」
「了解しました」
 指示された傭兵団員が怪我人と共に後方へ下がっていく。
 さっきまで後方にいた白狼はまた違うところで暴れている。最早この戦場に前衛も後衛もない。
「コカナシ君は救助をメインに、そこの二人は応急処置を!」
 コカナシだけ名前覚えられてる! なんか狡い!
「タカ、剣は使っていますか?」
 コカナシが指しているのは護身用の長剣。
「ん、一応構えてはいるけどあまり役に立ってない」
「なら得物を交換しませんか?」
「いいけど……」
 そういえばコカナシは剣を備えていない。俺より前線に近かったのだから護身用の武器は必要だとおもうくど……
「では剣を貰って……タカにはこれを、本当は資格が必要ですけど仕方ないでしょう」
 渡されたのは小ぶりの銃。
「ハンドガン?」
「いえ、麻酔銃です。錬金で強化した麻酔薬ですのでパブロフに当たれば一時的に無力化できるはずです」
「打ち方は普通でいいんだな?」
「はい。人に当たると大変なので確実に、幸いパブロフは直接的な攻撃しかしてこないので近距離で撃ってください」
「わかった」
 念のためコカナシに使い方を聞いていると、白狼の方から伝令役らしき人が叫びながら走ってきた。
「ジョバンさん! 各隊戦える者が減っています。このままでは白狼が抑えられません!」
「ならは白狼は我らのみで抑えるしかあるまい。他の隊はパブロフに専念!」
「儂が先頭を行く。ついてこい!」
 団長が大剣を軽々と振り回して道を阻むパブロフを蹴散らしていく。横からくるパブロフ達は棋王やグリムさんが処理していく。
 中央に固められた俺たち重症人がいれば応急処置をして継続班やその場にいる人と共に退避してもらう。そういう役割だ。
「ちっ……獣の癖に小賢しい」
 白狼の足元が見え始めたくらいで団長が急停止した。いつの間にかパブロフに囲まれている。いや、待ち伏せされていたのか……
「このメンバーなら突破出来そうですけどね?」
 先生はかぶりを振る
「この数だぞ? 突破したところで追いかけられたら白狼どころじゃない。
 なら誰かが残ってパブロフの相手をするしかない。しかし白狼直前で戦力を割くのは避けたいところだろう。

「ここは私たちに任せて」
 名乗りをあげたのはグリムさん。横にいるドーワさんも頷いている。
「……わかった、団員を数人つけよう」
 団長が少し考えて白狼がいる方角を見据える。
「念のため治療班を置いておきたいな」
 棋王はそう言って俺たちを見る。
「え、いや。流石に俺みたいな完全な足手まといはいない方が……」
「大丈夫よ、そもそも中心に来られたらその時点で私では対処出来なくなる」
「ワタシたちがいようと敗北条件は変わらないと言う事だ」
 先生の解説で意味を理解する。
 まあ白狼の方に行っても役に立てるか分からないし……ならばここにいた方がいい……のか?
「時間が惜しい。さっさとやるぞ。カウントスリー……ツー……ワン!」
 グリムさんが銃を放った。音に反応したパブロフ達がこっちに目掛けて襲いかかってくる。
「任せた!」
 団長達がいく先のパブロフ達を払って突破を試みる。
 一部のパブロフが気づいて方向転換をしたが、その時間ロスで差が開く。
「展開して」
「合点承知だな!」
 ドーワさんが背負っていた金庫のような大きな箱を地面に叩きつけた。箱は少し埋まり固定され、一気に複数の蓋が開く。
 蓋の下からは武器の持ち手が見えている。恐らく黒ひげ危機一髪のような形で様々な武器が刺さっているのだろう。
 その中から刀を抜き取ったグリムさんはニヤリと笑った。
「今から舞うわ……巻き込まれないように気をつけて!」
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