錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
82 / 199
勝利の大味は大犬も喰わぬ

パブロービアン・ドッグ

しおりを挟む
「防衛隊は白狼に専念、他はそのままパブロフを相手に!」
 言った後に棋王が後ろの方に向けて扇を振った。答えたのは団長の大剣。
「ゼロ番隊……いくぞ!」
 俺の方まで届いたその声と同時にゼロ番隊が白狼と対峙を始めた。

 ゼロ番隊は団長やフィジーさんを含む傭兵団の精鋭を主に構成されている。グリムさんのような凄腕もここに入っている。
 屈強な巨人族達が白狼の攻撃を数人がかりで受け止める。
「退避する時も武器を捨てるな! 身体に刺せば少しの隙ができる!」
 団長の声がこだまする中、キリーさんが俺のところに走ってきた。
「タカヤくん、出番よ!」
「足りないモノは」
「基本的な傷薬と止血剤が足りないわ、種類と分量はコレで」
「わかりました」
 どんな出番かは聞かずとも分かる。ある種類の薬剤が少なくなったから他の薬剤を錬金して緊急補充をする役割だ。
 薬剤置場に向かいながらポシェットから
 腕輪を出す。
 装飾はシンプルなモノだが中央にの錬金石が取り付けられている。指輪のより少し大きい石だ。
「この薬剤を持ってきてください」
 貰った紙を渡して腕輪を取り付ける。錬金石が大きいと多くの体力を使う代わりに錬金が簡単になる。
 しかし今回はそれが目的ではない。体力を多く排出する傾向にある錬金石ならば複数の錬金が可能になる事が目的だ。

 並べられた薬剤を指定された分量毎に錬金溶液に入れていく。薬は分量も効能も固定だから錬金薬学としては相当簡単な部類にあたる。
「……よし」
 深呼吸をしていつもより大きなビーカーに向き合う。いつものように混ぜ、石をかざす。
 錬金石が大きくても、量が多くても関係ない。
「いつものように……」
 小さく呟いた後、俺は錬金に身を投じた。

 *

 この戦場に錬金術を使える人は数人いるという。
 生産性が悪い錬金術は戦場において使われる事はないが、緊急時にはとても役に立つ。そのため傭兵団所属医師の数人は錬金術を会得している。
 ならば何故俺が錬金するか。それは簡単な話だ。
 会得しているとはいっても普段使いはしない。今回のような簡単な錬金ならば実力より馴れや習慣が大切だという事だ。

 ……と、色々と理由はあるのだが一番重要なのは錬金術を会得する余裕があった有能な医師を疲れさせるわけにはいかない。それだけの話である。

 *

 なんだか少し前の記憶を一瞬で体験した気がする……まるであらすじのように……!!
「……やべっ!」
 目を開いてビーカーを確認する。……良かった、出来ている。
 どうやら一気に体力を使いすぎたらしい。もちろん簡単な錬金なのでいつもより消費は少ないが、時間に対して出ていく量の比率がいつもより多かったという意味だ。
 体力を一気に使うとさっきのような『弱走馬灯』的なものを見てしまう。恐らく脳が危機感を覚えてそうさせるのだろう。
 近くに先生がいたら確実に殴られていたようなミスだが……薬は出来たので良しとしよう、うん。今はそんな事考えている場合じゃないし。
 出来た薬を箱に詰めていると遠くの方で遠吠えが聞こえた。単一なのにここまで届くソレは白狼だとしか考えられない。
 途中発していた威嚇の低い声では無く、遥か先まで届きそうな遠吠え。それはパブロフ達に対する合図だ。
 俺の世界で知られていたパブロフの犬は音に対する条件反射で唾液を分泌したというモノだ。
 もちろんパブロフはそのパブロフの犬から名付けられたモノ。
 彼らは同じように白狼の遠吠えを聞くと唾液を分泌する。
 ただ一つ違うのは……その唾液が少しばかり強力だという事である。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...