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散った火花は消えることを知らず
新たなる出会いと出発
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「無駄な事はやめておけ」
平坦なアルスの言葉にセルロースさんがにやりと笑う。
「あんたもあたしも大丈夫。でも……あんたが抱えているコカナシちゃんはどうかしらね!」
アルスの顔が初めて動いた。そう、対策の無いコカナシだけは燃えてしまうのだ。
コカナシに傷がつくのはアルスにとっても良いことではない筈だ。
「……取れ」
数秒だけ考えたアルスはコカナシを投げた。それと同時にいつの間にか追いついてきたらしいケルベロスキメラが走り出す。
セルロースさんの狙いはコレだったのだ。気づくと同時に俺も走り出す。
流石に走力では勝てない。ポケットを探る。奇跡的に残っていた一つ……今が使いどころだろう。
「どきやがれこの犬野郎!」
俺を追い抜いて行こうとしたキメラに最後の麻痺毒をかけてコカナシに向かって走る。
もう少し……後少し……
「コカナシ……!!」
飛び込みながら受け止める。コカナシを抱きかかえながら地面を転がって壁にぶつかる。
「うわ……」
ぶつかったのは壁ではなくアルスだった。セルロースさんを振り切って俺たちの前に立ちふさがる。
「渡せ」
「……素直に渡してたまるか」
アルスがストックボックスを取り出して俺に向ける。セルロースさんに放った火はこれからのモノか。
アルスに背を向けた瞬間、大きな声が辺りに響いた。
「その箱をそう使うのには親近感が沸くけれど……穏やかじゃないわね」
歩いてきた女性が俺たちとアルスの間に立つ。白を基調とした服を身に纏い、手には槍と剣が合体したような武器が握られている。
「フィジー! そいつコカナシちゃんの敵!」
フィジーと呼ばれたその人はセルロースさんの言葉に頷いて武器を構える。
アルスがキメラを呼び寄せて口を開く。
「……お前になんの関係がある」
「そうだね、前口上を名乗らなきゃね」
フィジーさんは前髪をはらって謎のポーズ。
「私は国営傭兵団、治安維持課所属のフィジー・セルピエンテ! 罪状とかはないから見逃してもいいわよ」
「治安維持課……か」
突き出された剣槍を見つめたアルスはキメラを下がらせて背を向ける。
「また会おう、若き錬金術師」
俺の答えを聞く前にアルスは去って行った。
数分の沈黙の後、フィジーさんがセルロースさんを呼び寄せた。
「……で、これはどういう事態なわけ?」
*
「ようやく帰ったか。何をして……」
珈琲を飲んで言いかけた先生がコカナシを見て立ち上がる。零れる珈琲を気にもせずコカナシに駆け寄ってくる。
「擦り傷に火傷、軽度だが治療した方がいいな……そこに座れ」
「は、はい」
まだ少し眠そうなコカナシを椅子に座らせて先生が治療を始める。
「その……キミア様」
「……なんだ」
「ごめんなさい」
「謝るな」
少しの沈黙。口を開いたのは先生。
「悪いのはワタシの方だ」
「いえ、私の方が……」
「……ワタシだ」
「甘い雰囲気のところ悪いけどここは離れた方がいいんじゃないかな」
「ん?フィジー? どういう意味だ?」
フィジーさんから視線を感じた。一番状況を理解しているのは俺か。
「端的に簡潔に言いますと……アルスがコカナシを攫おうとしました」
「アルスだと! なにもされていないだろうな!」
「はい、特に違和感はありません。直接処方をされましたけど……素材を見る限り普通の睡眠薬かと」
「それならいい」
治療を終えた先生が荷物を纏めだす。
「出るぞ。タカも用意しろ」
「あ、はい」
「じゃあ私も」
椅子から降りたコカナシを先生が止める。
「お前は座ってろ。ワタシがやる」
なんとも珍しい先生の言葉にコカナシは笑顔で先生に抱き着いた。
「大好きです!」
平坦なアルスの言葉にセルロースさんがにやりと笑う。
「あんたもあたしも大丈夫。でも……あんたが抱えているコカナシちゃんはどうかしらね!」
アルスの顔が初めて動いた。そう、対策の無いコカナシだけは燃えてしまうのだ。
コカナシに傷がつくのはアルスにとっても良いことではない筈だ。
「……取れ」
数秒だけ考えたアルスはコカナシを投げた。それと同時にいつの間にか追いついてきたらしいケルベロスキメラが走り出す。
セルロースさんの狙いはコレだったのだ。気づくと同時に俺も走り出す。
流石に走力では勝てない。ポケットを探る。奇跡的に残っていた一つ……今が使いどころだろう。
「どきやがれこの犬野郎!」
俺を追い抜いて行こうとしたキメラに最後の麻痺毒をかけてコカナシに向かって走る。
もう少し……後少し……
「コカナシ……!!」
飛び込みながら受け止める。コカナシを抱きかかえながら地面を転がって壁にぶつかる。
「うわ……」
ぶつかったのは壁ではなくアルスだった。セルロースさんを振り切って俺たちの前に立ちふさがる。
「渡せ」
「……素直に渡してたまるか」
アルスがストックボックスを取り出して俺に向ける。セルロースさんに放った火はこれからのモノか。
アルスに背を向けた瞬間、大きな声が辺りに響いた。
「その箱をそう使うのには親近感が沸くけれど……穏やかじゃないわね」
歩いてきた女性が俺たちとアルスの間に立つ。白を基調とした服を身に纏い、手には槍と剣が合体したような武器が握られている。
「フィジー! そいつコカナシちゃんの敵!」
フィジーと呼ばれたその人はセルロースさんの言葉に頷いて武器を構える。
アルスがキメラを呼び寄せて口を開く。
「……お前になんの関係がある」
「そうだね、前口上を名乗らなきゃね」
フィジーさんは前髪をはらって謎のポーズ。
「私は国営傭兵団、治安維持課所属のフィジー・セルピエンテ! 罪状とかはないから見逃してもいいわよ」
「治安維持課……か」
突き出された剣槍を見つめたアルスはキメラを下がらせて背を向ける。
「また会おう、若き錬金術師」
俺の答えを聞く前にアルスは去って行った。
数分の沈黙の後、フィジーさんがセルロースさんを呼び寄せた。
「……で、これはどういう事態なわけ?」
*
「ようやく帰ったか。何をして……」
珈琲を飲んで言いかけた先生がコカナシを見て立ち上がる。零れる珈琲を気にもせずコカナシに駆け寄ってくる。
「擦り傷に火傷、軽度だが治療した方がいいな……そこに座れ」
「は、はい」
まだ少し眠そうなコカナシを椅子に座らせて先生が治療を始める。
「その……キミア様」
「……なんだ」
「ごめんなさい」
「謝るな」
少しの沈黙。口を開いたのは先生。
「悪いのはワタシの方だ」
「いえ、私の方が……」
「……ワタシだ」
「甘い雰囲気のところ悪いけどここは離れた方がいいんじゃないかな」
「ん?フィジー? どういう意味だ?」
フィジーさんから視線を感じた。一番状況を理解しているのは俺か。
「端的に簡潔に言いますと……アルスがコカナシを攫おうとしました」
「アルスだと! なにもされていないだろうな!」
「はい、特に違和感はありません。直接処方をされましたけど……素材を見る限り普通の睡眠薬かと」
「それならいい」
治療を終えた先生が荷物を纏めだす。
「出るぞ。タカも用意しろ」
「あ、はい」
「じゃあ私も」
椅子から降りたコカナシを先生が止める。
「お前は座ってろ。ワタシがやる」
なんとも珍しい先生の言葉にコカナシは笑顔で先生に抱き着いた。
「大好きです!」
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