178 / 199
錬金術のはじめ『最後の少女』
とある少女との邂逅
しおりを挟む
キミアとゲンが旅を始めて一年程の時間が経った。
「師匠、これから行くのは何処なんですか?」
「ミルフィって言う小さな村だ、聞いたことくらいはあるだろ?」
「独特な建築法を持っていると聞いたことがあります。材質の違う木を四角に切り出して積み木のように組み上げる、でしたっけ」
「間違っちゃあいねえけどさ……お前はほんと技術関連しか興味がないのな」
「他に何かありましたっけ」
「かつて争っていた小人族と巨人族が和解した地、今もなお小人族と巨人族が手を取り合って暮らしている村だ」
「へえ、そうなんですね」
「興味なさそうだな……」
「故郷を離れるなんて考えもしませんでしたから、他の場所の歴史なんて見もしなかったです」
そう言ったキミアの瞳に木組みの家が映る。
「師匠、あれ」
「やっと着いたようだな。どんな郷土料理や食材があるか楽しみだ」
*
ミルフィの人たちはキミア達を快く受け入れた。宿泊施設のない村だった為、二人はとある家にお邪魔する事となった。
「すいません、ご厄介になります」
「大丈夫ですよ」
二人を迎えたのはカフェオという苗字の気の良さそうな小人族と巨人族の夫婦だった。
「ほら、コーちゃんも挨拶しなさい」
小人族の母親の足に隠れるようにしていた小さな少女は顔だけを出して二人を見つめている。
「……こんにちは」
すぐに引っ込んだ頭を母親が撫でる。
「すいません、恥ずかしがり屋で」
「いえいえ、可愛いですね」
「客室は自由に使ってください。もう少しでお昼ご飯が出来上がります」
「あ、手伝います。てか見たいです!」
「見たい、ですか?」
「はい、実は栄養士を目指していて……」
ゲンが居なくなり、部屋にはキミア一人となる。
家の特殊な構造は何となく見終えた。やる事も無いキミアはいつも通り錬金薬学の練習を始める事にした。
錬金術のように入り込んではいけない。あくまで薬学の延長、外からの補助にのみ錬金術を使うというのは錬金術師であったキミアからすれば逆に難しい事であった。
錬金術の光が消える。出来上がった薬は予定より効能が良くなり過ぎている。
「……入り込み過ぎか」
錬金薬学において錬金術はあくまでサポートに過ぎない。元々そこまで効率は良くない錬金薬学に過剰な効能はご法度である。
しかし目標より効能が高くなった薬を捨てる理由はない。保管容器に液体状の薬を入れ、体を伸ばす。
少し後ろに広がった視界の端に赤いモノがチラついた。いつのまにか隙間風を放っていた扉の方に目をやる。
「どうした」
声をかけるとソレがサッと扉の裏に隠れた。
キミアは頭を掻く。ずっと錬金術に没頭していたキミアは目上以外との関わり方が未だ掴めないでいた。
同年代でも友人と呼べたのはアルスくらいだったのである。
「…………」
しかし今あの子に恐れられているらしいという事は分かっていた。
外の人が珍しいというのならば人の良い師匠の所に行くだろう。それでも自身のところに来るというのなら、その興味は……
「邪魔しないのならば見ていいぞ」
そう言うと扉がゆっくりと開く。その先にいたのは予想通りこの家の少女。
キミアは少しばかり記憶を遡り、親が雑談の中で使っていた彼女の名を思い出す。
「コカナシ、だったか」
少女は口ではなく首を動かした。
キミアが机に向かい錬金の準備を始めるとコカナシが少し離れた隣に来る。
「錬金術ってなに?」
キミアは「そこからか」と心の中で思いつつ、この少女にわかるように言葉を簡略化していく。
「何かと何かを繋ぎ合わせる……混ぜる技術の事だ。今からやるのは正確には錬金薬学だけどな」
「やくがく?」
キミアは「それも難しかったか」と頭の中で言葉を更に分解する。
「錬金術で薬を作ってるんだ」
「お医者さん?」
「まあ、そんなところだ」
「すごいね」
キミアはカバンから出したマスク付きゴーグルを渡す。
「万が一がある。付けていろ」
「うん」
そのままキミアはコカナシの服装に目を向ける。
デザインはどうでもいい。長袖と足が完全に隠れている長くて横に広いスカート、これは良い。しかし首元が見えているのが気になる。
「これもだ」
渡されたビブのような布コカナシは頭につける。カチューシャのようで似合ってはいるが、もちろん用途が違う。
小首を傾げるコカナシの首元にきちんと布をつけ、錬金石に体力を込める。
「見て分かるものではないが……まあ、見ているといい」
「師匠、これから行くのは何処なんですか?」
「ミルフィって言う小さな村だ、聞いたことくらいはあるだろ?」
「独特な建築法を持っていると聞いたことがあります。材質の違う木を四角に切り出して積み木のように組み上げる、でしたっけ」
「間違っちゃあいねえけどさ……お前はほんと技術関連しか興味がないのな」
「他に何かありましたっけ」
「かつて争っていた小人族と巨人族が和解した地、今もなお小人族と巨人族が手を取り合って暮らしている村だ」
「へえ、そうなんですね」
「興味なさそうだな……」
「故郷を離れるなんて考えもしませんでしたから、他の場所の歴史なんて見もしなかったです」
そう言ったキミアの瞳に木組みの家が映る。
「師匠、あれ」
「やっと着いたようだな。どんな郷土料理や食材があるか楽しみだ」
*
ミルフィの人たちはキミア達を快く受け入れた。宿泊施設のない村だった為、二人はとある家にお邪魔する事となった。
「すいません、ご厄介になります」
「大丈夫ですよ」
二人を迎えたのはカフェオという苗字の気の良さそうな小人族と巨人族の夫婦だった。
「ほら、コーちゃんも挨拶しなさい」
小人族の母親の足に隠れるようにしていた小さな少女は顔だけを出して二人を見つめている。
「……こんにちは」
すぐに引っ込んだ頭を母親が撫でる。
「すいません、恥ずかしがり屋で」
「いえいえ、可愛いですね」
「客室は自由に使ってください。もう少しでお昼ご飯が出来上がります」
「あ、手伝います。てか見たいです!」
「見たい、ですか?」
「はい、実は栄養士を目指していて……」
ゲンが居なくなり、部屋にはキミア一人となる。
家の特殊な構造は何となく見終えた。やる事も無いキミアはいつも通り錬金薬学の練習を始める事にした。
錬金術のように入り込んではいけない。あくまで薬学の延長、外からの補助にのみ錬金術を使うというのは錬金術師であったキミアからすれば逆に難しい事であった。
錬金術の光が消える。出来上がった薬は予定より効能が良くなり過ぎている。
「……入り込み過ぎか」
錬金薬学において錬金術はあくまでサポートに過ぎない。元々そこまで効率は良くない錬金薬学に過剰な効能はご法度である。
しかし目標より効能が高くなった薬を捨てる理由はない。保管容器に液体状の薬を入れ、体を伸ばす。
少し後ろに広がった視界の端に赤いモノがチラついた。いつのまにか隙間風を放っていた扉の方に目をやる。
「どうした」
声をかけるとソレがサッと扉の裏に隠れた。
キミアは頭を掻く。ずっと錬金術に没頭していたキミアは目上以外との関わり方が未だ掴めないでいた。
同年代でも友人と呼べたのはアルスくらいだったのである。
「…………」
しかし今あの子に恐れられているらしいという事は分かっていた。
外の人が珍しいというのならば人の良い師匠の所に行くだろう。それでも自身のところに来るというのなら、その興味は……
「邪魔しないのならば見ていいぞ」
そう言うと扉がゆっくりと開く。その先にいたのは予想通りこの家の少女。
キミアは少しばかり記憶を遡り、親が雑談の中で使っていた彼女の名を思い出す。
「コカナシ、だったか」
少女は口ではなく首を動かした。
キミアが机に向かい錬金の準備を始めるとコカナシが少し離れた隣に来る。
「錬金術ってなに?」
キミアは「そこからか」と心の中で思いつつ、この少女にわかるように言葉を簡略化していく。
「何かと何かを繋ぎ合わせる……混ぜる技術の事だ。今からやるのは正確には錬金薬学だけどな」
「やくがく?」
キミアは「それも難しかったか」と頭の中で言葉を更に分解する。
「錬金術で薬を作ってるんだ」
「お医者さん?」
「まあ、そんなところだ」
「すごいね」
キミアはカバンから出したマスク付きゴーグルを渡す。
「万が一がある。付けていろ」
「うん」
そのままキミアはコカナシの服装に目を向ける。
デザインはどうでもいい。長袖と足が完全に隠れている長くて横に広いスカート、これは良い。しかし首元が見えているのが気になる。
「これもだ」
渡されたビブのような布コカナシは頭につける。カチューシャのようで似合ってはいるが、もちろん用途が違う。
小首を傾げるコカナシの首元にきちんと布をつけ、錬金石に体力を込める。
「見て分かるものではないが……まあ、見ているといい」
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
飛んで火に入れば偽装結婚!?
篠原 皐月
ファンタジー
父の死去により、異母弟の伯爵家相続を認めて貰えるよう、関係各所に働きかけて奔走するセレナ。親戚の横槍を受けつつも奮闘していた彼女だったが、父の遺言通り王太子に助力を願った事がきっかけで、彼が王族の籍を抜けてセレナと結婚し、彼女の弟の後見人となる事に。それは忽ち周囲に憶測とトラブルを発生させ、セレナは頭を抱えたが、最大限の問題は王太子クライブ殿下その人だった。
結局彼女はクライブと偽装結婚の契約をして、弟が正式な当主になるまで秘密を守る事を誓ったが、トラブルは次々とやって来て……。セレナの弟の爵位継承までのあれこれ、偽装未亡人(?)になった後の、新たな紆余曲折の恋の行方を描きます。
カクヨム、小説家になろうからの転載作品です。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件
九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。
勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。
S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。
そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。
五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。
魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。
S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!?
「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」
落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!
フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~
空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。
どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。
そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。
ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。
スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。
※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる