錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

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錬金薬学のはじめ『終わりと始まりの物語』

師が持つ才

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 出会いから数ヶ月、二人は錬金薬学の師弟関係となっていた。
 キミアはゲン同様メディ家に住んでおり、同室なこともあって最初のぎこちなさは消え去っている。
「だから体力を入れすぎってんだよ。錬金術はあくまでサポート、基本的に化学現象で勝手に引っ付くんだよ」
「それがわかんないです、なんです勝手に引っ付くって」
「そこら辺は薬学師試験の勉強で教える。そういう物だと記憶だけして実践だ実践」
「理解できない物したくないです」
 いつもの如く感覚で錬金するゲンと理論で錬金するキミアの言い合いが繰り広げられている最中、ドアが数回ノックされる。
 メディ家の二人ならばノックはしない。疑問を感じた二人は手を止めてドアの方を見つめる。
「……誰だ」
「神だ」
 入ってきたのは猫神のボル。その姿を見てキミアは身を硬くし、ゲンは力を抜く。
「なんだボルさんか」
「なんだとは何だ……まあいい、今日用があるのはお前じゃない」
「は、はい。なんでしょうか」
「なんだお前堅苦しいな、俺に対する生意気と全然違うじゃねぇか」
「ちょっと師匠は黙っていてください」
 ゲンが口の前でバツを作るのを見てボルはため息をつく。
「今日の夜、ワタシの元へこい。なるべく見つからないようにな」
「……?」
「ゲンも付き添ってやれ、いいな」
 二人の返事を待たずにボルは部屋を出て行く。
「……なんだったんだ」
「あの、それより師匠。ボル様と話しているのに砕けすぎでは?」
「ん? あんなもんだろ。地元のじっちゃんみたいな感じだし」
「やっぱり……あの噂って本当なんですか?」
「噂……ああ、あっちね」
 ゲンには二つの噂があった。その一つである。
 ゲンが違う世界、所謂異世界から此処にやってきたという噂だ。
 数百年単位でイスカンデレイアにいるボルとケイタも異世界から舞い降りたと言い伝えられている。
 同郷の者である、と考えれば先程のゲンの態度もキミアも理解できる。
「本当だ。俺は異世界から来た」
 そう言ってゲンは舌を出す。そこには一つの小さな石のような物が埋め込まれている。
「なんですか、それ」
「舌ピアスってんだ。オシャレだよ」
「なんで今見せたんです?」
「ん? そっちの噂は知らないのか?」
「師匠が舌を痛めつけることに快感を覚える変態と言うことですか?」
「ちげぇよ」
 キミアの頭を軽く叩き、ゲンは咳払いをする。
「俺の錬金術にまつわる噂だよ」
 ゲンのもう一つの噂。彼が不思議な錬金をする事である。
 一見魔法のように見える錬金術も突き詰めれば科学である。理論をあるていど理解していないと成立しない。
 しかしゲンはその理論を知らずに錬金を成功させたり、他人に説明出来ないのに新理論を成立させたりするのだ。
「過程をすっ飛ばして結果だけを引き出す錬金をするってヤツですよね」
「え? 何それ、相当おヒレが付いてるな」
 ゲンはもう一度舌をだす。
「エルフの目があるだろ? 見てみろ」
 言われた通りキミアは視界を変える。
 舌に埋め込まれた石に多量の生命力が溜まっている。それだけではない、その生命力は舌全体を循環するかのようにグルグルと回っている。
「錬金石ですか?」
「元々いた世界ではそう言う名前では無かったけど、どうやらそうらしい。世界を移動してしまった時にこの錬金石に何かしらの反応があったみたいでな」
 ゲンは乾いた唇を石のついた舌で舐める。
「俺は味覚で錬金できるんだ」
「味覚?」
「一定の素材を入れすぎたら苦いとか甘すぎるとか、感じた味覚を理想に近づければ錬金が成功してる。そんな感じだ」
 それでは理論も何もありはしない。想定外の答えにキミアは机に体重を預ける。
「だから師匠の教え方はおかしいんですよ」
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