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錬金薬学のはじめ『終わりと始まりの物語』
神童の別れ道
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イスカンデレイアの最奥、他とは雰囲気の違う日本風の建物を前に青年は溜息をつく。
青年の名前はゲン。メディ家に居候している錬金薬学師である。
目の前にあるのはこの村の神が住む建物、集会などは此処で行われており、今日も臨時ではあるがソレである。
「どーもー」
ゲンが集会室に入ると視線が集まる。決して好意的なものではなく、「お前が何故来た?」という否定的な視線である。
「いつものことだ、気にしても仕方ない」そんな事を考えながらゲンは一番後ろに座る。
メディ家はイスカンデレイアで唯一錬金術ではなく錬金薬学を専門とする家系である。
端的に言ってしまえば異端。こういう目を向けられるのはいつもの事である。
そもそもメディ家は集会に顔を出す事が少ない。しかし今回ばかりは参加せざるを得ないだろう。
なんたって____村の危機である。
*
正確には村の錬金術の危機。ゲンとは直接関係のない話だ。
原因は聞くまでもなく数日前のイレイサー事件。土砂に飲み込まれるのは免れたが優秀な錬金術師をほぼ全て失ってしまったのだ。
唯一の希望は生き残った二人の天才。今日の集会テーマは二人の行く末である。
神様である子供ケイタと猫のボルが奥から出てきて全員を見渡す。
「全員集まっているな……始めるとしよう」
口を開いたのは猫であるボル、初めて見たときは驚いたゲンだったが数年経った今では疑問を持たず受け入れている。
「まず最初に当人の意思を確認したい。アルス、キミア、二人は何処に進む事を望む?」
そう問われて前に出たのはアルス。皆の視線など気にせず、自分に言い聞かせるように真っ直ぐと言い放つ。
「オレは二度とあの悲劇を起こさない。イレイサーを……いや、未開錬金術をこの世から無くす!」
感嘆と称賛の声が湧く。悲劇の神童は絶望を自ら退けようというのだから。
そんな声もまた気にせずアルスは続ける。
「オレは自由な研究を望む。もしソレが叶うならば技術と資産を持つヘルメス家を希望する!」
歓喜は止み、皆がどよめく。
ヘルメス家は錬金術の祖を先祖に持つイスカンデレイアで一番の家系である。
アルスはそこに技と富を求めながらも、あくまでやり方は自身が決めると言ったのだ。
人によっては口にするのも恐ろしい事であった。
しかしヘルメス家の当主は何も言わず、ゆっくりとアルスの前まで歩く。
口元にのみ僅かな笑みを浮かべ、当主はアルスに手を差し出す。
「いいだろう。お主ならば自由にやろうとも我が家に……錬金術界に進歩をもたらすだろう」
数秒の間の後、誰かが手を叩く。それは間を置かずに大きな拍手へと鳴り変わる。
ソレが鳴り終わるのを待ってボルはもう一人の神童に目を向ける。
「キミア、お前はどうしたい」
問われたキミアは俯いたまま小さく呟く。
「ワタシも……二度とあの悲劇を起こしたくない」
少しの躊躇いの後、キミアは立ち上がる。
「ワタシは……」
「もう、錬金術なんて使わない!」
青年の名前はゲン。メディ家に居候している錬金薬学師である。
目の前にあるのはこの村の神が住む建物、集会などは此処で行われており、今日も臨時ではあるがソレである。
「どーもー」
ゲンが集会室に入ると視線が集まる。決して好意的なものではなく、「お前が何故来た?」という否定的な視線である。
「いつものことだ、気にしても仕方ない」そんな事を考えながらゲンは一番後ろに座る。
メディ家はイスカンデレイアで唯一錬金術ではなく錬金薬学を専門とする家系である。
端的に言ってしまえば異端。こういう目を向けられるのはいつもの事である。
そもそもメディ家は集会に顔を出す事が少ない。しかし今回ばかりは参加せざるを得ないだろう。
なんたって____村の危機である。
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正確には村の錬金術の危機。ゲンとは直接関係のない話だ。
原因は聞くまでもなく数日前のイレイサー事件。土砂に飲み込まれるのは免れたが優秀な錬金術師をほぼ全て失ってしまったのだ。
唯一の希望は生き残った二人の天才。今日の集会テーマは二人の行く末である。
神様である子供ケイタと猫のボルが奥から出てきて全員を見渡す。
「全員集まっているな……始めるとしよう」
口を開いたのは猫であるボル、初めて見たときは驚いたゲンだったが数年経った今では疑問を持たず受け入れている。
「まず最初に当人の意思を確認したい。アルス、キミア、二人は何処に進む事を望む?」
そう問われて前に出たのはアルス。皆の視線など気にせず、自分に言い聞かせるように真っ直ぐと言い放つ。
「オレは二度とあの悲劇を起こさない。イレイサーを……いや、未開錬金術をこの世から無くす!」
感嘆と称賛の声が湧く。悲劇の神童は絶望を自ら退けようというのだから。
そんな声もまた気にせずアルスは続ける。
「オレは自由な研究を望む。もしソレが叶うならば技術と資産を持つヘルメス家を希望する!」
歓喜は止み、皆がどよめく。
ヘルメス家は錬金術の祖を先祖に持つイスカンデレイアで一番の家系である。
アルスはそこに技と富を求めながらも、あくまでやり方は自身が決めると言ったのだ。
人によっては口にするのも恐ろしい事であった。
しかしヘルメス家の当主は何も言わず、ゆっくりとアルスの前まで歩く。
口元にのみ僅かな笑みを浮かべ、当主はアルスに手を差し出す。
「いいだろう。お主ならば自由にやろうとも我が家に……錬金術界に進歩をもたらすだろう」
数秒の間の後、誰かが手を叩く。それは間を置かずに大きな拍手へと鳴り変わる。
ソレが鳴り終わるのを待ってボルはもう一人の神童に目を向ける。
「キミア、お前はどうしたい」
問われたキミアは俯いたまま小さく呟く。
「ワタシも……二度とあの悲劇を起こしたくない」
少しの躊躇いの後、キミアは立ち上がる。
「ワタシは……」
「もう、錬金術なんて使わない!」
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