錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
172 / 199
錬金薬学のはじめ『終わりと始まりの物語』

とある錬金術師のエピローグ

しおりを挟む
 錬金術発祥の地『イスカンデレイア』
 山に囲まれたその小さな村は存亡の危機に瀕していた。
 数日続いた大雨の影響で山の地盤が緩み、土砂崩れ寸前まで迫っていたのである。
 村民は話し合い、以前より建築されていた防護壁を錬金術を用いて完成させる事となった。

「お前は緊張とかしなさそうだな」
 キミアは隣にいる親友アルス・マグナにそう話しかける。彼は「そうでもない」といいながらも自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 村の存続をかけただけあって、ここに集まっているのは選ばれた精鋭のみである。
 知らない人が見れば場違いな子供、十四歳になるキミアとアルスも勿論選ばれた精鋭、イスカンデレイアでは二人の神童と呼ばれる程の才能の持ち主である。
「では、錬金を始める!」
 全員が決められた配置につく。キミアとアルスは最後方、目の前にはそれぞれの両親が立っている。

 錬金が始まる。鉱物の分解、強度の強化、建造物との合成。それが何度も繰り返えされていく。
 誰一人として手元を狂わせる事なく、方法も、錬金も、全てが最良であった。
 誰のせいでもない、ただその錬金は偶然『世界に触れてしまった』

「ま、まず____!」
 リーダーの言葉は途中で当人と共に分解された。先頭にいた者たちはソレを認識する間もなく巻き込まれていく。
「……なんだ?」
 錬金術に大きな揺らぎを感じ取ったキミアは視界をエルフの物へと変える。
 何も見えなかった。ただ何かが前にいる人々を消し去っていくのだけは理解できた。
 迫りくる死を見て、キミアは思い出す。
 なぜ起きるかは分からないが観測はされている未開錬金術。
 錬金術の暴走____通称『イレイサー』
 あらゆる物を分解する災害のようなもので、飽和量を超えるまで止まらないという。


 死にたくない

 その言葉は恐怖が口を埋めて出てこない。
「……!」
 そんなキミアの頭の上に手が乗せられた。
「かあ……さん」
 母親の手の温もりを感じながら、キミアは生を諦めて目を閉じた。

 *

 数秒、いや数分たっただろうか。死の間際で時間間隔がズレたのかと思ったがそうではないらしい。
 恐る恐るキミアは目を開ける。
「……あ」
 全てが無くなっていた。崩れそうな土砂も、ソレを支えようとする建造物も、錬金術を行使していた村の人も、そして……少し前まで目の前にいた両親も頭の上の掌を残して消えていた。
「ああ……」
 小さな声を皮切りに隣からアルスの叫び声が聞こえた。言葉も出ない中、ようやくキミアは全てを失った事を理解した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

飛んで火に入れば偽装結婚!?

篠原 皐月
ファンタジー
父の死去により、異母弟の伯爵家相続を認めて貰えるよう、関係各所に働きかけて奔走するセレナ。親戚の横槍を受けつつも奮闘していた彼女だったが、父の遺言通り王太子に助力を願った事がきっかけで、彼が王族の籍を抜けてセレナと結婚し、彼女の弟の後見人となる事に。それは忽ち周囲に憶測とトラブルを発生させ、セレナは頭を抱えたが、最大限の問題は王太子クライブ殿下その人だった。 結局彼女はクライブと偽装結婚の契約をして、弟が正式な当主になるまで秘密を守る事を誓ったが、トラブルは次々とやって来て……。セレナの弟の爵位継承までのあれこれ、偽装未亡人(?)になった後の、新たな紆余曲折の恋の行方を描きます。 カクヨム、小説家になろうからの転載作品です。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話

三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。 探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。 そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。 ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。   世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。 それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。 彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。 ※全然フィクション

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

処理中です...