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キメラ・ハウスからの脱出劇
御内隆也に出来ること
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「ほう、一人を犠牲にして来たか」
「違う。俺たちは先に来ただけだ」
言葉を否定して俺とアルはアナグマの前に立つ。
アナグマの両隣には俺たちを警戒している男がいる。先生が相手をしているのより身体は細いが……
「あいつら隙がない。なんか武道でもしてるぞ」
「だよな……」
「お前たちが奪いに来た獣人はこの後ろにいる。助けたければオレ達を倒してみせな」
アナグマ達の後ろには大きなカーテンがある。その先にヒメユリがいるのだろう。
数分の睨み合いの後、アナグマが二人の男を一歩下げさせた。
「なあ青年、交渉をしないか?」
視線は俺に向けられている。
「交渉?」
「ああ、お前の隣にいる嬢ちゃんを差し出してくれないか? そうすりゃあお前は見逃すし金もやる。一生働いても届かない程のモノをな」
「……嬢ちゃん?」
思わずアルの方を見る。
「やっぱ気づいてなかったのか、このトンチキ」
まじか、色々と思う事はあるが……そんな場合じゃない。アナグマに視線を戻す。
「金もらって仲間になれって? ふざけんな」
「金では不満か、なら女はどうだ? 歳下の若い方がいいだろう……そうだ、ちょうど若美人が手に入っていた」
アナグマがポケットから取り出した写真を見て、頭が真っ白になる。
「足が不自由だからお前がどんな危ない趣味だろうと逃げ出せやしないぜ? どうだ?」
猫の髪留めで片方に纏められた綺麗な黒髪にお気に入りのチョーカー。目は大きくその奥には強い信念が宿っている。抱きしめたら折れてしまいそうに華奢な身体は車椅子の上に収まって……
それは、その写真に写っていたのは彼女であった。何故ここにいるのかは検討もつかないが間違いない。
彼女だけは見間違う事がない。
頭より先に身体が動くとはこういう事である。真っ白だった頭に理性が戻った時にはもう走り出していた。
「ふっざけんなぁ!」
ふるった拳はアナグマに届く前に男に防がれる。そのまま腕を取られ、動きを封じられた。
「なんだ? 知り合いだったか? なんにせよ交渉は決裂か。じゃあじゅうじ……」
アナグマの言葉はそこで止まる。俺の動きを封じていた男がぶっ飛んで壁に叩きつけられた。
「立て、タカ!」
男を飛ばしたアルが俺の襟を持ってアナグマと逆方向、扉の方へと投げる。
「すまん、助かった」
「早く立って前を向けよ! 向こうはもう来てるぜ!」
アルに飛ばされた男が立ち上がり、雄叫びをあげる。
「獣人に怪我はさせるな……いけ」
アナグマの言葉を機に、戦いの幕は開いた。
*
「こんの、ちょこまかと!」
アルの方はやり合ってるらしいが、俺の方は何もできていない。ただただ避けているだけである。
マンドレイクやら猪やらキメラやらに襲われていたせいか避ける技術だけはある。……しかし反撃の手が全くない。
このままでは俺の体力が尽きて終わりだし……何よりアナグマが手を出してきたら速攻で捕まる。
「俺に……何ができる」
特殊な武道を嗜んでるわけでもなく運動神経も高くない。コカナシのように隙を突く事も、先生のように特殊な戦い方もできない。
唯一武器となるのはアデルのストックボックスだが……使えるのは一度きり、外したら終わりだ。
そんな俺が唯一出来るのは錬金術。だが……素材も時間もない。
毒となる薬草でもあれば先生の真似事が出来たが……何もない。
ここには、何も……
「…………」
男の攻撃から逃げ続け、アルと背中合わせになる。
「アル、少し時間を稼げるか」
「策があるんだな?」
「成功……というか可能かすらわからない。賭けのような策ならある」
「じゃあ……乗った」
瞬間、身体が浮いた。アルに蹴られたのだ。
「え、なんで……」
あまりの出来事に男達も手を止めている。
「タカ、お前はあの写真の人を助けにいけ……ここはオレがやる」
「え、いや……それは」
否定しかけて気づく。これは演技だ。
「いいから行け!」
アルの叫び声を合図に俺は走る。追いかけてきた男をアルが邪魔しているのを視界の端に、扉を開けて外にでた。
*
時間がない。扉を閉めてすぐにネックレスを外した。
付いているのは欠けた指輪。その錬金石だけを取り外す。
「……やるしかない」
唾液で口と喉を潤し上を向く。
大きく口を開け、指を離す。そのまま……錬金石を飲み込んだ。
「違う。俺たちは先に来ただけだ」
言葉を否定して俺とアルはアナグマの前に立つ。
アナグマの両隣には俺たちを警戒している男がいる。先生が相手をしているのより身体は細いが……
「あいつら隙がない。なんか武道でもしてるぞ」
「だよな……」
「お前たちが奪いに来た獣人はこの後ろにいる。助けたければオレ達を倒してみせな」
アナグマ達の後ろには大きなカーテンがある。その先にヒメユリがいるのだろう。
数分の睨み合いの後、アナグマが二人の男を一歩下げさせた。
「なあ青年、交渉をしないか?」
視線は俺に向けられている。
「交渉?」
「ああ、お前の隣にいる嬢ちゃんを差し出してくれないか? そうすりゃあお前は見逃すし金もやる。一生働いても届かない程のモノをな」
「……嬢ちゃん?」
思わずアルの方を見る。
「やっぱ気づいてなかったのか、このトンチキ」
まじか、色々と思う事はあるが……そんな場合じゃない。アナグマに視線を戻す。
「金もらって仲間になれって? ふざけんな」
「金では不満か、なら女はどうだ? 歳下の若い方がいいだろう……そうだ、ちょうど若美人が手に入っていた」
アナグマがポケットから取り出した写真を見て、頭が真っ白になる。
「足が不自由だからお前がどんな危ない趣味だろうと逃げ出せやしないぜ? どうだ?」
猫の髪留めで片方に纏められた綺麗な黒髪にお気に入りのチョーカー。目は大きくその奥には強い信念が宿っている。抱きしめたら折れてしまいそうに華奢な身体は車椅子の上に収まって……
それは、その写真に写っていたのは彼女であった。何故ここにいるのかは検討もつかないが間違いない。
彼女だけは見間違う事がない。
頭より先に身体が動くとはこういう事である。真っ白だった頭に理性が戻った時にはもう走り出していた。
「ふっざけんなぁ!」
ふるった拳はアナグマに届く前に男に防がれる。そのまま腕を取られ、動きを封じられた。
「なんだ? 知り合いだったか? なんにせよ交渉は決裂か。じゃあじゅうじ……」
アナグマの言葉はそこで止まる。俺の動きを封じていた男がぶっ飛んで壁に叩きつけられた。
「立て、タカ!」
男を飛ばしたアルが俺の襟を持ってアナグマと逆方向、扉の方へと投げる。
「すまん、助かった」
「早く立って前を向けよ! 向こうはもう来てるぜ!」
アルに飛ばされた男が立ち上がり、雄叫びをあげる。
「獣人に怪我はさせるな……いけ」
アナグマの言葉を機に、戦いの幕は開いた。
*
「こんの、ちょこまかと!」
アルの方はやり合ってるらしいが、俺の方は何もできていない。ただただ避けているだけである。
マンドレイクやら猪やらキメラやらに襲われていたせいか避ける技術だけはある。……しかし反撃の手が全くない。
このままでは俺の体力が尽きて終わりだし……何よりアナグマが手を出してきたら速攻で捕まる。
「俺に……何ができる」
特殊な武道を嗜んでるわけでもなく運動神経も高くない。コカナシのように隙を突く事も、先生のように特殊な戦い方もできない。
唯一武器となるのはアデルのストックボックスだが……使えるのは一度きり、外したら終わりだ。
そんな俺が唯一出来るのは錬金術。だが……素材も時間もない。
毒となる薬草でもあれば先生の真似事が出来たが……何もない。
ここには、何も……
「…………」
男の攻撃から逃げ続け、アルと背中合わせになる。
「アル、少し時間を稼げるか」
「策があるんだな?」
「成功……というか可能かすらわからない。賭けのような策ならある」
「じゃあ……乗った」
瞬間、身体が浮いた。アルに蹴られたのだ。
「え、なんで……」
あまりの出来事に男達も手を止めている。
「タカ、お前はあの写真の人を助けにいけ……ここはオレがやる」
「え、いや……それは」
否定しかけて気づく。これは演技だ。
「いいから行け!」
アルの叫び声を合図に俺は走る。追いかけてきた男をアルが邪魔しているのを視界の端に、扉を開けて外にでた。
*
時間がない。扉を閉めてすぐにネックレスを外した。
付いているのは欠けた指輪。その錬金石だけを取り外す。
「……やるしかない」
唾液で口と喉を潤し上を向く。
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