錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
37 / 199
資格試験と焦がれるあべこべ

落ち着く喧騒の中で

しおりを挟む
「…………」
 あの後語られたであろうコカナシの話の内容はわからない。
 あれは聞くべき話ではない。さっき言った裏事情というやつだ。
 必要な事であればコカナシがいつか教えてくれるのだろう。
 ともかく俺は盗み聞きをやめて部屋に戻っていた。
「…………ん?」
 PHSが尻の下で振動した。画面にはコカナシの文字が映し出されている。
 どうやらこのPHSはメール機能がついているようだ。

『お休みかもしれないのでこちらで報告します。
 ローラさんから愛のこもった証言を頂きました! さらに驚きの真実まで!
 タカの方はどうですか? できれば明日どこか食事をしながらでも進歩状況を聞きたいです』

 文だけ抜き出したがそのメールにはところどころ絵文字が挟まれていていかにも女性が書いたという感じだ。
 時々忘れそうになるがコカナシの方が二歳ほど年上なのだ。
「食事をしながら、か……」
 俺は少し考えた後コカナシにメールを送った。

 *

「なかなか騒がしいすね」
 翌日の夜、コカナシを連れてきたのはヴァルクールさんと来た居酒屋だ。今日はもちろん奥の密室ではない。
「こういうとこは嫌いだったか?」
「いえ、最近は上品な食事ばかりだったので逆に落ち着きますね」
 コカナシは席に着いて小さく笑う。
「キミア様ともよくこういうところで飲みましたよ」
「先生はこういう騒がしいところは苦手だと思ってた」
「私もキミア様も元々は苦手でしたけど……最終的には楽しんでいましたよ」
「……ってことは誰かに連れてこられて?」
「まあ、そんな感じですね」
 注文を取りに来た店員を見てコカナシが話を止める。コカナシが幾つか注文をすると店員が手を止めてコカナシの方を見る。
「すいませんが年齢の確認を……」
「ああ、忘れていました」
 コカナシが机の上にカードのようなものを出す。店員はソレを見て
「はい、注文受けたまりました」と下がって行った。
「それ何?」
「成人証明書です。小人族は成人したことが分かりにくいですから」
 俺が納得したところで店員がお通しと酒が運ばれてきた。さすがこういう店は早いな。
「通しは枝豆か」
「タカの生ビールに合いますね」
「…………」
 勝手に飲むなよ。
 コカナシからビールを取り返して飲み始める。やはり俺もこっちの雰囲気が性に合う。
「さて、こちらの成果から発表していいですか?」
「おう」
 まあ、知ってるんだけどな。

 *

 コカナシの後俺も成果を発表した。
 コカナシは何杯目かの酒……カルーアミルクを飲んで嬉しそうに笑う。
「では、相思相愛ということですね!」
「そうだけど……テンション高いな」
「酔っていますから」
「自覚してるならまだ余裕だな」
 コカナシは酔うとテンションが上がるタイプなのか、それともただ恋の話に対してなのか……ちなみに俺は酔うと口数が増えるらしい。どうやら思った事がすぐ口に出るタイプらしい。
「で、コカナシとしては二人を結婚させたいわけだよな」
「結婚とまでは言いませんが……ローラさんの事を考えるとそうなりますね」
 コカナシはから揚げを食べて俺のハイボールを飲む。
「この組み合わせはいいですね」
「確かにこのから揚げ肉の水分が残ってて美味いしハイボールも……」
 目線で訴える俺を無視してコカナシは咳払いをする。
「結婚相手が居ながら他の人に恋をしている……なかなか厄介ですね」
 それはローラさんから見た視点だ。
「男から見れば恋する人が結婚しそう……か」
 それだけを抜きだせばお約束のシチュエーションだ。ならばお約束の方法があるが……
「大企業同士の結婚なら警備も厳重だろうしなぁ」
「警備がどうにかなれば策があるのですか?」
「まあ……一応、な」
 しかし……
「警備をどうにかする策が浮かばん。式場に細工でもできれば……」
「話は聞かせてもらったな」
 突然視界に髭面が入ってきた。前にもこんなのあったな……っていうか
「ヨロズさんじゃないですか! なんか久しぶりですね」
「少し大きな仕事が入ってな」
 ヨロズさんは持っていた大ジョッキをあおってゲップをする
「改めて……話は聞かせてもらったな」
「なんだか自身満々ですね。なにか策でも?」
 コカナシの振りにヨロズさんはニヤリと笑う。
「警備を突破するための式場への細工……儂に任せてみるんだな」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

処理中です...