錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
27 / 199
資格試験と焦がれるあべこべ

宿探しは旅の途中で

しおりを挟む
 アルカロイドのバス停から一時間ほど行ったところに大きな駅があった。そこから数時間かけて、数回電車を乗り換えてようやく最後の乗り換えが終わった。
 二つ向かい合った二人乗り席に座っていると突然声をかけられた。
「失礼、こちらの席は使われておりませんでしょうか」
 話しかけてきたのは整った顔立ちの男性。なんだか執事のような服装をしていている。
「はい、空いてますよ。よかったらどうぞ」
「ありがとうございます……こちらにお座りください」
 男性が一歩後ろに下がると後ろから綺麗なドレスを着た女性が出てきてコカナシの横に座った。
「アウローラと申します、失礼しますね」
 アウローラと名乗った女性からあふれ出る気品になんとなく緊張してしまう。
「もしかしてレオポルトの嬢ちゃんかな」
 ヨロズさんの言葉にアウローラさんは少し驚いた後、執事の方に顔を向ける。
「こちらの方はお知り合いかしら」
 執事は眼鏡を上げ、ヨロズさんをまじまじと見つめた後に手を叩く。
「ああ、御父上がご贔屓にしている修理屋……いや、何でも屋のヨロズ様ですね」
「そーそー、ローラ嬢に会ったのは相当小さいころだっけな」
「いつもの作業服ではないのでわかりませんでしたよ、今日は仕事帰りで?」
「そーそー」
 世間話を始めた二人を見てヨロズさんに興味をなくしたのかアウローラさんは俺に目を向けた。
「貴方たちは旅行かしら?」
「い、いえ。薬剤師の資格試験に」
 緊張して声が上ずってしまう。
「ツェットで行われている資格試験は多いですからね……で、貴女は」
 コカナシに鋭いまなざしが向けられる。
「私は付き添いで……」
「貴女の名前は?」
「コカナシです」
「へえ、コカナシっていうの……」
 アウローラさんはコカナシから視線をはずさない。それはまるで獲物を狙う鳥のような眼だ。
「貴女を探していたわ」
「え……わわ!」
 アウローラさんがコカナシの肩を持つ。まさかアルス関係の……
 俺が動くより先にアウローラさんはコカナシを抱きしめて声を上げた。
「わたくしは貴女のような小さくて可愛らしい子が妹に欲しかったのよー!」
「……は?」
「ねーコカナシちゃん。わたくしの妹になっちゃいなさい、それがいいわ!」
 もがいて抵抗してやっと大きな胸から解放されたコカナシはアウローラさんから離れる
「失礼ですがアウローラさんは今おいくつですか?」
「もうすぐ十八になります」
 その言葉にコカナシはため息をつく。
「私はこれでも二十四です」
「あら、年上だったのね……でもいいわ!」
「よくありません、心に決めた人を家に置いてきていますので」
「そう、なの……」
 アウローラさんは少し落ち込んだ後、滑空するかのようにテンションを上げてきた。
「薬剤師の試験は確か一週間後くらいよね、宿はもう決めているのかしら?」
「いえ、まだ……」
「じゃあわたくしの家に来なさいな、ついでにそっちの貴方もついてきなさい」
「は、はあ……」
 宿代が浮くからいいのだが……コカナシはどうなのだろう
「あの、よろしいのですか?」
 迷っている様子のコカナシは判断を執事にゆだねたようだ
「えっと……なんでしょうか」
 執事はヨロズさんとの話を中断してコカナシから説明を受ける。
「二人なら問題ないでしょう。私が手配しておきます」
「さすがルークね! 褒めてあげるわ」
 そういってテンションの上がったアウローラさんは執事を軽く蹴った。
「ありがとうございます……私は執事のヴァルクールと申します」
「改めてわたくしはアウローラ・レオポルト、ローラって呼んでちょうだい。よろしくね!」
 ローラさんはそう言って笑顔を浮かべ、一瞬の隙をついてコカナシに抱き着いた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

有象無象の無限世界

❄️冬は つとめて
ファンタジー
転移でわなく、転生でもなく。 えっ!? 俺って・・・。 初めて、書いた話です。取りあえず、旅立ちました。 続きは、だらだら書いてます。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...