24 / 199
森に潜みし錬金の欠片
隠蔽された錬金術師
しおりを挟む
「…………ん」
何かのいい香りに腹の虫が騒ぎ、俺は目を覚ました。
「見たことの……ある天井だ」
と、いうか俺の自室だ。まだ少し眠気が残っているがゆっくりと起き上がる。
「起きましたか」
ドアが開いてコカナシが入ってきた。いつもの表情ってことは……
「先生は無事なんだな」
「はい、元気に食事をしています」
「先生が俺を運んできたのか?」
コカナシはかぶりを振る。
「いえ、運んできたのは……」
「僕だよ! 同志タカ!」
「なんでアデル?」
「心外だな、Mr.シャーリィから一報を受けたのだよ」
「キミアさんからミズナギドリでの報告があったので彼と一緒に森へ向かったのです」
そう言いながら入ってきたシャーリィさんは自然な動作で触診を始めた。
「……問題なさそうですね、怪我も大したことはありません」
「なら遠慮の必要はありませんね」
シャーリィさんを押しのけてコカナシが俺の前に立つ。
「何があったのか教えてもらいましょうか」
「え……っと」
「キメラの調査に行ったら襲われた。キメラは勉強不足の錬金術師のなりそこないが作っていたものだった……そうだな? タカ」
骨付き肉をほおばりながら先生が俺にアイコンタクトを送る。
「そういうことだコカナシ」
俺が言うとコカナシは先生の方を向いて頬を膨らます。
「キミア様……本当ですか?」
「本当だって、なあタカ」
「おう、本当だぞ」
「ならいいのですが……」
納得していない様子のコカナシはため息をついて俺から離れ……
「いや、よくないです」
「え?」
「キミア様が怪我をしているということです! タカ、あなたは護身術とかを勉強すべきです!」
「いやいや、今の俺にそんな暇は……」
「言語道断です! 今のタカなんて私ですら倒せそうですし」
それはいいすぎじゃ……いや、あながち間違いでもないか。
「その沈黙は認めたということですね? では勉強を……」
「まったまったコカナシちゃん、一応タカも目覚めたばかりだし……ね?」
オーバーヒートしかけたコカナシをアデルが止める。
「……少し暴走しました、すいません」
「いや、いいけど」
少し暴走ね……少し、か?
どうもコカナシは先生の事になると暴走する節があるな。
「食欲があるなら食事を用意してあります。キミア様はもっと私の手料理を食べて褒めてください!」
あと俺たちに対するのと先生に対するのとでは態度が違いすぎる。俺たちに対するときは大人びている……いや、年相応な感じなのだが……先生に対しては違う。
最初は慕っているのだと思っていたのだが、今のように少しわがままみたいなことを言ってみたり。例えるなら……
「食欲はないかい?」
アデルの声で思考が途切れる。俺は伸びをして立ち上がる。
「いや、食う。行こう」
*
翌日、さすがに今日は資格勉強も休みらしい。
先生は朝食を済ませてから自室にこもりっぱなしだ。例のキメラについて調べているのだろうか。
そんな事を考えていると先生の部屋の扉が開いた。
「珈琲を……ん? コカナシは買い物か」
「はい、ちょうど今行きました。入れましょうか?」
「頼む……ついでにお前の分も入れてこい」
俺は首をかしげる。コカナシがお菓子を用意したわけでもないし……
そんな俺の様子を見てか先生は言葉を付け加えた。
「森での事で話がある。お前の部屋で話そう」
珈琲を持って自室に入る。先生がベッドに座っていたので俺は勉強机の椅子に座る。
「森の事で話ってアルスのことですか?」
「まあ、そうなるな」
「コカナシに嘘をついた理由も聞かせてもらえるんですね」
「時間もないから端的に、要点だけまとめて話すぞ」
先生はブラックのまま珈琲をすすり、話し始める。
「まず最初に、アルス・マグナは異常な錬金術師だ」
「えっと……はい」
錬金術師というのは知っている。アルスの錬金術を目の前で見たのだから。でも……異常?
「簡単にいうならマッドアルケミストと言ったところだな、錬金術の発展のためならば手段を選ばない奴だ」
先生は少し迷うようなそぶりをみせた後、言いにくそうに口を開く。
「前にコカナシは謎の感染症が流行った時に私が助けて引き取ったと言ったな」
「そういえば……そうでしたね」
「アレは嘘だ」
「え!?」
驚いて珈琲をこぼしそうになる。
「助けて引き取ったのも、助かったのがコカナシ一人だというのは本当だ。ただ……原因は謎の感染症なんかじゃない。コカナシの村の村民はアルスの実験に巻き込まれたんだ」
「そんな……」
「実験に巻き込まれた村民の殆どが即死だった……その先はさっき話した通りだ」
先生が助けて引き取った、と。
「じゃあコカナシが恐怖心を抱かないようにアルスの名を伏せたってことですか?」
「それもある」
「それも?」
「コカナシは巨人と小人のハーフ、これは結構珍しいことだ」
マッドアルケミストに希少な人間。その組み合わせが行き着く先なんて容易に想像できる。
「アルスがコカナシを狙っているってことですか」
「その通りだ……と、話はこんなものだな」
先生が立ち上がって勉強机から教材とノートを取り出して置いた。
「ほら、持て」
先生は俺にペンを渡して先生用の教材を開く。
「次は六十七ページ」
訳が分からないまま教材を開いた瞬間、玄関の扉が開く音と共にコカナシの声が聞こえてきた。
「今帰りましたー」
先生はコカナシが帰ってくるタイミングを読んでいたのだ。
「なるほど……」
俺が呟くと先生は人差し指を一瞬だけ口に当てた。
「今の話は秘密ってことですか」
俺は小さく呟いて、勉強をしているフリをはじめた。
何かのいい香りに腹の虫が騒ぎ、俺は目を覚ました。
「見たことの……ある天井だ」
と、いうか俺の自室だ。まだ少し眠気が残っているがゆっくりと起き上がる。
「起きましたか」
ドアが開いてコカナシが入ってきた。いつもの表情ってことは……
「先生は無事なんだな」
「はい、元気に食事をしています」
「先生が俺を運んできたのか?」
コカナシはかぶりを振る。
「いえ、運んできたのは……」
「僕だよ! 同志タカ!」
「なんでアデル?」
「心外だな、Mr.シャーリィから一報を受けたのだよ」
「キミアさんからミズナギドリでの報告があったので彼と一緒に森へ向かったのです」
そう言いながら入ってきたシャーリィさんは自然な動作で触診を始めた。
「……問題なさそうですね、怪我も大したことはありません」
「なら遠慮の必要はありませんね」
シャーリィさんを押しのけてコカナシが俺の前に立つ。
「何があったのか教えてもらいましょうか」
「え……っと」
「キメラの調査に行ったら襲われた。キメラは勉強不足の錬金術師のなりそこないが作っていたものだった……そうだな? タカ」
骨付き肉をほおばりながら先生が俺にアイコンタクトを送る。
「そういうことだコカナシ」
俺が言うとコカナシは先生の方を向いて頬を膨らます。
「キミア様……本当ですか?」
「本当だって、なあタカ」
「おう、本当だぞ」
「ならいいのですが……」
納得していない様子のコカナシはため息をついて俺から離れ……
「いや、よくないです」
「え?」
「キミア様が怪我をしているということです! タカ、あなたは護身術とかを勉強すべきです!」
「いやいや、今の俺にそんな暇は……」
「言語道断です! 今のタカなんて私ですら倒せそうですし」
それはいいすぎじゃ……いや、あながち間違いでもないか。
「その沈黙は認めたということですね? では勉強を……」
「まったまったコカナシちゃん、一応タカも目覚めたばかりだし……ね?」
オーバーヒートしかけたコカナシをアデルが止める。
「……少し暴走しました、すいません」
「いや、いいけど」
少し暴走ね……少し、か?
どうもコカナシは先生の事になると暴走する節があるな。
「食欲があるなら食事を用意してあります。キミア様はもっと私の手料理を食べて褒めてください!」
あと俺たちに対するのと先生に対するのとでは態度が違いすぎる。俺たちに対するときは大人びている……いや、年相応な感じなのだが……先生に対しては違う。
最初は慕っているのだと思っていたのだが、今のように少しわがままみたいなことを言ってみたり。例えるなら……
「食欲はないかい?」
アデルの声で思考が途切れる。俺は伸びをして立ち上がる。
「いや、食う。行こう」
*
翌日、さすがに今日は資格勉強も休みらしい。
先生は朝食を済ませてから自室にこもりっぱなしだ。例のキメラについて調べているのだろうか。
そんな事を考えていると先生の部屋の扉が開いた。
「珈琲を……ん? コカナシは買い物か」
「はい、ちょうど今行きました。入れましょうか?」
「頼む……ついでにお前の分も入れてこい」
俺は首をかしげる。コカナシがお菓子を用意したわけでもないし……
そんな俺の様子を見てか先生は言葉を付け加えた。
「森での事で話がある。お前の部屋で話そう」
珈琲を持って自室に入る。先生がベッドに座っていたので俺は勉強机の椅子に座る。
「森の事で話ってアルスのことですか?」
「まあ、そうなるな」
「コカナシに嘘をついた理由も聞かせてもらえるんですね」
「時間もないから端的に、要点だけまとめて話すぞ」
先生はブラックのまま珈琲をすすり、話し始める。
「まず最初に、アルス・マグナは異常な錬金術師だ」
「えっと……はい」
錬金術師というのは知っている。アルスの錬金術を目の前で見たのだから。でも……異常?
「簡単にいうならマッドアルケミストと言ったところだな、錬金術の発展のためならば手段を選ばない奴だ」
先生は少し迷うようなそぶりをみせた後、言いにくそうに口を開く。
「前にコカナシは謎の感染症が流行った時に私が助けて引き取ったと言ったな」
「そういえば……そうでしたね」
「アレは嘘だ」
「え!?」
驚いて珈琲をこぼしそうになる。
「助けて引き取ったのも、助かったのがコカナシ一人だというのは本当だ。ただ……原因は謎の感染症なんかじゃない。コカナシの村の村民はアルスの実験に巻き込まれたんだ」
「そんな……」
「実験に巻き込まれた村民の殆どが即死だった……その先はさっき話した通りだ」
先生が助けて引き取った、と。
「じゃあコカナシが恐怖心を抱かないようにアルスの名を伏せたってことですか?」
「それもある」
「それも?」
「コカナシは巨人と小人のハーフ、これは結構珍しいことだ」
マッドアルケミストに希少な人間。その組み合わせが行き着く先なんて容易に想像できる。
「アルスがコカナシを狙っているってことですか」
「その通りだ……と、話はこんなものだな」
先生が立ち上がって勉強机から教材とノートを取り出して置いた。
「ほら、持て」
先生は俺にペンを渡して先生用の教材を開く。
「次は六十七ページ」
訳が分からないまま教材を開いた瞬間、玄関の扉が開く音と共にコカナシの声が聞こえてきた。
「今帰りましたー」
先生はコカナシが帰ってくるタイミングを読んでいたのだ。
「なるほど……」
俺が呟くと先生は人差し指を一瞬だけ口に当てた。
「今の話は秘密ってことですか」
俺は小さく呟いて、勉強をしているフリをはじめた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ダイサリィ・アームズ&アーマー営業日誌〜お客様は神様ですが、クレーマーは疫病神です!〜
朽縄咲良
ファンタジー
エオギウス大陸の南部に栄えるガイリア王国の首都ハルマイラ。
その城下町の一角に店を構える武器防具修理工房『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の、見目麗しい代表取締役兼工房長マイス・L・ダイサリィは、お客様の笑顔と安全と、何より愛する自分の店を守る為、笑顔と愛嬌を以て日々の営業に勤しんでいる。
――だが、たまには、招かれざる客(クレーマー)も現れる。そんな時には、彼女のもう一つの顔が表に出るのだ――。
これは、うら若く美しく、たまに鬼と化す、一人の美人工房長、そして、そんな彼女に振り回され、翻弄され続ける哀れな社員の若者の奮闘記――かも?
*同内容を、小説になろう・ノベルアッププラスにも掲載しております。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる