錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

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森に潜みし錬金の欠片

意味深な一報、無き一報

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 キメラとの遭遇から十日ほどがすぎ、薬剤師資格に向けての勉強の毎日が続いていた。
「今回はここまでにしましょう」
 シャーリィさんが本を閉じる。今日の座学はおしまい、次は……
「座学は終わったか? タカ」
 ドアを開けて顔を覗かせてきた先生による錬金薬学の実技だ。
「はい、もうすぐ資格試験の範囲内は終わるでしょう」
「では、あとは私が実技をみっちり教えてやろう。このサンドイッチを食い終わったらな」
 パンを咥えて準備に取り掛かろうとした先生をシャーリィさんが呼び止める。
 シャーリィさんが何やら耳打ちをし、先生が険しい顔で答えている。
 なんだか近づきがたいその話は十分程続いた後、先生が用意しかけた教材を片付け始めた事で終わりを告げた。シャーリィさんが帰ると同時に先生は俺に目を向ける。
「今日の実技は中止だ」
「え……?」
 俺が理由を聞く暇も与えず先生は部屋を出て固定電話の受話器を取る。
 この世界は携帯電話こそないものの固定電話は普及しているようだ。
 しかし先生が電話を使うことは殆どなく、受話器を持ったのを見るのは初めてだ。つまりシャーリィさんとの会話にはそれほど重要だったものが含まれていたということになる。
「コカナシはいるか? ……いや、帰さなくていい。むしろそこにいてくれた方がいい」
 コカナシは服屋に行くと言っていたから電話の相手はセルロースさんだろう。
「とりあえずコカナシを引き留めておいてくれ。私が言ったということは伝えずに、だ」
 受話器を置いた先生は険しい顔つきのまま外出の準備を始める。
「少し出てくる、お前はここから出るな。コカナシはセルロースのところにいる」
「あの、どこに行くんですか?」
「野暮用だ」
 それ以上の質問は許さないとばかりに咳払いをした先生は机に置いてあったサンドイッチを一つ口にくわえ、いくつかの薬品をウエストポーチにいれて出て行った。
「…………」
 静かになった家の中、午後四時を告げる時計の音だけが響き渡っていた。

 *

「……腹減ったな」
 先生が出て行ってどれくらいの時間が経っただろう。先生が何をしに行ったかは気になるが、出るなというのにはそれなりの理由があるのだろう。
 読み終えた教科書を本棚に戻して次のものを吟味していると電話が鳴りだした。形は知っているものとずいぶん違うが仕組みは似たようなものだ。俺は受話器を取る。
『ごめん! コカナシちゃん帰っちゃった!』
 セルロースさんの言葉を理解した瞬間、玄関の扉が勢いよく開いた。
「ごめんなさい! 今すぐ晩御飯をつくりま……あれ?」
「……おかえり」
 入ってきたコカナシに見えないように受話器を置く。
「タカ、キミア様は?」
「えっと……野暮用?」
 いつの間にか辺りは暗くなっており、時計が午後七時を告げた。
「こんな時間にでかけているのですか?」
「そう、みたい」
「服屋には何度も一人で行っていますがここまで引き留められたのは初めてです。不自然です」
 コカナシがゆっくりと近づいてくる。
「夕食の時間になっても帰らないとき、キミア様は必ず一報を入れます。それがないのも不自然です」
 コカナシの小さい体が大きくなったような錯覚に陥る。それほどの何かをもってコカナシは俺の目を見つめる。
「キミア様は……どこに行ったのですか?」
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