錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
14 / 199
森に潜みし錬金の欠片

獣求めしは勝利へのヒント

しおりを挟む
 見える姿はケロベロス。その背中に生えているのはカラスの黒い羽。
 まさに魔物である。
「赤き火種よ、疾風の後押しにてその力を発揮せよ! 扉よ開け、疾風バーナー!」
 相も変わらず微妙なネーミングセンスと中二病を発揮したアデルが二つのストックボックスを開く。
 片方から風がもう一方から火が同時に飛び出し、ガスバーナーのようになって獣の方へ飛んでいく。
「セルロースさんは大丈夫ですか」
「傷はたいした事ないですね、しかし……」
 シャーリィさんがセルロースさんの腕についた切り傷を見る。
「あの獣の爪には毒があるみたいです。症状は動けないほどの神経麻痺に筋力低下……恐らくシナヒガンバナと同じ症状です。すぐに処置をしなければ後遺症が残るかもしれない」
 ここへ来る途中にもヒガンバナらしき花は咲いていた。それが爪についていたのか……いや、今はそれどころじゃない。
「解毒は出来るんですか」
「吸着草を使った簡単な吸着剤で応急処置ができます」
「吸着草ならさっき採取してある。Dr.シャーリィ、ここでその薬は作れるのか!」
「応急処置なら大丈夫です。幸いな事に材料も揃っています」
「僕とタカで獣を引き受ける。Dr.シャーリィはその薬を作ってくれ!」
 アデルの言葉にシャーリィさんは首を横に振る。
「すいません……今の……今の僕には作れません」
「どういう事ですか?」
「薬が……つくれないんですよ」
 そう言ってシャーリィさんは手袋をはずす。
「Dr.シャーリィ、それは……」
 シャーリィさんの手の甲は焼けただれたようになっていた。
「あの一件以来薬を作ろうとすると手が震えて」
 あの一件と言うのは先日の錬金薬の事だろう。
「今の僕には薬が作れないんです……だから」
 シャーリィさんは俺に目を向ける。
「君に頼めないだろうか、タカヤくん。そう難しい薬じゃない」
「……へ? 俺?」
「キミアから錬金に必要な物は持たされているんだろう? タカ」
 少し考えて意味を理解する。
「む、無理ですよ! 前の錬金は先生と一緒だったから出来ただけで……」
「タカしかいない……やってくれ」
「いや、俺には」
 少しの押し問答の後、痺れを切らしたようにアデルが大声を出す。
「こんな簡単な錬金さえも避けていて……そんな根性じゃあガールフレンドを助けられないぞ!」
 アデルがストックボックスを扱って獣を遠ざける。
「セルロースを抱えてあの獣から逃げるのは不可能に近い……だがタカの錬金は可能に近い……僕はそう思っている」
 絶対出来ると言わない言葉の選択。それは俺へのプレッシャーを少し軽くした。
「……ダメ元ですよ」
「すいません、お願いします」
 歯がゆそうにそう言ったシャーリィさんは立ち上がり
「加勢します。これでも護身術の心得があります」
 と、ヤギとウサギ用に渡されていた鉄棒を構えた。
「今回の錬金に適した材料だという事はこのアデル・セルピエンテが保証しよう!」
「錬金薬としてのレシピも間違いありません」
 それだけ言い残した二人は獣の方を向く。
 目の前にあるのは外用のビーカーといつもの混ぜ棒。
 ストックボックスを開いていつもの液体を入れる。
「……よし」
 アデルから受け取った吸着草、シャーリィさんから貰った他の薬草や薬の材料を液体に入れ、混ぜ棒で混ぜて溶かす。
 後は、錬金だ。
 シャーリィさんの錬金石があればよかったのだが、今は俺が持つ小さいものしかない。
 いや、違うな。これくらいの錬金はこの錬金石で出来なければ意味が無い。
 深呼吸をして錬金石をかざす。
 液体が光り、動き、錬金が始まる。
 光の加減に合わせて入れる体力を調整し、分解した素材を結合させていく。
「絶対に成功させてやる……」
 覚悟を呟きにした瞬間頭が切り替わった。
 今までに無い感覚、まるで俺自身が錬金されているような……
「いける……出来る!」
 そのまま俺は錬金に入っていき……
「タカヤさん! 歌です!」
 シャーリィさんの叫びで錬金から強制的に出された。内にいた錬金を外から見る。
「うわ!」
 液体の渦が激しくなり溢れそうなくらいになっていた。
 歌……ごはんの歌だ。
 俺はごはんの歌を呟きながらそれに沿って体力を入れ込む。
「赤子泣いても蓋取るな……!」
 体力の光が宙を舞い、液体の渦が無くなったと同時に錬金石の光が消える。
「出来た……シャーリィさん!」
 出来た薬をシャーリィさんに渡す。
「問題ない……と、思います」
「はい、このままでは苦すぎるので香料を入れて飲ませてください」
 言われた通りに香料を混ぜてセルロースさんに飲ませる。
「ん、身体が動く……」
「セルロースさん!」
 成功だ! 俺は錬金に成功したんだ!
「ありがとう……いや、おめでとう。タカヤくん」
「ありがとうございます、シャーリィさん」
「喜んでいる所悪いがお三方」
 アデルが俺たちの言葉を遮った。
「ストックボックスが残り一つとなってしまった」
「……え?」

 *

「火が当たったところで意に介さないのだ。あの獣は」
「火が効かないって事ですか?」
 アデルは頷いて続ける。
「しかし火を飛ばせば本能なのか避けはする。恐らく皮膚には耐火性があるが……内側には効くのだと思う」
 と、いう事は
「あの獣の不意を突いて口の中にでも火をブッ込めばいいのね」
 セルロースさんが少しよろめきながら立ち上がる。
「危ない!」
 それまで様子を見ていた獣がセルロースさんに襲いかかり、それをシャーリィさんが鉄棒で受け流す。
「この獣……シャーリィさんを」
「シャーリィ、何かしたのかい?」
「何もしてないわよ! こんなやつ見た事無い」
 何故シャーリィさんが狙われるのか。それを解決しないとここから逃げたとしても終わりにはならない。そんな気がする。
 今まで狙われたのはシャーリィさんとアンゴラヤギとアンゴラウサギ。なにか共通点が……?
 俺もアデルも鉄棒を構えているが、獣が狙うのはシャーリィさんばかりだ。
「シャーリィ、君はとりあえずその毛の中にでも隠れていたまえ」
「それ意味あるの?」
「あの獣に知能が無ければ目は隠せる。……恐らく知能はあるだろうがね」
「駄目じゃない。一応するけど」
 するんかい……ん?
「セルロースさん! 駄目です!」
 俺は叫んでセルロースさんから毛を取り上げる。
 取り上げた拍子に数本の毛の束が宙を舞い、獣がそれを目掛けて飛んできた。
 毛の束を口に咥えた獣は真っ直ぐと俺を見つめる。
「あまり不用意に動くな! 狙われるぞ!」
 違う、狙われているのは動いたからじゃない。
「アデル、ストックボックスを用意してくれ……あいつはこの毛を狙っている」
「了解だ!」
 アデルがストックボックスを取り出したのを見て毛の束を宙に投げる。
 獣は俺たちを無視して幾つかにわかれた毛の束を目で辿り、突進をした。
「お前が咥えるのはこっちだ!」
 アデルが毛の束を咥えようとした獣の口にストックボックスを突っ込む。
「扉よ開け……メラメラ!」
 耐火性の無い内側に火を喰らった獣は口や羽を燃やしてのたうち回り……息絶えた。
「……やったぞ」
 アデルがそう呟くと同時に皆は歓声をあげた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ

鏑木 うりこ
恋愛
 毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。  圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!  なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??  「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。 *ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。 *ご照覧いただけたら幸いです。 *深く考えないでいただけるともっと幸いです。 *作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。 *あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。  マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)  2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)  恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

ダイサリィ・アームズ&アーマー営業日誌〜お客様は神様ですが、クレーマーは疫病神です!〜

朽縄咲良
ファンタジー
エオギウス大陸の南部に栄えるガイリア王国の首都ハルマイラ。 その城下町の一角に店を構える武器防具修理工房『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の、見目麗しい代表取締役兼工房長マイス・L・ダイサリィは、お客様の笑顔と安全と、何より愛する自分の店を守る為、笑顔と愛嬌を以て日々の営業に勤しんでいる。 ――だが、たまには、招かれざる客(クレーマー)も現れる。そんな時には、彼女のもう一つの顔が表に出るのだ――。 これは、うら若く美しく、たまに鬼と化す、一人の美人工房長、そして、そんな彼女に振り回され、翻弄され続ける哀れな社員の若者の奮闘記――かも? *同内容を、小説になろう・ノベルアッププラスにも掲載しております。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...