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悪性に対する十戒とソウサク劇
昼下がりの少女
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村長やデュパンさんとの食事を終わらせ、わたし達は宿へと案内された。
この村から出られないのは残念だが無料で宿やご飯が頂けるのはとてもありがたい。
宿は木造の一軒家。二階の部屋を急遽民泊にしたらしい。
出迎えてくれたのは小人族の中でも小さな女の子、歳は分かりにくいが子供ではあるだろう。
「ゆっくりしていってください」
シエンシスと名乗ったその少女はディアンドルに似た衣装、そのスカートの端をつまんで頭を下げた。
「よろしくね」
うまく笑えただろうか? 心の奥に残る不安が出てしまっているように感じる。
いくら考えても答えは出ない。今は目の前の事を見るしかない。
シエンシスちゃんが扉を開く。
「では、中を案内しますね」
「冷蔵庫です。あまり入ってませんが自由に使ってください」
シエンシスちゃんは冷蔵庫を開けて冷えたお茶を取り出した。一瞬見えた中身は思ったより少なく、食材は殆どない。
「お二人のぶん村長さんが持ってくるので遠慮しないでって」
冷蔵庫の場所を説明するのが不思議だったが、少し離れると合点がいく。
少し小さめの冷蔵庫はよく出来た木目のデザインだった。遠目ではタンスと見分けがつかないだろう。
因みにタンスも木造、横長のもので写真や一輪挿し、可愛い人形などが飾られている。
「ごめんなさい、少しトイレ……どうぞ掛けていてください」
「大丈夫ですよ、ゆっくりしてますから」
コカナシさんが座ったのを見て車椅子を机に近づける。やはり確信が持てない、聞くなら今だろう。
「シエンシスちゃんって子供……ですよね?」
「だいたい十一歳くらいだと思いますよ」
「じゃあ一人暮らしって事はないですよね」
コカナシさんには言わんとした事が伝わったようだ。
「たしかに両親を見ていないですね」
「いや、両親はいないと思います」
疑問の表情を向けられてわたしはタンスの上を指す。
シエンシスちゃんの両親であろう写真、その前には綺麗な一輪挿し。
冷蔵庫の中身は大人がいるにしては少なく、食材も計画的にまとめ買いというよりはその日その日といった所だ。
恐らくシエンシスちゃんの両親は……
「なるほど、ですがこの小さな村なら一人暮らしでも問題ないのでは?」
確かに村人全員が知り合いのような小さな村、一人でいても問題はないのだろうけど……それは通常時の話。
「誘拐事件が発生していますし」
「確かに……一時的にでも誰か一緒に住んでいるのが普通ですよね」
二人で考えていると扉が閉まる音がした。
「あの……何日か前までおねぇちゃんがいたから……」
振り向くとトイレから出てきたシエンシスちゃんがいた。
スカートを強く握りしめ、目が潤んでいる。
何日か前まで、つまりそれは……
「寂しかったのですね」
わたしが考えている間にコカナシさんはシエンシスちゃんを抱きしめていた。
彼女はそれを抵抗なく受け入れ、コカナシさんに強く抱きつく。
「私達の事はお姉ちゃんと思っていいですから、ね? トモノ」
「は、はい。何かあったら言ってね、シエンシスちゃん」
コカナシさんから離れたシエンシスちゃんは鼻をすすって小さく口を開く。
「……シエスタ」
「え?」
「シエスタって呼んで……欲しい」
恐らくそれは彼女の姉が呼んでいたもの。
「ご飯はいつもどうしてますか?」
「……? ここ数日は村長さんが持ってきてくれてる。シェンはお手伝いしか出来ないから」
「じゃあ今日はお姉さん達と作りましょうか……シエスタ」
コカナシさんのその言葉にシエスタちゃんは小さく微笑んだ。
この村から出られないのは残念だが無料で宿やご飯が頂けるのはとてもありがたい。
宿は木造の一軒家。二階の部屋を急遽民泊にしたらしい。
出迎えてくれたのは小人族の中でも小さな女の子、歳は分かりにくいが子供ではあるだろう。
「ゆっくりしていってください」
シエンシスと名乗ったその少女はディアンドルに似た衣装、そのスカートの端をつまんで頭を下げた。
「よろしくね」
うまく笑えただろうか? 心の奥に残る不安が出てしまっているように感じる。
いくら考えても答えは出ない。今は目の前の事を見るしかない。
シエンシスちゃんが扉を開く。
「では、中を案内しますね」
「冷蔵庫です。あまり入ってませんが自由に使ってください」
シエンシスちゃんは冷蔵庫を開けて冷えたお茶を取り出した。一瞬見えた中身は思ったより少なく、食材は殆どない。
「お二人のぶん村長さんが持ってくるので遠慮しないでって」
冷蔵庫の場所を説明するのが不思議だったが、少し離れると合点がいく。
少し小さめの冷蔵庫はよく出来た木目のデザインだった。遠目ではタンスと見分けがつかないだろう。
因みにタンスも木造、横長のもので写真や一輪挿し、可愛い人形などが飾られている。
「ごめんなさい、少しトイレ……どうぞ掛けていてください」
「大丈夫ですよ、ゆっくりしてますから」
コカナシさんが座ったのを見て車椅子を机に近づける。やはり確信が持てない、聞くなら今だろう。
「シエンシスちゃんって子供……ですよね?」
「だいたい十一歳くらいだと思いますよ」
「じゃあ一人暮らしって事はないですよね」
コカナシさんには言わんとした事が伝わったようだ。
「たしかに両親を見ていないですね」
「いや、両親はいないと思います」
疑問の表情を向けられてわたしはタンスの上を指す。
シエンシスちゃんの両親であろう写真、その前には綺麗な一輪挿し。
冷蔵庫の中身は大人がいるにしては少なく、食材も計画的にまとめ買いというよりはその日その日といった所だ。
恐らくシエンシスちゃんの両親は……
「なるほど、ですがこの小さな村なら一人暮らしでも問題ないのでは?」
確かに村人全員が知り合いのような小さな村、一人でいても問題はないのだろうけど……それは通常時の話。
「誘拐事件が発生していますし」
「確かに……一時的にでも誰か一緒に住んでいるのが普通ですよね」
二人で考えていると扉が閉まる音がした。
「あの……何日か前までおねぇちゃんがいたから……」
振り向くとトイレから出てきたシエンシスちゃんがいた。
スカートを強く握りしめ、目が潤んでいる。
何日か前まで、つまりそれは……
「寂しかったのですね」
わたしが考えている間にコカナシさんはシエンシスちゃんを抱きしめていた。
彼女はそれを抵抗なく受け入れ、コカナシさんに強く抱きつく。
「私達の事はお姉ちゃんと思っていいですから、ね? トモノ」
「は、はい。何かあったら言ってね、シエンシスちゃん」
コカナシさんから離れたシエンシスちゃんは鼻をすすって小さく口を開く。
「……シエスタ」
「え?」
「シエスタって呼んで……欲しい」
恐らくそれは彼女の姉が呼んでいたもの。
「ご飯はいつもどうしてますか?」
「……? ここ数日は村長さんが持ってきてくれてる。シェンはお手伝いしか出来ないから」
「じゃあ今日はお姉さん達と作りましょうか……シエスタ」
コカナシさんのその言葉にシエスタちゃんは小さく微笑んだ。
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