錬金薬学のすすめ

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
125 / 199
悪性に対する十戒とソウサク劇

小さな村の小さな住民

しおりを挟む
 指先が掠める。隆也がどんどんと……いや、わたしが離れていく。なす術なくブラックホールのようなモノに吸い込まれ、わたしは思わず目を閉じた。

 *

「……もの」
 微睡みの中、聞きなれた声が睡魔の隙間に入り込んでくる。
「トモノ!」
 鮮やかな赤と黒の混じった髪の少女……いや、お姉さん。コカナシさんがわたしを心配そうに見つめている。
「起きましたか。よかった……」
 周りからも安堵の声が聞こえる。見回すと数人の子供……いや、顔立ちが大人なので恐らくは小人族がわたしを見ている。
 少し身体が痛むが異常ではないので起き上がる。どうやらベッドに寝かされいたようだ。
「あの、ここは」
「ここはナヨージ。小人の村さね」
 周りにいた人が左右に割れ、一人の老人が歩いてくる。
「うん、元気なようだね。それは良かった」
「あの、わたし……なんでここに」
「白い渦からこの村の近くに吐き出されたみたいです。アルカロイドからは少し遠いですが帰れないほどではないかと」
 安堵の溜息をつく。隆也の話から異世界というのも覚悟していたのだ。
「隆也とキミア先生は?」
「ここへくる途中に探してみましたが見当たりませんでした」
「連絡もダメでしたか?」
「はい、この通り」
 わたし達が持つPHSは物を言わない。
 コカナシさんが固定電話からキミア先生に電話をかけたが、繋がらなかったらしい。外傷がない事も考えるとブラックホールの影響なのだろう。
「とりあえずアルカロイドに戻りますか?」
「そうしたいのですが……」
 コカナシさんがさっきの老人に視線を向ける。
「すまんがお前さん達をこの村から出すわけにはいかぬ」
「それはどういう……」
「そう重く捉えんでもよい。生涯ここに捉える訳でもない」
 老人は小さな杖をコンと鳴らし、わたしに優しい笑顔を向ける。
「儂はここの村長であるフローレス。そろそろ夕食時、話は食べながらにするとしよう」

 *
 
 持つだけで焼きたてだと分かるふわふわなパン。バターがたっぷりと乗ったじゃがいもの匂いが腹の虫を騒がせる。
 メインディッシュのステーキは……何の肉だろう?
「いただきます」
 合わせた手を離してナイフとフォークを持つ。わたしの手には小さいが此処で使われてる中では一番大きいらしい。
 とりあえずこの謎の肉を……これは箸があっても太刀打ちできないだろう。
 口に運んで一噛み。やはり弾力が凄い。
 で、結局何の肉……?
「これは猪ですか?」
 コカナシさんの言葉に村長が笑顔になる。
「よくわかったね、今朝狩りたての上物だよ。野菜も旬の物だしそのバターも……」
 地元愛を語り出した村長を他の人が止める。
「素材も良いですが作った人の腕も相当良いのでは? 猪独特の臭みもほぼ無い上に食べ応えのある弾力です」
「そうでしょう、そうでしょう! コレは儂の妻が作りましてね。かくいう儂もこの料理に胃袋を掴まれ……失礼」
 わたしは苦笑いを浮かべた後、口の中の油をお茶で流しこむ。
「その、この村から出れない理由というのは……」
「ああ、そうでした。そちらのお嬢さんには話していませんでした」
 村長はフォークを置いて口を拭う。
「実は一週間ほど前からこの村で謎の失踪事件が発生しておりまして」
「失踪?」
「ええ、何度かに分かれて数人が行方不明になっているのです。森に行ったというのならば獣に襲われた可能性が高いのですが、そういう情報もなし」
「あの……その事件とわたし達が出られないのは」
 村長は言いにくそうに口をモゴモゴさせた後、水を飲み干してから話し出す。
「その……本当に申し訳ないですが村の数人から貴女達が犯人ではないかという疑い……いや、証拠もない予想なのですが……まあ、そういうものがありまして」
「そんな……」
 しかしわからなくもない。謎の黒い渦に吸い込まれて気づいたら此処にいた、なんて眉唾物である。
 もしそれが本当だとして、それを操る事が出来るのなら誘拐はとても簡単になる。
「じゃあわたし達は犯人が見つかるまで此処に……」
「はい、そうして頂けると幸いです。その、一応お目付役といいますか……そういうのを受け入れてくだされば皆納得して頂けるとようで……」
 つまり監視というわけだ。それは構わないとして
「犯人の目処は立っているのですか?」
「目処ら立っていませんが捜査は依頼しております」
「依頼?」
「はい、外部から探偵をお呼びしまして、その方が調査を……おっと、ちょうど帰ってきたようですな」
 硬そうな足音が扉の前で止まる。ノックに村長が返事をすると扉が開き、一人の男性が顔を出した。
 年季の感じられるハットに汚らしいわけではないがボロさが滲み出てる服。
 一言で言うならばカウボーイとかアメリカン風来坊といった感じの男性だ。
「ああ、その子が例の来客かい」
 男性はわたし達を少し観察して、ハットを外す。
「私立探偵社オーギュストから派遣された、コードネームはデュパンだ。宜しく頼むぜ二人のお嬢さん」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

ダイサリィ・アームズ&アーマー営業日誌〜お客様は神様ですが、クレーマーは疫病神です!〜

朽縄咲良
ファンタジー
エオギウス大陸の南部に栄えるガイリア王国の首都ハルマイラ。 その城下町の一角に店を構える武器防具修理工房『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の、見目麗しい代表取締役兼工房長マイス・L・ダイサリィは、お客様の笑顔と安全と、何より愛する自分の店を守る為、笑顔と愛嬌を以て日々の営業に勤しんでいる。 ――だが、たまには、招かれざる客(クレーマー)も現れる。そんな時には、彼女のもう一つの顔が表に出るのだ――。 これは、うら若く美しく、たまに鬼と化す、一人の美人工房長、そして、そんな彼女に振り回され、翻弄され続ける哀れな社員の若者の奮闘記――かも? *同内容を、小説になろう・ノベルアッププラスにも掲載しております。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...