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錬金薬学の第一歩
様子見だけでは終わらない
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「キミア! 大変だ!」
「なんなんだお前は。錬金中だうるさい黙れ」
数日後、またまた飛び込んできたのはアデル。
「今度は前より大変なんだ! 一部の人の体調がおかしくなっているんだ!」
アデルの言葉に先生の手が止まる。
「……状況を聞かせろ」
真剣ムードの先生……と、いうか。
「先生手を止めたら」
「ん? うわっ」
「伏せろ!」
ビーカーが爆発……しない?
顔を上げると何故かドヤ顔の先生。
「お前のようにはならんぞ」
「…………」
先生、凄い汗をかいてますよ。
*
「改めて……話を聞こうか」
「言った通りだ。何人かの人の体調が突然悪くなっている」
「食中毒か何かか? もうすぐ暑くなるからな」
「いや、そういう訳でも無いらしい。同じ物を食べた人には出ていない」
「ふむ……」
先生が考えているとアデルが言いにくそうにしながらもハッキリと言う
「僕の見解だが……あの薬が関係してるんじゃないかと思うんだ」
「根拠はあるのか?」
アデルが頷く。
「その体調が悪くなった人の何人かはあのシャーリィとか言う医者の所に行ったらしいんだ。そこで皆同じ診断を受けたんだ」
ここでアデルはコカナシが出してきた麦茶を一気に飲む。
「あっつ! コカナシちゃん!? 結構真剣な話をしてるよ、いま!」
「真剣なムードは壊したくなるタチでして」
無邪気っぽく舌を出した邪気たっぷりのコカナシを少し睨みあった後、アデルは咳払いをする。
「受けた診断は『薬草や薬の副作用』だ」
「ならその医者が悪いんじゃないのか?」
「そうとも言い切れないのが問題なんだ。その薬を飲んだ全員が体調を悪くした訳ではないんだ」
先生はまた少し考える。
「診断が間違っていたか身体に合わなかったという可能性は?」
アデルはかぶりをふる。
「少し遠くの方から違う医者が来たんだが……シャーリィが出した薬には問題ないし患者にもアレルギー無しとの診断だ」
アデルがカバンから紙を取り出して先生に渡す。
「咳や鼻水の抑制、自己回復の促進……確かに診断を間違えても体調を崩すような薬では無いな」
その後もなんだか難しい話が続いていく。
完全に取り残された俺は真剣なムードから一歩引いたコカナシに話しかける。
「なあ、アデルってあんな奴だった?」
コカナシは少し声を整える素振りを見せた後、口を開く。
「『雑貨屋たるもの扱う品をマスターしていなければならないのだ!』と、いう立派かつ変人的な理由で結構博識なのですよ」
「へえ、結構凄いのな……つか今の喋り方似てるな」
「でしょう?」
ドヤ顔のコカナシを褒め称えていると、先生に首根っこを掴まれた。
「笑ってるんじゃない」
「いや、俺だけじゃな……」
いつの間にか真顔のコカナシ。
「言い訳は終わりか? いくぞ」
「え、ちょ、何処に?」
「まずは患者のところだ」
*
「……ふむ」
「どうですか?」
「問題無い。適切な量の体力が含まれている」
偶然残っていた薬を机に置いて先生は溜息をつく。
「どうやら途中で錬金を失敗したわけでは無さそうだ。アテが外れたな……さて、アイツはどうしたかな」
先生がつぶやくと同時にアイツことアデルが現れた。
「僕のスーパーネットワークで調べてきたぞ!」
渡された資料を先生はすぐ読み終わる。
「全員が風邪でも軽度だったか……」
「風邪の症状が関係しているのか?」
「わからん」
「わからんって……なのに僕を走らせたのか」
ネットワークじゃないのかよ。
「仕方ない、本人に聞きにいくぞ」
「え、それじゃあ僕の苦労は……」
「行くぞー」
先生の独断に、アデルは深い溜息をついた。
*
「錬金を見せろ」
開口一番そう言い放った先生を俺とアデルが後ろにやる。
「いきなりなんでしょうか? 体調が悪くないのならお引き取り願えますか。こっちは調べるのに忙しいんですよ」
「その忙しいのを手伝う為に見せろといっているんだ」
コカナシに押しのけられ後ろにいた先生が前に出てきてしまう。
「……錬金をすれば帰って貰えますか?」
「とりあえず見せろ」
シャーリィさんは少し怒りながらも液体の入ったビーカーに蒼耳子とオオバコを入れ、マンドレイクの根の欠片を……
「ああ、これは無いのか」
カゴに欠片が無いのに気づいたシャーリィさんは並んでいる違うカゴからマンドレイクの欠片を取る。
「ちょっと待て」
先生の言葉に流石のシャーリィさんも怪訝な顔をする。
「なんですか」
「そこのカゴにあるマンドレイク、どういう風に分けてあるんだ」
「ランク順ですよ。重度の患者には良い物を、軽度ならそこそこの物を……値段は変えてますよ」
「患者により適切なコストダウン、安い秘訣はそこか」
感心するアデルと対照的に先生の顔つきは険しくなっていく。
「ランク順? お前はあのカゴの分け方をマンドレイク自体の値段だけで決めているのか?」
「そうですが……なにか問題でも?」
「普通の薬学なら問題ない、賛否両論あるだろうがアデルの言う通り賢い選択とも言えるだろう……だが」
先生が割りそうな勢いで机を叩く。
「錬金薬学なら大問題だ!」
「なんなんだお前は。錬金中だうるさい黙れ」
数日後、またまた飛び込んできたのはアデル。
「今度は前より大変なんだ! 一部の人の体調がおかしくなっているんだ!」
アデルの言葉に先生の手が止まる。
「……状況を聞かせろ」
真剣ムードの先生……と、いうか。
「先生手を止めたら」
「ん? うわっ」
「伏せろ!」
ビーカーが爆発……しない?
顔を上げると何故かドヤ顔の先生。
「お前のようにはならんぞ」
「…………」
先生、凄い汗をかいてますよ。
*
「改めて……話を聞こうか」
「言った通りだ。何人かの人の体調が突然悪くなっている」
「食中毒か何かか? もうすぐ暑くなるからな」
「いや、そういう訳でも無いらしい。同じ物を食べた人には出ていない」
「ふむ……」
先生が考えているとアデルが言いにくそうにしながらもハッキリと言う
「僕の見解だが……あの薬が関係してるんじゃないかと思うんだ」
「根拠はあるのか?」
アデルが頷く。
「その体調が悪くなった人の何人かはあのシャーリィとか言う医者の所に行ったらしいんだ。そこで皆同じ診断を受けたんだ」
ここでアデルはコカナシが出してきた麦茶を一気に飲む。
「あっつ! コカナシちゃん!? 結構真剣な話をしてるよ、いま!」
「真剣なムードは壊したくなるタチでして」
無邪気っぽく舌を出した邪気たっぷりのコカナシを少し睨みあった後、アデルは咳払いをする。
「受けた診断は『薬草や薬の副作用』だ」
「ならその医者が悪いんじゃないのか?」
「そうとも言い切れないのが問題なんだ。その薬を飲んだ全員が体調を悪くした訳ではないんだ」
先生はまた少し考える。
「診断が間違っていたか身体に合わなかったという可能性は?」
アデルはかぶりをふる。
「少し遠くの方から違う医者が来たんだが……シャーリィが出した薬には問題ないし患者にもアレルギー無しとの診断だ」
アデルがカバンから紙を取り出して先生に渡す。
「咳や鼻水の抑制、自己回復の促進……確かに診断を間違えても体調を崩すような薬では無いな」
その後もなんだか難しい話が続いていく。
完全に取り残された俺は真剣なムードから一歩引いたコカナシに話しかける。
「なあ、アデルってあんな奴だった?」
コカナシは少し声を整える素振りを見せた後、口を開く。
「『雑貨屋たるもの扱う品をマスターしていなければならないのだ!』と、いう立派かつ変人的な理由で結構博識なのですよ」
「へえ、結構凄いのな……つか今の喋り方似てるな」
「でしょう?」
ドヤ顔のコカナシを褒め称えていると、先生に首根っこを掴まれた。
「笑ってるんじゃない」
「いや、俺だけじゃな……」
いつの間にか真顔のコカナシ。
「言い訳は終わりか? いくぞ」
「え、ちょ、何処に?」
「まずは患者のところだ」
*
「……ふむ」
「どうですか?」
「問題無い。適切な量の体力が含まれている」
偶然残っていた薬を机に置いて先生は溜息をつく。
「どうやら途中で錬金を失敗したわけでは無さそうだ。アテが外れたな……さて、アイツはどうしたかな」
先生がつぶやくと同時にアイツことアデルが現れた。
「僕のスーパーネットワークで調べてきたぞ!」
渡された資料を先生はすぐ読み終わる。
「全員が風邪でも軽度だったか……」
「風邪の症状が関係しているのか?」
「わからん」
「わからんって……なのに僕を走らせたのか」
ネットワークじゃないのかよ。
「仕方ない、本人に聞きにいくぞ」
「え、それじゃあ僕の苦労は……」
「行くぞー」
先生の独断に、アデルは深い溜息をついた。
*
「錬金を見せろ」
開口一番そう言い放った先生を俺とアデルが後ろにやる。
「いきなりなんでしょうか? 体調が悪くないのならお引き取り願えますか。こっちは調べるのに忙しいんですよ」
「その忙しいのを手伝う為に見せろといっているんだ」
コカナシに押しのけられ後ろにいた先生が前に出てきてしまう。
「……錬金をすれば帰って貰えますか?」
「とりあえず見せろ」
シャーリィさんは少し怒りながらも液体の入ったビーカーに蒼耳子とオオバコを入れ、マンドレイクの根の欠片を……
「ああ、これは無いのか」
カゴに欠片が無いのに気づいたシャーリィさんは並んでいる違うカゴからマンドレイクの欠片を取る。
「ちょっと待て」
先生の言葉に流石のシャーリィさんも怪訝な顔をする。
「なんですか」
「そこのカゴにあるマンドレイク、どういう風に分けてあるんだ」
「ランク順ですよ。重度の患者には良い物を、軽度ならそこそこの物を……値段は変えてますよ」
「患者により適切なコストダウン、安い秘訣はそこか」
感心するアデルと対照的に先生の顔つきは険しくなっていく。
「ランク順? お前はあのカゴの分け方をマンドレイク自体の値段だけで決めているのか?」
「そうですが……なにか問題でも?」
「普通の薬学なら問題ない、賛否両論あるだろうがアデルの言う通り賢い選択とも言えるだろう……だが」
先生が割りそうな勢いで机を叩く。
「錬金薬学なら大問題だ!」
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