異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

88 黒き群れ

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 ぶ厚い黒い雲が割れ大地に光が照らされ祈りの言葉が捧げられる。
 
 「祓え給い、清め給え、神かむながら守り給い、幸さきわえ給え」
 
 その声は光と同じ様にあたり一帯に響き渡る。
 
 不楽の中央にある広場。
 その中央で八咫鏡を掲げ祈りを捧げる巫女が一人、コウカだ。
 
 彼女の姿は以前と異なり目は白く光輝きその全身には光の衣を纏わせている。
 
 だが…。
 その周囲を取り囲む様に赤い点々とした光が次々と広がりそれはまるで津波の様に近づきつつあった。
 
 「来るぞ!!」
 
 不楽に光が照らされると同時に妖魔の群れがその異変に気づき一斉に襲ってくる。
 
 その光景はまさに悪夢そのものだ。
 
 「コクシュウ! トコヨ!
 私達はいつもどおりに行く!
 コクシュウと私が前衛、トコヨは抜け出た奴を狩れ!」
 
 シデンはそう指示を出すや否や腰に下げた雷切丸を引き抜き迫り来た大蜘蛛に切りかかる。
 
 「以水滅火(いすいめっか)」
 
 リオンもまた彼らの動きに合わせ水のスキルを使用し刀に水を走らせコウカに近づこうとする妖魔数匹を両断して見せた。
 
 「すご…」
 
 余りの切れ味に後衛を担当していたトコヨは言葉をこぼす。
 
 彼らは犲の三人とリオンの一人で一番危険だと思われる方角。
 妖魔の軍勢とコウカの間に立ち守りを固める。
 
 「陽刀ユイネ流68代目、当主、ホタル。
 押して参る!!」
 
 ホタルはコウカを中心に黒い霧側に立ち同じく戦闘を始め光り輝く刀から光の斬撃を放ち妖魔を黒い霧へと変えていく。
 
 そしてムメイは残りの2方面、コウカの後方と側面を見張り、近づく妖魔がいれば何も言わず次々と倒していく。
 
 ムメイは砂埃を上げ近づく大百足の背に飛び乗り背に拳を軽く当てる。
 
 「スゥー」
 
 深く息を吸い込み拳を上げ大百足の硬い背の甲殻に向かい鎧通しと呼ばれる技術を応用し拳を放つ。
 
 拳が当たりひび割れ、数秒の時間差で甲殻の隙間から大百足の体液が吹き出し黒い霧へと変わる。
 
 コウカはそんな周りで行われている戦闘を横目で見ながら光の結界の構築に集中する。
 
 目の前に迫る黒く巨大な霧の壁を薄く見えない光の壁で押し止め徐々に押し返す。
 
 だがその範囲はすでに大きく広がってしまっており、いまだ黒い霧全体を結界で覆うまでに至ってはいない。
 
 その内の漏れ出た霧が重くのしかかる様にのしかかり大地に落ち広がりこちらに流れてくる。
 
「黒い霧には絶対に触れてはなりません!!」
 
 コウカはホタルの目の前にまで近付く黒い霧を見て結界を作り出しこの場にいる自分を含む7人を覆った。
 
 「黒い霧に、触れれば妖魔も人も等しく。
 我を見失い身も心も蝕まれ、生命を見境なく喰らう化け物になり果ててしまいます…」
 
 目の前に光の結界が張られコクシュウは息を切らしながら、光の壁に触りながらコウカを見る。
 
 「最初からこれをやればもう少し楽だったんじゃ…」
 
 しかしそのコクシュウの問いは大きな衝撃と音によりかき消され。
 
 音がしたホタルが受け持つ正面を見るとそこには巨大な赤鬼が立ち棍棒を振り上げこちらを見下ろしている姿があった。
 
 「いえ!
 結界はまだ不完全なものです。
 少しの時しか抑えられません!!」
 
 そして周囲を見張っていたトコヨもまた頷き辺りを警戒している。
 
 「それに、このままだと。
 ここから出られなくなる…」
 
 そう言われ結界の外を見ると数多くの妖魔が結界をまるで覆わんとするばかりに押し寄せ、攻撃し結界を破壊しようとしていた。
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