異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

86 不楽

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 「その刀が噂に聞く。
 陽の力のみで創られたとされる…。 人を切らず邪のみを断つ刀ですか」
 
 不楽へ向かう道中。
 
 ホタルの腰に下げる刀を見て巫女のコウカは興味を持ち話しかけた。
 
 「蛍丸の事?」
 
 ホタルは刀を腰から抜きコウカにその刀身を見せると。
 
 その刀身はまるで蛍の光の様に淡く
そして強い光を放っていた。
 
 
 「美しいですね。
 それが、この世界に散らばる名刀、25本のうちの一つ蛍丸ですか。
 始めてみました。
 凄まじい程の陽力が込められていますね」
 
 そしてコウカは隣を歩くリオンを見て刀を指差す。
 
 「確か…リオンも持っていますよね。
 25工の内、一振(ひとふり)村雨(むらさめ)を」
 
 その言葉に反応したのはホタルだけでは無く、京の都から派遣された陰陽師。
 シデンもまた驚いたように二人の刀を見ていた。
 
 「村雨…聞いたことがあります。
 にわか雨と言う意味だったか、その切れ味は他の名刀をも凌ぐと聞く、切れ味が落ちぬとも…」
 
 そしてシデンは自身の刀を抜く。
 
 「驚きました。
 まさか25振ある名刀がこの場に3つ揃うとは…」
 
 シデンの刀はホタルと同じく光を放っている。
 だが種類は全く異なりその光の正体は雷だった。
 
 「私のは名刀、雷切丸です。
 雷を断ち切る刀…。
 
 全く…セイメイ様と天皇様がお声をかけて下さったお陰で精鋭が集まった。
 こんな面々が揃うのは本当に珍しい事ですよ」
 
 刀を見せ合い歩く中。
 刀を見せ合う4人を横目にトコヨは一人、一番端を歩いている黒ずくめの女性に近寄り話しかけた。
 
 「ねぇ、貴方の名は?
 聞いてないけど…」
 
 お互いに忍び装束を着てはいるがその間にある壁は分厚い。
 
 警戒をお互いに職業柄張り巡らせているためか、話はぎこちない物だ。
 
 「名は無い」
 
 たった一言、それだけ言い会話は終わった。
 
 「じゃあなんて呼べばいいんだ?」
 
 その様子に見かね今度は武僧のコクシュウが黒ずくめの女性に尋ねる。
 
 「ムメイでいい」
 「なるほど…名無しでムメイですか…。
 では得物は?
 やはり忍びですからクナイとか忍者刀、煙玉…あっあと手裏剣とか…」
 
 コクシュウは身振り手振りを大きく表現し笑って話しかける。
 
 が…
 
 「得物は必要ない。
 素手さえあれば全て事足りる」
 
 結局、それで話は終わりを迎えた。
 
 「見えたぞ、目的地、不楽だ」
 
 ムメイが足を止め指差した方角。
 そこを全員が足を止め見ると、そこには変わり果てた不楽。
 
 そして祟り神が壊した結界から漏れ出たであろう黒く巨大な入道雲の様な霧。
 
 「嘘でしょ…」
 
 そう誰かが呟く。
 
 それらは黒い煙の中から溢れ出しまるでそれは一つの軍隊の様にも見える
 大鬼に大百足、大蜘蛛 大狼。
 
 黒い霧に潜んでいたであろう血に飢え目を朱色に染める妖魔の軍勢が人界へと進んでいる姿がそこにはあった。
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