異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

80 手合わせ

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 「今回の子はいつもより幼いわね」
 「ホタルさんが戻って来てれば良かったんだけど…。
 ソウタロウさん、手加減が上手くないから…」
 
 受付嬢の一人は確かにと頷き心配そうにこの試合と言う名の、夢を見て陰陽師になろうとする子供に現実を教える為の恒例行事を見守った。
 

 「坊主…いいことを教えてやる。
 俺は、これまでお前みたいな金のために陰陽師になった奴を大勢見てきた。
 当然お前みたいなまだ年端も行かない子供も珍しくはない」

 ソウタロウはルークの周りを歩き諭す様な口調と声色で話し立ち止まると。
 
 一瞬で刀を抜刀し刀の切っ先をルークの顔に向けた。
 
 「そんな彼らが…どんな死に方で死んだのか教えてほしいか?
 お前に、命をかける覚悟はあるのか?
 悪い事は言わない、陰陽師になるのは…やめておけ」
 
 それだけを言うとソウタロウは刀を納めもといたルークの正面に戻り間合いをあけた。
 
 「ソウタロウさん!!
 分かってるとは思いますけど。
 小さい子なんですから!
 いつもみたいに怪我させちゃ駄目ですよ!!」
 
 試合が始まろうとしている少し張り詰めた空気の中。
 受付嬢がルーク達のいる中庭に向かって叫び手を振った。
 
 「分かってる。
 少しチャンバラごっこをして分からせてやるだけだ…。
 なぁ坊主」
 
 ソウタロウは手を上げて受付嬢に応えると目の前にいるルークを見た。
 
 陰陽師の試験、それはただの試験では無く下手をすれば命を落とすかもしれない厳しい物だ。

 それを目の前にいるそれも明らかに自分の子供より幼い子供が無事ですむわけが無い。
 
 「よし、坊主いつでもかかってこい」
 
 ソウタロウは構えを取りルークを観察する。
 
 「お…始まったな…」
 「ソウタロウさん!
 いじめちゃ可愛そうだぜ! 
 がはは…まあ、頑張れよちっこいの!!」
 
 周りから聞こえるのは嘲笑とまだ幼い子が怪我をしないかと不安視する声。
 
 ルークはそれらを無視し刀を掴み引き抜く…が…刀を腰から引き抜く事ができなかった。
 
 「む…腰につけずに持っとけばよかったか…」
 
 腕が短すぎて引き抜けないのだ。
 
 そもそも…。
 
 よく考えてみれば刀を使ったのはムメイの時ぐらいで、ちゃんと扱った事など無い。
 
 「なんだ坊主! 
 刀の使い方も知らんのか?
 腰を使え、腰と腕を使って抜刀するんだよ」
 
 一生懸命に刀を引き抜こうとする幼い子供のそんな姿に野次馬達は頬を緩ませ笑った。
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