75 / 90
弐章 国づくり
75 現実
しおりを挟む
戦場、それは地獄そのものだった。
野営地では味方内の盗みが横行し食料は最初の方は配られていたが徐々に減り最終的には餓死者が出る程までとなった。
空から降り注ぎ降る矢に乱戦となり混戦となれば敵・味方、関係なく全員が襲ってくる危険な状況となり。
その戦場の跡地はただならぬ怨念に満ち溢れ、穢れを祓う者と言われている穢多の自分でも祓えない程でその夜には既に死体が魑魅魍魎(ちみもうりょう)……妖魔となり血と妖気に溢れた大地を跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していた。
だがそれ以上にホタルが地獄だと思ったのは戦に勝った後の出来事だった。
それは、戦場近くの村で起こった、乱取りと呼ばれる略奪行為だ。
乱取りを受けた人々は無意味に殺され金品や物品を盗み、更にはそこに住んでいた無害な人々を捕らえ売りさばいていた。
そしてこの時、ホタルは理解した。
なぜ、彼らがお金が貰えない戦(いくさ)でお金が手に入ると言っていたのか。
そして…自分はこの戦で初めて人を殺(あや)め父の為だと自分に言い聞かせ言い訳し初めて人の物を盗んだ。
そして家に帰る帰り道。
まるで自分が自分で無くなってしまった気分だ。
自己嫌悪とそれによる強い吐き気に何度も何度も襲われた。
………
「私…なんてことを……」
そう言いながらも自らがつける装備や刀、略奪した物品を手放せない自分がいる。
あんな地獄を経験した、決して少なくない多くの仲間の犠牲もあったし自身も幾度も死にかけた。
もし自分たちが負けていたなら私達が同じ目にあっていた。
その正当な報酬だ…。
これがあればあの惨めで同仕様も無かった生活が少しは変わるかもしれない。
言い訳だと分かっているのにそれでいても尚、そう思ってしまう。
人殺しも人攫いも止める事ができたのかもしれない。
グスッ…。
涙が勝手に溢れホタルは袖で涙と鼻水を拭う。
もう沢山だ…戦もこの同仕様もない世界も…そしてそんな中、何もできない。
そんな自分自身も。
「早く帰ろ…」
産まれ育った地を見つめ空を見上げ今まで通りの生活を思い浮かべまた何時もの自分、何時もの当たり前の生活に戻れると願う。
「何あれ…なんであんなに煙が…」
だが、見上げた空には不穏な煙が立ち込めていた。
……
嫌な胸騒ぎがする。
急ぎ故郷近くの町につくとそこはすでに火で包まれ、数日前まで当たり前の様に嗅いでいた血と煙が混じった臭いが辺り一面に充満していた。
「一体何が……」
ホタルは辺りを見渡し絶句する。
知っている町の光景と異なりそこにはそこらじゅうに見覚えのある人日との死体が転がっている。
ホタルは刀を手に構え町の中を歩く。
その内まだ息のある住人を見つけ起こすと息をたえたえにホタルを見る。
「なんだ…帰って来たのか…他の若い奴らは…」
ホタルは首を振り、私だけが先に帰ってきたとだけ伝えた。
「そうか…。
村の若い奴らが戦にでてっちまって…どうしようも出来なかった。
昨日の夜中だ。
急に山賊が現れて……それで……町を襲われちまった…」
そして何かを思い出したかのように倒れた男はホタルを見て慌て服を掴んだ。
「そうだ!
奴ら……ここ以外にも近くにあるお前の集落に気づいて…山賊の頭みたいなのが数人引き連れてお前ら穢多の集落の方に向かってった…ぞ…」
男はそう言い終えると力が抜けぐったりと瞳を開けたまま動かなくなった。
ホタルはそっと男を寝かせ瞳を閉じると穢多の集落。
故郷、我が家へと走り向かう。
穢多の皆が住む集落は燃えてはいない。
だが…悲鳴が家の中から聞こえた。
「助けてぇええええ!!」
家の中から女性が飛び出す。
「あっ!」
だが、女性が家から逃げ出したと思った時。
その女性は刀で背中を切りつけられて地面に倒れ、命を落とした。
「へへへ、逃げんじゃねーよ。
もったいねーな」
家から出てきた男は片腕に金品を抱え血に濡れた刀を先程斬った女の服で拭う。
「なんて事を…うっ」
ホタルは目の前の光景に怒りが溢れる一方、物凄く強い既視感を感じ手に持つ刀を震わせた。
先程の光景と言い今目の前で起こった光景と言い。
その有り様と言い光景は乱取りの時と何一つ変わりは無かった。
野営地では味方内の盗みが横行し食料は最初の方は配られていたが徐々に減り最終的には餓死者が出る程までとなった。
空から降り注ぎ降る矢に乱戦となり混戦となれば敵・味方、関係なく全員が襲ってくる危険な状況となり。
その戦場の跡地はただならぬ怨念に満ち溢れ、穢れを祓う者と言われている穢多の自分でも祓えない程でその夜には既に死体が魑魅魍魎(ちみもうりょう)……妖魔となり血と妖気に溢れた大地を跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していた。
だがそれ以上にホタルが地獄だと思ったのは戦に勝った後の出来事だった。
それは、戦場近くの村で起こった、乱取りと呼ばれる略奪行為だ。
乱取りを受けた人々は無意味に殺され金品や物品を盗み、更にはそこに住んでいた無害な人々を捕らえ売りさばいていた。
そしてこの時、ホタルは理解した。
なぜ、彼らがお金が貰えない戦(いくさ)でお金が手に入ると言っていたのか。
そして…自分はこの戦で初めて人を殺(あや)め父の為だと自分に言い聞かせ言い訳し初めて人の物を盗んだ。
そして家に帰る帰り道。
まるで自分が自分で無くなってしまった気分だ。
自己嫌悪とそれによる強い吐き気に何度も何度も襲われた。
………
「私…なんてことを……」
そう言いながらも自らがつける装備や刀、略奪した物品を手放せない自分がいる。
あんな地獄を経験した、決して少なくない多くの仲間の犠牲もあったし自身も幾度も死にかけた。
もし自分たちが負けていたなら私達が同じ目にあっていた。
その正当な報酬だ…。
これがあればあの惨めで同仕様も無かった生活が少しは変わるかもしれない。
言い訳だと分かっているのにそれでいても尚、そう思ってしまう。
人殺しも人攫いも止める事ができたのかもしれない。
グスッ…。
涙が勝手に溢れホタルは袖で涙と鼻水を拭う。
もう沢山だ…戦もこの同仕様もない世界も…そしてそんな中、何もできない。
そんな自分自身も。
「早く帰ろ…」
産まれ育った地を見つめ空を見上げ今まで通りの生活を思い浮かべまた何時もの自分、何時もの当たり前の生活に戻れると願う。
「何あれ…なんであんなに煙が…」
だが、見上げた空には不穏な煙が立ち込めていた。
……
嫌な胸騒ぎがする。
急ぎ故郷近くの町につくとそこはすでに火で包まれ、数日前まで当たり前の様に嗅いでいた血と煙が混じった臭いが辺り一面に充満していた。
「一体何が……」
ホタルは辺りを見渡し絶句する。
知っている町の光景と異なりそこにはそこらじゅうに見覚えのある人日との死体が転がっている。
ホタルは刀を手に構え町の中を歩く。
その内まだ息のある住人を見つけ起こすと息をたえたえにホタルを見る。
「なんだ…帰って来たのか…他の若い奴らは…」
ホタルは首を振り、私だけが先に帰ってきたとだけ伝えた。
「そうか…。
村の若い奴らが戦にでてっちまって…どうしようも出来なかった。
昨日の夜中だ。
急に山賊が現れて……それで……町を襲われちまった…」
そして何かを思い出したかのように倒れた男はホタルを見て慌て服を掴んだ。
「そうだ!
奴ら……ここ以外にも近くにあるお前の集落に気づいて…山賊の頭みたいなのが数人引き連れてお前ら穢多の集落の方に向かってった…ぞ…」
男はそう言い終えると力が抜けぐったりと瞳を開けたまま動かなくなった。
ホタルはそっと男を寝かせ瞳を閉じると穢多の集落。
故郷、我が家へと走り向かう。
穢多の皆が住む集落は燃えてはいない。
だが…悲鳴が家の中から聞こえた。
「助けてぇええええ!!」
家の中から女性が飛び出す。
「あっ!」
だが、女性が家から逃げ出したと思った時。
その女性は刀で背中を切りつけられて地面に倒れ、命を落とした。
「へへへ、逃げんじゃねーよ。
もったいねーな」
家から出てきた男は片腕に金品を抱え血に濡れた刀を先程斬った女の服で拭う。
「なんて事を…うっ」
ホタルは目の前の光景に怒りが溢れる一方、物凄く強い既視感を感じ手に持つ刀を震わせた。
先程の光景と言い今目の前で起こった光景と言い。
その有り様と言い光景は乱取りの時と何一つ変わりは無かった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる