異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

75 現実

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 戦場、それは地獄そのものだった。
 
 野営地では味方内の盗みが横行し食料は最初の方は配られていたが徐々に減り最終的には餓死者が出る程までとなった。
 
 空から降り注ぎ降る矢に乱戦となり混戦となれば敵・味方、関係なく全員が襲ってくる危険な状況となり。
 
 その戦場の跡地はただならぬ怨念に満ち溢れ、穢れを祓う者と言われている穢多の自分でも祓えない程でその夜には既に死体が魑魅魍魎(ちみもうりょう)……妖魔となり血と妖気に溢れた大地を跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していた。
 
 だがそれ以上にホタルが地獄だと思ったのは戦に勝った後の出来事だった。
 
 それは、戦場近くの村で起こった、乱取りと呼ばれる略奪行為だ。
 
 乱取りを受けた人々は無意味に殺され金品や物品を盗み、更にはそこに住んでいた無害な人々を捕らえ売りさばいていた。
 
 そしてこの時、ホタルは理解した。
 
 なぜ、彼らがお金が貰えない戦(いくさ)でお金が手に入ると言っていたのか。
 
 そして…自分はこの戦で初めて人を殺(あや)め父の為だと自分に言い聞かせ言い訳し初めて人の物を盗んだ。
 
 そして家に帰る帰り道。
 まるで自分が自分で無くなってしまった気分だ。
 
 自己嫌悪とそれによる強い吐き気に何度も何度も襲われた。
 
 ………
 
 「私…なんてことを……」
 
 そう言いながらも自らがつける装備や刀、略奪した物品を手放せない自分がいる。
 
 あんな地獄を経験した、決して少なくない多くの仲間の犠牲もあったし自身も幾度も死にかけた。
 もし自分たちが負けていたなら私達が同じ目にあっていた。
 
 その正当な報酬だ…。
 
 これがあればあの惨めで同仕様も無かった生活が少しは変わるかもしれない。
 
 言い訳だと分かっているのにそれでいても尚、そう思ってしまう。
 
 人殺しも人攫いも止める事ができたのかもしれない。
 
 グスッ…。
 
 涙が勝手に溢れホタルは袖で涙と鼻水を拭う。
 
 もう沢山だ…戦もこの同仕様もない世界も…そしてそんな中、何もできない。
 そんな自分自身も。
 
 「早く帰ろ…」
 
 産まれ育った地を見つめ空を見上げ今まで通りの生活を思い浮かべまた何時もの自分、何時もの当たり前の生活に戻れると願う。
 
 「何あれ…なんであんなに煙が…」
 
 だが、見上げた空には不穏な煙が立ち込めていた。
 
 ……
 
 嫌な胸騒ぎがする。
 
 急ぎ故郷近くの町につくとそこはすでに火で包まれ、数日前まで当たり前の様に嗅いでいた血と煙が混じった臭いが辺り一面に充満していた。
 
 「一体何が……」
 
 ホタルは辺りを見渡し絶句する。
 
 知っている町の光景と異なりそこにはそこらじゅうに見覚えのある人日との死体が転がっている。
 
 ホタルは刀を手に構え町の中を歩く。
 
 その内まだ息のある住人を見つけ起こすと息をたえたえにホタルを見る。
 
 「なんだ…帰って来たのか…他の若い奴らは…」
 
 ホタルは首を振り、私だけが先に帰ってきたとだけ伝えた。
 
 「そうか…。
 村の若い奴らが戦にでてっちまって…どうしようも出来なかった。
 昨日の夜中だ。
 急に山賊が現れて……それで……町を襲われちまった…」
 
 そして何かを思い出したかのように倒れた男はホタルを見て慌て服を掴んだ。
 
 「そうだ!
 奴ら……ここ以外にも近くにあるお前の集落に気づいて…山賊の頭みたいなのが数人引き連れてお前ら穢多の集落の方に向かってった…ぞ…」
 
 男はそう言い終えると力が抜けぐったりと瞳を開けたまま動かなくなった。
 
 ホタルはそっと男を寝かせ瞳を閉じると穢多の集落。
 
 故郷、我が家へと走り向かう。
 
 穢多の皆が住む集落は燃えてはいない。
 
 だが…悲鳴が家の中から聞こえた。
 
 「助けてぇええええ!!」
 
 家の中から女性が飛び出す。
 
 「あっ!」
 
 だが、女性が家から逃げ出したと思った時。
 その女性は刀で背中を切りつけられて地面に倒れ、命を落とした。
 
 「へへへ、逃げんじゃねーよ。
 もったいねーな」
 
 家から出てきた男は片腕に金品を抱え血に濡れた刀を先程斬った女の服で拭う。
 
 「なんて事を…うっ」
 
 ホタルは目の前の光景に怒りが溢れる一方、物凄く強い既視感を感じ手に持つ刀を震わせた。
 
 先程の光景と言い今目の前で起こった光景と言い。
 
 その有り様と言い光景は乱取りの時と何一つ変わりは無かった。
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