異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

文字の大きさ
上 下
60 / 90
弐章 国づくり

60 アラネア帰還

しおりを挟む
 悪夢を見ていた気がする。
 身体全体がズキズキと痛む特に頭がおまけに何故か手も足も動かせない。
 しかし感触からもふもふな布団の上で寝ているらしいという事は分かった。
 
 寝ぼけているせいか身体が痛む理由と関連があるのかふわふわと体全体が上下している。
 
 そして瞳を開けると、ムメイは雲一つも無い。
 バカみたいに綺麗で信じられない程に広大な青空が目に写った。
 
 「綺麗な空……」
 
 ……
 
 ルーク率いる一行は森を抜け見覚えのある山を目の前に立ち止まっていた。
 
 「まじか…」
 
 ルークはトモエに貰った正確な地図を懐にしまい、目の前に広がる田畑を眺めそう呟く。
 
 俺が出かける前は田んぼも未完成だったのだが今はもう既に水路も作り終わり田んぼには水も張られており。
 
 今現在、土蜘蛛の6本の腕で田植えを行っている最中だ。
 
 さらに奥の畑では同じく土蜘蛛たちが手で土を掘り起こし畑を耕し種を蒔いている。
 
 凄まじい成長ぶりにルークやテルマ、アンリは驚き。
 ハチロクは、ほう…と関心?しているようだった。
 
 しばらくそこで立ち止まり農業をしている光景を眺めていると走る二人の小さな人影が手を振りながら近づいてくる光景が見える。
 
 「ルーク様ーーー!!」
 
 テンとイナリだ。
 二人は先程まで水路で遊んでいたのか服が水で濡れておりヒタヒタと音を立てそして
 テンは立ち止まったが、イナリはそのままルークに飛び付いた。
 
 ルークとテンは現在、同じ背丈のため濡れた服がべチョリと体に当たり濡れた髪がほっぺや胸を濡らす。
 
 あまりいい気分はしないが、テンは容赦無く。
 まるで元いた世界で体験した事のある獣人特有の挨拶で体をスリスリと擦り付けてくる。
 
 確か…彼らいわく仲間と鼻で認識する為に自分の匂いをつけているのだとか何とか……。
 
 「おかえりなさいませ、ルーク様」
 「う…ただいま」
 
 ベチョベチョに濡らされ気分が少し下がる中、テンはそう言い礼儀正しくお辞儀をする。
 
 しかし、テンも水遊びをしたのかイナリに振り回されたのか彼も同じく水浸しだ。
 
 まあ子供なんてこんなものかと納得しイナリの頭を撫でているとピピピ…と腕につけられたNo.16多機能通信ブレスレットから電子音が聞こえた。
 
 「先生、アイラです。
 聞こえますか?」
 「ああ、通信は良好。
 問題ない。
 どうした?」
 
 ブレスレットに触れるとアイラが空中に表示された画面に現れ微笑んでいる。
 
 が…その表情は徐々に曇りそして怒りの形相へと変わっていった。
 
 「せっ…先生!!
 なにイチャイチャしてるんですか!
 不健全ですよ!!」
 
 私と言うものがありながら……。
 
 アイラはそう言い怒るとゴニョゴニョと口を動かし顔を赤らめ顔を背ける。
 
 「アイラ?
 一体……どうしたんだ?」
 
 アイラが不機嫌になったのは分かったのだがそこまでの事かと戸惑い。
 他に何か不満・問題があるのではないかと…つい。
 そうアイラに聞いてしまった。
 
 アイラは余計に機嫌を悪くしたのか口早に…
 
 「これ先生がホノカさんに頼んでた物です!!
 もう先生の事なんて知りませんから!!」
 
 …と。
 
 アイラは荷馬車一杯分、複数個の木箱を適当にルークの足元に送るとプイとそっぽを向きそのまま通信を切ってしまった。
 
 「子育てと言うのは難しい者だな…」
 
 ルークはブレスレットと目の前でまだ濡れた髪を押し付けてくるイナリを見てそう呟やき、頭を少し抱えた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...