異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

58 朝日

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 朝日が山から顔を出すなか、ルーク達アラネアへと向かう一行。
 
 彼らは鎌鼬から降り問題なく徒歩でアラネアへと向かっていた。
 
 昨夜の襲撃により変わった事と言えば彼らの荷物の中に黒い装束を着せられ眠っている少女の姿があるくらいだろう。
 
 「あの…旦那…。
 本気で連れてくきですかい?」
 
 アイノスケはそう言いながら妖糸でグルグル巻にされ鎌鼬の背に括りつけられたムメイを見てまだ起きていない事を確認する。
 
 そしてムメイの懐をゴソゴソと探り、さり気なくジャラジャラと音を鳴る巾着袋を取り出すとキョロキョロと辺りを見渡しスッと自分の懐に入れた。
 
 「何か問題でもあるのか?」
 
 ルークはアイノスケを見ることなく気持ちのいい早朝の冷たい風を感じ目を閉じ欠伸をかく。
 
 確かにあの森に置いといても良かったのだが…。
 どうやら彼女はシュラの話し曰く忍びという者でいわば殺し屋に何でも屋を足した者らしい。
 情報をかなり持っている可能性があると言うことで生け捕りにした。
 
 拷問などはやったことが無いしやるつもりもも無いがとりあえずここに居るであろう四人の情報を聞くつもりだ。
 
 トモエは知らないと言っていたがこの忍びの者は知っているかもしれない。
 
 だが…正直、昨日の感じ的にタダで協力してくれるとは到底……。
 と言うか話ができるかどうか…。
 
 むむっ…やっぱりあの森に置いてくるべきだったかも……しれない…。
 
 今からでも遅くないか…?。
 
 今更そんな不安をかかえ少しそんな事を考えるが、あの時あの娘を引きずって森から出てきた時の皆の尊敬した表情が頭をよぎりそれはできそうもないと頭を横に振りその考えを却下する。
 
 「そういえばだがな。
 ルークの坊っちゃんよ」
 
 ルークがその声に振り向くとハチロクとその弟子シュナがそれぞれ道具を持ち歩きながら話を始めた。
 
 「今向かってるアラネアってとこだけどよ蜘蛛の巣があるだけのなにも無い山なんだろ?」
 
 「ああ…そうだ…」
 
 「賃金は出せるのかい?」
 
 うっ……。
 
 「流石にタダ働きってのはこっちも生活がかかってるしできないからよろしく頼むぜ」
 
 ハチロクはそう満面の笑みで手でお金のジェスチャーをしそれを上げている。
 
 おそらくは多く払ってくれと言う事だろう。
 
 しかし…お金…。
 この世界の金は山賊から奪った銅貨と銀貨のような物があるが金は見てない。
 もし金野価値がこの世界でも同様に高いのであればアイラに頼んで王国デセオの王からかっぱらった研究費の金貨を少し送ってもらう事ができるんだろうが…ふむ…。
 
 アラネアで作られた白い服は鉄石のタタラで買ってくれると言っていたから少しすれば金は入ってくる筈。
 それに人間の村人に頼んだ糸や服の商売も都でうまく行ってるかもしれないし。
 
 しかしどれも今すぐ手に入る金じゃない。
 
 そう考えているとアイノスケが何処か嬉しそうに胸をポンポンと大切そうに撫でているのがふと視界に入る。
 
 「あ…これ…前金ね。
 よろしく」
 
 ムメイの巾着袋を今度はルークがアイノスケに気づかぬ速度でスルとそれをまるまるハチロクに投げ渡した。
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