異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

55 儀式

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 意識を失ったヒヨリとミゾレの二人は黒い装束を着た大人達に運ばれ子供達が集まっていた地下の空間にあるその奥。
 
 子供が連れて行かれては悲鳴を上げていた部屋に連れて行かれた。
 
 その部屋の地面には円状に呪術が刻まれておりその中央に気を失った二人は寝かせ黒装束の者達は円から離れる。
 
 「さて…どうなる事か…」
 
 ムクロと呼ばれる八咫烏の長は巨大な鉄でできた牢屋の中を覗き込み、しわがれた顔に笑みを見せる。
 
 その牢には一匹の赤い目をした大鬼がおり気性が荒く腕や足に繋がれた鎖を引き千切ろうと暴れ雄叫びをあげていた。
 
 「本当に、この鬼をあの娘に封ずるので?
 この妖魔は黒い霧の中にいる上捕えるのがとても難しい個体です。
 しかもこの一匹しかいませんが…」
 
 女性は辺りの牢屋を見渡し鎌鼬や蜘蛛、火を纏い回る火車などの妖魔達を見る。
 
 その中には妖族と呼ばれる人に似た妖魔界に住む種族もおり、鬼が良いならばと鬼族の檻もまた見て品定めした。
 
 「妖族共では駄目じゃ。
 確かに中には妖王や王を名乗る強い個体もおるが…。
 マムシの奴が捕まえた者達はせいぜいが我らで言う民、程度。
 成功はしやすいが所詮、弱い烏の餌にしかならん」
 
 ……
 
 何も無いのか何も見ない世界。
 ヒヨリは、さまよい歩き続けていた。
 
 「ミゾレ?」
 
 返事は当然無い、記憶が曖昧でうまく思い出せないが良くない事が起こっている気がする。
 
 しばらく歩いていると突如何も無い空間から景色がまるで夢の様に変わり、気づけばヒヨリは見覚えのある村の中に立っていた。
 
 ❀✿❀✿❀
 
 美しい三日月の夜。
 虫の声も鳥の囀りも聞こえず木の葉の掠れる音のみが聴こえる静かなはずだった森の中。
 けたたましい咆哮、そして木々が倒れ大地が爆ぜる音が響き渡っていた。
 
 高速で移動する二つの影。
 
 それらは時折衝突しては触るもの全てを尽く破壊していく。
 
 「一体何が起こっているのだ…」
 
 テルマはアンリに胸の傷に糸を巻いてもらいながらにそう呟く。
 
 「まるであれじゃあ、怪獣大戦争って感じすね」
 「アンリ、俺の傷の手当はまだか?
 ルーク様をお護りせねば…」
 
 アンリはそんな事を言うテルマにため息をつき糸を巻き終わると同時に傷口をパーンと叩いた。
 
 「ヌガッ!!?」
 「私達が言ってもルーク様の足手まといってやつっすよ。
 それに!
 わざわざルーク様がここからあのやばい奴を弱い私達から遠ざけてくれたんすよ!?
 無駄にするつもりっすか!?」
 
 テルマは傷口を一つの腕で抑え下を向く。
 
 アンリの言葉は最もな話で自分が弱いと言う事実も本当の事だ。
 
 今、自分があの戦いに参戦した所で無駄死に…いやそれだけでは無く主君たるルーク様の足手まといになるだろう。
 
 「くっ…本来であれば私がルーク様を護らねばならんのに…無念だ…」
 
 そしてその言葉を聞いたアンリもまた手を出せずただ決着を待つしかできない自分に情けなくて悔しくてという感情が込み上げ、強く拳を握った。

 遠くの森でまた砂埃が舞い木々が倒れ大きな火柱が立つ。
 
 戦闘は未だ終わる気配をみせない。
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