異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

50 『③』

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 ムメイは目を閉じ、気をあたり一帯に張りめぐらせる。
 
 分かる事は森のせせらぎと小川の音。
 肌で感じる感覚は研ぎ澄まされ風の流れを読み取る。
 そして感じた違和感は風を切る音そして一方向から来る殺気。
 
 ムメイは目を見開くと体を少し動か
す。
 目では何も見えないが確かに身体の近くを何かが通り過ぎた。
 
 バシュン
 
 と言う音と共に後方、木の幹に穴が空きそこからは水が滴り落ちている。
 
 「水鉄砲か…それもかなり強力…。
 それを化かして見えぬ様に細工をしているってとこかな。
 タヌキめ」
 
 炎に風、おまけに幻覚。
 
 「ますます、放って置けなくなったわけか…」
 
 こんな妖魔を放っておけば…。
 
 ムメイの脳裏に大きな鬼に襲われ燃える村の光景がよぎる。
 
 恐らくはそれ以上の被害が出るだろう。
 妖魔は必ず一片も残ることなく駆逐されなければならない。
 
 ムメイは黒い装束の上着を脱ぎ捨て黒いさらし姿となった。
 
 その瞬間、白い肌が腕や顔と同じ様に紅く染まる。
 
 「アルド 『大地よ』」
  
 周囲の森から声が聞こえた瞬間。
 まるで地面が蛇にでもなったかの様にうねり土が隆起しムメイを飲み込もうと意思を持った様に動く。
 
 ムメイは地面の異変にすぐ様に気づき飛び、木の枝に着地する。
 
 「一体どれ程の術を…いや幻術なのか?」
 
 あの子鬼…実際は幻覚が使えるだけで実際は何か小細工をしているのでは無いか。
 
 こんなに数多くの術を使えるうえに変異種ときた。
 
 実は青い肌や角も含め幻覚だ…と考えた方が理解できる程だ。
 
 だが、現実に起きている事象はまごうこと無き現実。
 
 「考えるだけ無駄か…」
 
 ムメイは笑う。
 
 どんな小細工をしてようが要は本丸を潰せばいいだけの話だ。
 
 「そうだろ? 小鬼!!」
 
 木の枝が軋み木の葉が地面に落ちると同時にムメイが消えた。
 
 「なにっ…!?」
 
 ルークは目を見開き、即座に腰に手を伸ばす。
 いきなり目の前に現れたムメイの手刀を防ごうとした。
 
 使うつもりも無く着けていた刀を抜く。
 
 しかし、山賊から追い剥ぎし手に入れた刀はまるで豆腐を切る包丁かのように手刀で断ち切られ、その手刀は勢いが消えぬままにルークの顔に向け放たれた。
 
 ルークは後方に体重を掛けその攻撃を避けるがムメイは次段の攻撃をしようと既に手刀を構えている。
 
 幻影魔法を使い透明になっているはずにも関わらず目の前に現れ攻撃を仕掛けてきた。
 正直想定外だ。
 
 ここから魔法を発動しようにも時間も距離も足りない。
 
 「終わりだ…。
 胡蝶蘭 (こちょうらん)」
 
 手刀が振り下ろされルークの身体に届くその瞬間。
 
 頭の中で声が聞こえた。
 
 『どうやら、妾の出番のようじゃの…』
 
  と…。
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