異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

47 ムメイ

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 怪人化…それは悪霊祓い全員が扱える人ならざる者となる為の秘術だ。
 
 己の身体に妖魔を封じその妖魔の力を扱う。
 一つ間違えれば妖魔に侵食され人も妖魔でもない怪人、妖怪と呼ばれる存在となり心も失われ、もう人には戻れなくなる。
 
 だがその力は強大だ。
 
 ムメイは己の赤い鬼の腕を見て顔をしかめる。
 
 「できれば、こんな力は使いたく無かったけど…」
 
 相手が悪い。
 あの吹き飛ばした蜘蛛も硬すぎだ。
 
 彼岸花と言う技で森へ吹き飛んだ訳だが…あれは本来、受ければ背中が破裂し臓物と血を散らしまるで彼岸花の様に背中から咲く姿からそう名付けられていると言うのに。
 
 「さて次は…本丸か…」
 
 ムメイは青い角と青い腕を持つ子鬼に向き合う。
 
 青鬼…その後ろで威嚇している黒い鎌鼬と同じ鬼の変異種。
 通常は数10年~100年、生きていてようやく変異するかしないか、それも他の妖魔を喰らい続けてようやくなれる代物だ。

 しかし…その姿は子供。
 自分より遥かに幼い姿をしている。
 
 明らかに異質…その無垢そうな姿と無害と思わせる顔とは裏腹にいや…そのせいか余計にとても恐ろしい物に感じられる。
 
 ……
 
 テルマがやられた…。
 
 ルークはその光景を見て、そう思い自身の感情が静かにしかし荒立たしく揺れ動くのを感じた。
 
 見たところ胸の傷が気になるが、確実な致命傷は無く吹き飛ばされただけだ…問題はない。
 
 テルマの強さはそこまでのものじゃない、黒い霧が立ち込めたあの場所で言えばちょうど大蜘蛛レベルといった所だ。
 
 おそらく力で言えばあの15歳ほどと見られる少女はちょうど後ろにいる黒い鎌鼬のクロといい勝負だろう。
 
 まあ、当然彼女がまだ力を温存しているのであれば話は別だ。
 
 ここは一番強いカードを持つ俺が行くしかあるまい。
 
 ルークはそう考え一歩。
 彼女に近づく。
 
 「仕方ないか…本当は戦いなんて専門外、何だけど」
 
 テルマとの戦い方を見るに相手は接近型、魔術師の俺とすこぶる相性が悪い。

 魔術師は本来、前衛には決して出ず後ろから呪文を準備し盾役の後ろからちょっかいを出したりする後方支援が基本だ。
 
 なのでよく戦場では陣形が乱れ乱戦となった際、魔術師は真っ先にチャンスとばかりに狙われて魔法を放つ前に接近を許し剣で切られ命をよく落とす。
 
 接近戦は正直苦手だ元いた世界での戦場ではミケさんやホノカが居たからこそ生き残れたと言っていいだろう。

 まあ今となっては対策案がいくつかあるが。
 
 「一応、聞いておくけど…やめない?
 暴力反対……ちょっ…!!」
 
 交渉…そこからの泣き落とし作戦、失敗…。
 
 彼女の正確な目的が何かは知らないがいきなり襲ってくるあたり話をしても無駄な状況だったか。
 
 彼女は一瞬にして間合いを詰めると両の手をルークの首めがけ手刀を走らせていた。
 
 「水仙(すいせん)」
 
 その手刀は止まらず、切断の抵抗すらも無くルークの首を掻き切った。
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