異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

46 刺客

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 「その命、積ませてもらうわ」
 
 暗闇の中、彼女はそう言い放つと同時にいきなり攻撃を仕掛けてきた。
 
 暗闇の中、繰り出される蹴り。
 しかし自分で防ぐ必要もない。
 
 彼女が現れた瞬間、テルマが反応し自分と彼女との間に割り込もうとすでに動き始めている。
 
 足がルークの顔に触れる直前。
 テルマの拳が彼女の腹部に撃ち込まれた。
 
 彼女は腹部を殴られ吹き飛ばされるかと思った瞬間。
 テルマの腕にまるで蛇の様に絡まり攻撃を躱すと逆に攻撃して見せた。
 
 「春蘭 (シュンラン)」
 「ぐが…」
 
 手刀でテルマのみぞおちを突き刺し引き抜く。
 
 「菫 (スミレ)」
 
 更に彼女は蹴りをテルマの顔に向け放つ。
 
 だがテルマは手で彼女の足を受け止め掴むと片側の3本の腕で殴り彼女を吹き飛ばす。
 
 「へぇ…兄さんやるねぇ。
 貴方も危険因子見たいだね」
 
 彼女は吹き飛ばされるも地面に綺麗に着地し何も無かったかのように立ち上がった。
 
 「摘み取らなきゃ…」
 
 一瞬でテルマに接近し体術を使用しテルマに攻撃を仕掛ける。
 
 蹴り、突き、手刀。
 
 テルマは最初の攻撃のせいか苦戦している。
 6本の腕で攻撃を捌くが防ぎ切れず徐々に傷を負っていく。
 
 ルークはその光景を眺めながら少し考え事をしていた。
 
 刺客…わざわざ正体を見せ真正面から来た理由は何か……力がある故の奢りからかそれとも何か理由があるのか。
 
 鎌鼬達は立ち上がり警戒し攻撃の許可を待ち。
 アンリはテルマを掩護すべく蜘蛛の糸を周囲に張り巡らし攻撃の機会を伺っていた。
 
 ……
 
 少しまずい事になった…。
 
 ムメイは心の中でそう舌打ちし目の前にいる妖魔を睨む。
 
 やはり、よく考えず行動に出たのは間違いだった様だ。
 あの人間の少女。
 
 鬼と共にいる少女が過去の自分と重なり感情的になってしまったらしい。
 
 だが…彼女は口をつり上げ笑う。
 
 私の技を防ぐ妖魔は稀だ。
 
 大体の殺しは人だろうと妖魔だろうと一撃で終わる、しかし今回は違うらしい。
 今この周囲にいる3体の妖魔 腕が6本の土蜘蛛と青い子鬼そして黒い鎌鼬。
 すべてが私に匹敵する力を持っている。
 
 それが今、実際に目の前にいる土蜘蛛と戦ってみて分かった。
 
 一度ここは引くべきか…そんな考えが頭を過ぎるが戦闘の最中、周囲を見渡し考えを変える。
 
 気づけばもう一匹の蜘蛛が周囲に蜘蛛の糸を張り巡らし更にその蜘蛛の糸の外には鎌鼬が構えている。
 
 思った以上に弱い妖魔の動きが早い上に良い動きをしてくる。
 
 別種族に関わらずこの統率力…。
 
 そう思考を巡らし彼女は冷や汗をかく。
 
 妖魔の進行? 東から出てきたのか…。
 
 「妖王が動いた?
 …いや…まだそう判断するのは早計か…」
 
 妖王、東の地…今だに人間にとっては未開の地。
 その地に住まうとされる妖魔達を統べる王。
 
 ここ数十年程、動きは無いが歴史上妖魔による人界への進行は幾度も記録されており。
 そのたびに多くの死者が出ている。
 
 もし仮にこいつらが妖王の斥候だとすると…。
 
 ……出し惜しみしている場合じゃない。
 
 
 テルマの拳を受け、逸らし、躱す。
 
 まともに一撃でも喰らえば致命傷を受けるだろうが それらの攻撃全ては単調。
 素人の動きだ。
 
 「戦闘になれてないな、お前。
  彼岸花 (ヒガンバナ)」
 
 彼女が繰り出す掌底がテルマの攻撃と防御をかいくぐり腹部に直撃するとテルマは吹き飛ばされアンリの蜘蛛の糸ごと森の中へちと消える。
 
 そのテルマを吹き飛ばした腕に巻かれた黒い包帯がポトリと落ちる彼女の皮膚は赤くそこには鬼の腕があった。
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