異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

33 トモエゴゼン

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 鉄石たたらの門前、そこでは今、続々と負傷者が運び込まれていた。
 人が慌てた様子で行き交い医者を呼ぶ声を上げている。
 
 「どうかしたのか?」
 
 俺はその場に近づきそうここの長であるトモエに聞く。
 トモエは苦々しそうにしながらも話し始めた。
 
 「鎌鼬だ…全く。
 本当に悩みの種だよ」
 
 トモエ曰く、鎌鼬はずっと昔からここに住まう妖魔の一族らしい。
 しかし、たたら場を作り山を徐々に切り開いていくうちに彼らの生存圏内に入ってしまい。
 それから彼らに襲われる様になってしまったとか。
 
 まあ、人の生活圏が大きくなり妖魔の住処と当たったと言う事だろう。
 それより…。
 
 「おい坊主、何するつもりだ?
 危ないから下がってろ!」
 「まあ、見てなって」
 
 俺は倒れている重症者を見て胸ポケットよりある道具を取り出した。
 No.18 ポーションタブレット。
 
 「ほら、これを噛め」
 
 一粒、口に落としてやる。
 
 「おい、何やってんだ!?」
 「まあ、いいからいいから」
 
 すると、少ししてすぐに傷口が消えて行きそれ…魔法なのだが…まるで魔法のように容態は良くなった。
 
 「あれ?痛くねぇ…」
 
 それを次々行っていく。
 重症者にはポーションタブレットを…。
 軽症者には…。
 
 「クラル『治療』」
 「おお!痛みが嘘見てぇに引いてく!
 見てくれっ切り傷も無くなっちまった!!」
 
 一通り終わり、満足げに頷くと隣にトモエゴゼンが歩き近づくと立ち止まった。
 
 「これは驚いた…。
 ルーク、そなた…妖術を得意とするのか?」
 「妖術?
 まあ、そんな所かな」
 
 トモエは何を思ったのか…そう言い笑っている俺を屋敷へと招待するのだった。
 
 たたら場の端、鬼達が住まう場所にトモエの屋敷はあった。
 
 「あら、トモエ様…お帰りになられたんで?」
 「トモエ様!遊ぼー!」
 
 その場所は鬼の女性や小鬼がたくさんいる。
 まだ昼間の為、男達はまだフイゴを踏んでいるのだろう。
 
 「ああ!! 見てみてかっこいい!」
 「話しかけてみなよ」
 「何よ、あなたが気になってるんでしょ?
 貴方が話しかければいいじゃない」
 
 子鬼の女の子達は群れ、家の影でそんな事を話しているのが聞こえる。
 
 「あの、ルーク様? もしかして私達、人里の美味しい食べ物を食べられる感じです?」
 
 アンリがそう分かりやすくヨダレをたらし聞いてきた。
 どうやらもうお腹が空いたらしい。
 
 「さぁ?頼んでみたらどうだ?」
 
 冗談で言ったのだが…。
 すぐさまにアンリはトモエゴゼンに聞いた。
 
 「あの! お食事ってご馳走してくれるんですよね!?」
 
 それにトモエはふっと笑い歩きながら頷く。
 
 「ああ、なにせ仲間を救ってくれたのだからな。
 京などで出される様な、雅(みやび)な物…では無いがそれなりにいける物だ」
 
 トモエが止まった屋敷、それはなんとも質素な物で、横に並ぶ民家と何ら代わり映えしない。
 
 「ここが私の家だ」
 
 そう言うと障子を開け入っていく。
 どうやら本当にこの家らしい。
 
 「まあ、狭いが座ってくれ」
 
 家に入る際ステラが頭をぶつけていたがその後はそう言われ座った。
 
 「少し茶でも飲んで待っていてくれ、美味(びみ)な馳走を振る舞ってやる」
 
 …
 
 それから料理が出来るまでの間、出されたお茶と煎餅(せんべい)を食べて待った。
 その家の玄関には子鬼達が集まり中にいる俺達を覗き見ている。
 
 珍しいらしい。
 
 そんな中、出された料理はこれまた見た事もないご馳走だった。
 
 米に味噌汁、漬物に煮物。
 それと焼き魚。
 
 どれも美味しく、特に大根と言う煮物は美味しかった。
  
 「すまないな、こんな物しか出せずに…」
 「いやいや、美味しいですよ!
 お代わりありますか!?」
 
 そんなこんなで食事が進む中、トモエはまるでワンコ蕎麦の様に食べるアンリに味噌汁やご飯を器に付けながら話を切り出す。
 
 「さて、本当の事を何処から話してもらおうか…。
 まずルーク、あの男が売りをしに来たと言うのは嘘だな?」
 「ふぇ?」
 
 それから、トモエにありとあらゆる事を聞かれ、アラネアの事や大工を雇に来た事。
 そして服を売りに来たことまでもがまんまと聞き出されてしまった。
 饒舌な戦いは苦手だ。
 
 それに気づいたのはもう言い終わってしい後の祭りだった…。
 しかし…トモエはそれを聞き頷くとそうか…と言うだけ。
 
 まぁ、それがバレた所で多分問題ない…様な気がするしオッケーって事で。
 
 そんな事を考え木造住宅の屋根を見て呆けていると、これまたトモエが話し始めた。
 
 「先の話、まだ分からぬが…力になれるかもしれんぞ」
 
 トモエはそう言い、俺を見る。
 
 「ただし、少し条件がある」
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