異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

32 鎌鼬

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 たたらの長(おさ)の名はトモエゴゼン、彼女は俺を小鬼と見抜き話しかけて来た。
 
 「えっと…偶然ここに迷い込んで…」
 
 とっさに思いついた事を口にし難を逃れようと試みる。
 
 「まぁ、そんな事はどうでもいいさ、取り敢えずその布を取りな。
 ここでは人も妖魔も無い。
 皆が家族さ」
 
 そう言いフードを取られ青い角が顕になりフードを抑えようとした青い腕が周りの視線を集めた。
 
 「青い子鬼? 人と共に迷った…?」
 
 トモエはそう言いながら手を顎に持っていき、アイノスケと俺をチラチラと見ている。
 そして、しばらく考えた素振りを見せると怖い笑顔を浮かべアイノスケに詰め寄った。
 
 「おい、お前…売りじゃねぇだろうね。
 ここは私の国、鉄石(てっせき)…人や妖魔の売り買いは許さないよ」
 「へ?いやいやいや、そんなめっそうなそんな事する訳無いでしょう」
 
 アイノスケは以前、山賊として妖魔を売ろうとしていた事を都合よく忘れたらしい。
 
 「その人、悪い人」
 
 俺はそう半分冗談で言ってみた。
 まあ、少しお灸を添えても罰は当たらないだろう。
 
 視線がアイノスケに集まるフイゴを踏む鬼達を始め周りの人達が取り囲みそして…。
 
 アイノスケは捕まった…。
 
 「ちょっと、旦那!! 嘘だって言ってくださいよー!」
 「うるさいぞ、黙れ!」
 「そんなぁ…」
 
 看守にそう怒鳴られアイノスケは諦めたらしかった。
 絶望したかのようにだらりと力を抜き壁に寄りかかっている。
 
 ここに来る前に朝食を食べているから食料は、まあ問題ないだろう。
 今日1日、牢屋に居てもらって山賊をやってた頃の罪を反省すると良い。
 そしてその状況を利用し…。
 
 「あと二人…友達がいるの」
 
 それから俺はテルマとアンリを呼びに再び森に向かい二人を見つけた。

 「ルーク様!お怪我はありませぬか」
 「えっ!人里に入っていいの!?」
 
 テルマとアンリを森の中に呼びに行き森から現れた。
 テルマは腕が6本ある大柄な男。
 アンリは上半身が人で下半身が蜘蛛の女。
 
 その姿は人からしてみれば、おぞましい姿だったのだろう。
 森から現れると人達の視線を釘付けにした。
 
 それに…3人とも白い服を着ている為余計目立ってしまってるのだろう。
 
 今、俺たちが来ている服は蜘蛛の里、アラネアで作っている研究服のオリジナル。
 
 これは…考えていなかった事だが、宣伝になるのでは…。
 
 そう考え、まだここの人達が彼らに慣れる前に商売を始めた。
 
 売る物は都で売る予定だった、白衣。
 
 …
 
 鉄石たたらより更に深い森にある川の上流。
 そこでは今日もいつも通り、山の土を削り川へ捨てる作業が行われていた。
 なぜ山を削り川へ流すのかと言うと砂鉄を手に入れる目的の為にある。
 砂鉄は土に混ざっているのだが、砂鉄は土よりも重い。
 それを利用し川の流れを利用する事で砂鉄と土で分ける事が出来る。
 だから川へ土を捨てているのだ。
 そしてその砂鉄はたたら付近の川に溜まる。
 それをすくいあげて、玉鋼の原料にしているらしい。
 
 森を切り開き山を削る、これは物凄く労力のかかる仕事で人手に時間それとお金がかかる。
 
 しかし…この行為を良しと見ない者達もいる。
 それはここに住まう妖魔達。
 彼らは自らのテリトリーに侵入し森を荒らす人間に怒りを募らせていた。
 
 「よし、このペースで行けば予定どうりに作業が進められそうだ」
 
 作業を行う人達は森の奥より迫る旋風に気づかず働いている。
 風が通り過ぎると木の葉や枝は斬れ、木々には刀傷ができていく。
 
 その風はやがて男達の作業している作業場まで届いた。
 
 「鎌鼬(かまいたち)だーー!!」
 
 一人の男が叫び声を上げ危険を知らせる。
 それで作業場は混乱しそれぞれ道具を地面に捨て逃げ始めた。
 
 「落ち着け!
 なんの為に我ら侍が付いていると思っているのだ!」
 
 これに対し侍たちは抜刀し構え迫りくる先風に目を細めた。
 
 …
 
 「私達、絡新婦(じょろうぐも)の糸で作った質の良い白衣だよー」
 「ほら買った買ったー!」
 「蜘蛛の糸、販売中!」
 
 たたらの街にやってきた変わった3人組は現在、白い服を路上販売していた。
 しかし…。
 
 いやー何故だろ…少ししか売れない。
 客は集まってるのに…。
 
 「ちっちゃな鬼さん、何を売ってるの?」
 「まぁ、いい色男ね」
 
 現在、偶然ながら俺とテルマは奥様方を、アンリは男性陣を集めている。
 アンリは下半身蜘蛛だが上半身は人の女性だからだろうか…。
 
 「なぁ、アンリちゃん。
 どぉ? 食事でも…」
 「え!? 食事です?
 ふーん、それって美味しいんですか?
 あ!えっと…無理です!」
 
 アンリは食事に行きそうになったがすぐさま俺を見ると慌てて首を横に振った。
 
 「ルーク様…やだなぁ、行くわけ無いじゃ無いですか…」
 
 全く…アンリはどこか抜けてるような…そんな気がする。
 
 そうして販売を続けていると門が開き人だかりは徐々に門の方へと取られていった。
 
 「おい!急いで医者を連れてきてくれ!!」
 「一体何があった!?」
 「鎌鼬だ!! 鎌鼬がまた襲ってきやがったんだ!
 それで何人かやられちまった…」
 
 そう門の方で話し声が聞こえた。

 



  
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