異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

28 農業改革

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 村を後にし俺は蜘蛛の里へ戻った。
 蜘蛛の里…アラネア。
 名前が無いのはいかがなものかと帰る途中に考えた名だ。
 こちらの世界と向こうの世界では言葉が違うため蜘蛛を向こうの言葉に変換しただけの名。
 
 俺はステラとテルマに命じ蜘蛛達を社に集めた。
 思ったが吉日、すぐに行動を移す。
 それに対し様々な問題が出るだろうが失敗しても繰り返し何度も研究を重ね起動にのせてしまえばいい。
 前例が無いからとそれを行わないのは探究する者としては失格だ。
 その前例とやらもまた前例が無い所から始まったのだから
 
 まず俺は蜘蛛達を取り敢えず3つの組織に分けた。
 一つは山で果物や動物を狩り採取する者。
 二つは服を研究、製造をする者。
 そして最後に米を作る者達だ。
 
 お米は俺が指揮をする。
 そして服にステラ、狩りにテルマといった具合だ。
 
 お米に必要な場所は目の前に広がった平原。
 まずそこを開拓する必要がある。
 木はあまり生えていないが川から水を引き湿田を作る必要がある。
 その為かなりの労力が必要だ。
 だが…これをやるのは人間では無く妖魔。
 村から来た人間を俺の横に置きアドバイスを聞きながら作業を進めていく。
 
 土蜘蛛は怪力な上穴を掘るのが得意。
 道具が無くとも水を引く水路を確保していく。
 そして耕すのは俺の役目。
 
 「アルドペルフェクト 『大地よ』〈上級〉」
 
 地面をうねらせ柔らかくしていく。
 造作もない作業だ。
 水路も申し分ない進み具合。
 あと少しで完成するだろう。
 
 「…こんな…速く」
 「やっぱ…戦わないのが正解だったな」
 
 その光景を目にし人間達は驚愕した。
 土蜘蛛の掘削力。
 何より大地が脈動しひとりでに耕かされていくさまは目を疑わせた。
 
 昼に差し掛かるころにそれは出来上がる巨大な水田(すいでん)。
 区分けし道がつくられそれはもう立派な田んぼだった。
 
 「あとは苗を植えればいいか」
 
 そう言い人間の村人を見る。
 しかし…それは何とも言えない表情だ。
 それもそうだろう。
 苗は村人の田んぼ分しかない。
 この巨大な水田の分は無い。
 
 と…なると育てるしかなく。
 その為には米がいる…。
 
 …
 
 あれから時は夕刻。
 俺と土蜘蛛が2人 絡新婦が1人。
 ひっそりと山の上より村を見ていた。
 村には明かりがかすかに灯りもう寝静まろうとしているのが分かる。
 
 「ルーク様! 確認してきましたがルーク様のよみどうり、侍なる者達がこの村に止まっているそうです」
 
 よし…、あとは年貢米を盗むだけ…だが、どうするか。
 この村で盗むのは簡単だが恐らくこの村の住人が疑われる。
 まあ、この村は今のところ仲良くしている村では無いので別に問題はないのだが、今後近くの村を吸収する事を考えるとそれは得策とは言えない。
 
 「彼らが米があるのを確認し出発したあとで盗んで取るか交渉で何とかしたほうがいい」
 
 できる事なら交渉が好ましい、と言っても交渉材料が無いので盗む予定だ。
 山賊共から奪った金では恐らく足りないだろうし。
 
 最初はそんな事を考えていたが、侍の姿を見て俺は考えを変えた。
 理由としてはその服装や纏う雰囲気だ、明らかに只者ではないだろう。
 
 部下を恐怖や金で従えるのではなく忠義で従え服装は甲冑ただの役人というよりは少なく見積もってここ周辺を治めるの貴族だと言われても不思議ではない。
 バレると後々面倒くさい事になりそうだ。
 
 …
 
 確認した事を確認し、こっそりと米の載せられた馬車に向かいリレー方式で一つ一つ俵を運んでいく。
 
 「よし…どんどん運んでいけ」
 
 米の入った俵の山がどんどん減っていく。
 侍の様子を見たが特に気づいている様子も見られず、ここに住む村人達と話していた。
 
 半分取ったしこれくらいでいいだろうと俺は満足げに頷き撤収の合図を出す。
 無事盗むことに成功した。
 
 …
 
 マサトヨはケンシンの軍に何が起こったのかを探るため村を各地周りそのついでに年貢を集め回っていた。
 年貢は部隊の食料になり得る上もし被害が出ている村があった際にそれをそのまま渡せる為だ。
 
 「マサトヨ様…この気配…いかがいたしましょう?」
 
 汗が額から落ちる。
 刀を握りマサトヨは目を瞑っていた。

 「刺激するな。
 今の所向こうも様子を見ているだけだ。
 この気は、尋常では無い。
 恐らく我らの戦力では太刀打ちできまい。
 触らぬ神に祟りなしだ…」
 
 ロウソクが揺らめきマサトヨの顔を照らす。
 部下に何時でも戦闘、出来るようにと武装をさせ体を休める。
 
 一体、この妖気はなんだ…?
 何が目的なのかと思考をする。
 
 最近、起きた不楽の件と関連性はあるだろうか?
 関連性はあるだろうが中心ではないだろう。
 不楽で見られた怪物は祟り神。
 知性もなく只々、生命を襲う化物。
 今遠くからこちらを観察している奴には間違いなく知性がある。
 
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