異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

24 蜘蛛の里

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 蜘蛛の里に来て、数日が経過した。
 ここでは、蜘蛛達が何から何まで世話をしてくれる。
 気持ち悪いけど…。
 
 獲物は山の動物、後はどこから取って来たのやら牛に馬。
 食料や水には困らない。
 
 正直ここを拠点にしても良いのでは無いかと思っている自分がいる。
 今、現在寝泊まりしている場所は社。
 どうやらもとは神を祀る場所だったらしい。
 ボロボロだったのを蜘蛛の糸でシュラが修復させたのだ。
 シュラ曰くここが自分にふさわしい寝床なのだそう。
 
 その社にはテンとイナリが一緒に暮らしている。
 アイノスケはシュラに追い出されていた。
 
 「旦那、できやしたぜ。
 牛肉の串焼き」
 「持ってきてくれ」
 
 アイノスケは俺がシュラの方じゃないかと気をつけながら社に入ってくる。
 
 「あっ優しい方の旦那っすね」
 
 アイノスケはそう見るや社に草履を脱ぎ、入った。
 
 「ほら、ご飯の時間だぞ」
 
 まだ眠っている子供二人を突っつき起こす。
 
 「んん…」
 
 目を擦りイナリは起きると隣でまだ眠っているテンを揺すって起こした。
 
 「アイノスケ、二人にあげてくれ。
 俺にはいらん」
 
 今では俺の食事はただ味を楽しむ為の娯楽となってしまっている。
 食事を取らずとも生きていけるのだ。
 どうやら、妖魔の中でもそれが出来るのは数少ない様だがそれに俺も当てはまるらしい。
 
 それに今日はやってみようと思う事がある。
 ここを拠点にするにあたりまずは彼ら蜘蛛の生活水準を上げ、より住みやすい場所にしてやった方がいいだろう。
 
 正直、蜘蛛の里は汚い。
 なんとかしないときつい物がある。
 
 俺は手首についた機械を見て触る。
 No.16 多機能通信ブレスレット
 黒い霧の中では通信不能であったがここならどうだろうか。
 
 そう思いながらも触れる。
 起動…ここまでは問題なし。
 
 ピコピコピコピコピコピコピコ……………………ン
 
 突如、機械が壊れたのでは無いかと思われる程に長く通知音が連続でしばらく鳴り続けた。
 
 「どうしたんですか?
 ルーク様」
 「いや…少し通信しようと」
 
 興味津々に二人の子供が寄り腕のブレスレットを覗き込む。
 
 ピッ
 
 通信のボタンを押す。
 どうやら先程のはおそらく向こうの世界からの通信をこの機器が受信した知らせだろう。
 
 通信してから数秒。
 
 ピコン
 
 タブレットより光が放たれ空中に映像が浮かんだ。
 そこは俺の研究室。
 異界門がある部屋だ。
 
 「先生!! 先生!?」
 
 懐かしいアイラの声が聞こえる。
 そして画面の中央にはアイラが写っていた。
 
 「アイラ、聞こえるか?」
 「はい? 聞こえます………って誰ですか!!?
 先生は何処に!?」
 
 アイラは子供になりそして鬼になってしまった俺を見て誰かを理解できず慌てふためいている。
 
 「こら!…そこの君。
 先生のブレスレットを何処で拾ったんですか!!
 先生に返しなさい!」
 
 アイラに怒られる俺……。
 
 「うわぁ、私はイナリよろしくね」
 「ふぇ……えっえっとなんて言ってるんです?」
 「僕はテンって言います」
 
 子供達は興味ぶかそうに画面を見て同い年に見える、アイラに向かって手を振っている。
 
 が…言語が違う。
 俺の様に頭の中にNo.2スーリヤが無い為。
 彼らの言葉は伝わっていないのだろう。
 それはアイラに限らずイナリとテンも同様だろうが。
 
 仕方が無いので俺が仲介役となり言語を変換してやった。
 
 「ねぇ、ねぇ。
 なんでそんな耳が長いの?
 緑の髪や目も不思議!!」
 
 「え?…私はエルフなので…」
 
 「エルフって何?
 聞いたことなーい」
 
 子供達の質問攻めに困っているアイラを見てしばらく楽しんだ後、状況を説明してやる事にしよう。
 
 …
 
 「先生、本当に先生なんですか?」
 「ああ、そうだ。
 何故かは定かでは無いが…恐らくこの世界の妖気に強く当てられた為では無いか…と仮定している」
 「なるほど…確かに魔力が濃すぎる場所では肉体が変異する現象がありますが。
 今の先生の姿の個体は情報がありませんからね。
 オークやゴブリンと言った獣牙族に似た特徴はありますけど…」
 
 どうやらアイラも俺と同じ考えらしい。
 
 「取り敢えずだが、問題は無い。
 このままこの世界で調査、捜索するつもりだ」
 「はい、分かりました。
 私も微力ながらサポートさせていただきます。
 それにしても……良かったです…。
 先生がご無事で…」
 
 あの大量の通知から考えても日に数回以上、掛けていたのだろう。
 アイラがどれほど心配だったのかが伝わってくる。
 
 「そう言えば、ホノカとミケさんはどうしたんだ?
 いないのか?」
 「それが…国から強制の徴兵令がありまして…。
 それで先生の代わりにミケさんとホノカさんは勇者である事を隠して…」
 
 そう言い切るとアイラは頭を下げうつむいた。
 
 それは…余程の事だ…。
 わざわざ、魔術研究者を戦場に出さないとならないほどに国が追い詰められている証拠だ。
 
 「アイラ、問題ない。
 ホノカとミケさんは異常な程に強い。
 なんてったって始まりの勇者だからな」
 
 始まりの勇者…これは彼女の凄まじい戦いぶりから付けられた名だ。
 あの頃は自分自身もまだ戦場に立たされていた時代。
 共に戦った仲の為その強さは理解できる。
 
 一騎当千とはまさにあの事。
 単身で戦場を駆け巡り敵兵を屠っていくさまは当時勇者と言われていた強者を遥かに上回っている事を事実で証明してみせた。
 
 そしてミケさん。
 猫な故に戦場での活躍は語られず知る人ぞ知る話なのだが。
 ホノカを上回る剣術の使い手だ。
 また知恵者で、頭のキレも尊敬する程に素晴らしいものだ。
 直感と直観と言う武器を双方、持ち合わせ戦場での場面を常に把握し無駄無く戦う。
 
 ので、恐らくは大丈夫な筈だ。
 後で連絡を取ることにしよう
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