異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

22 交渉

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 ケンシンの軍がシンゲンの統治している槿花へと進行してきた。
 この報告はシンゲンの耳に入るまでに時間は掛からなかった。
 それは異様な程に早く。
 
 「やはり来たか…」
 
 兵の数は30と少数、が…また国境付近にて数千の軍勢が待機していると報がとんだ。
 しかし、その報告には違和感がある。
 
 一体敵は何を狙っている?
 まず30人の軍勢、向かう先は何も無い妖魔の住まう領土手前にある山。
 それに、わざわざ旗を掲げここにいると言わんばかりにやってきた理由は?
 
 「まあいい…儂が出て蹴散らしてくれる」
 「シンゲン様! 
 お待ちください!!」
 
 武器である巨大な両刃斧2本を持ち上げようとすると戸が勢い良く開き4天王の一人、マサトヨが入ってきた。

 「おそらくこれは挑発です。
 ただでさえ今現在、妖魔に対して軍を割いている状況に対し、奴らは更に軍を…いえ、シンゲン様をこの都より離れさそうとしている物と考えるべきです」
 「では、どうする…
 民を捨て置けと?」
 
 シンゲンが頭を下げているマサトヨを一瞥すると再び座り直した。

 「では…どうするつもりだ?」
 「私めが、少数の軍で討伐してみせましょう」
 
 …
 
 軍隊は行進を止めず近づいて来ている。
 兵一人一人の顔つきは重い。
 彼ら30人。
 彼らは妖魔を屠る為の特化した先遣隊であった後ろには4千の築城兵が待機している。
 
 この作戦の全てを決める先遣隊、その隊長を努めている男、カゲシゲは自分のまかされた重要な任にやる気で胸を一杯にさせていた。
 
 の…だが…それも今や無い。
 あり得ない程の妖気が漂い、それに混じり今すぐにでも射殺さんとする殺気が己を襲う。
 
 一体何がこれから起こるというのか…一度…一度だけこの恐怖、緊張を経験した事がある。
 
 それは妖魔界へと足を踏み入れた時のこと。
 妖王…それは前触れも無く遭遇した時と同じ。

 目の前より歩いてくる小鬼から妖王と同じ気配が感じられる。
 
 「全軍、止まれ!
 化物が来るぞ…」

 吐き気を催す程の殺気と妖気。
 それに気づいているのはたったの数名。
 
 やばい…。
 
 早くこの場から逃げろと本能が叫ぶがそれを理性で押さえつけ踏みとどまる。
 
 …
 
 『ルークよ。
 いきなり襲いかかるでは駄目なのか?』
 
 殺気を放つシュラを抑え俺は30人の前に立つ。
 その部隊の隊長と思われる男は部隊を止め同じように前に出て俺の前で足を止める。
 
 沈黙があたりを包む。
 その沈黙を破ったのは相手の隊長らしき男であった
 
 「我が名はカゲシゲ。
 牡丹より来た侍だ!
 ケンシン様の命令のもとこの地に参った。
 貴殿は、かなりの強者(つわもの)とお見受けするが、何うえ我らが進路をはばかるのか!!」
 
 ほう、話の分かりそうな奴だ。
 いきなり襲いかかって来るようなら開幕に炎魔法を撃とうかと準備していのだがそれも必要なくなったな。
 
 「俺の名はルーク。
 この先の森を守る為、今ここにいる。
 悪いが、逆に問おう。
 お前たちは何故この先へと進むのか?」
 
 まっ聞くまでも無いが、やれるだけ穏便に行こう。
 争いが無い方がいいに決まっている。
 
 カゲシゲは、使命感という気力でなんとかこの場に立っていた。
 
 こいつは、我らが来ることを知っていてそれでいて尚、聞いている。
 下手な返答を返せば…確実にここにいる30の兵達は死ぬ事になるだろう。
 プレッシャーが襲いかかってくる。
 
 そして、カゲシゲは更なる恐怖に襲われた。
 今までこの目の前にいる小鬼、ルークのとてつもない妖気に巻き込まれていた為気づかなかったが。
 周りの山々から複数の妖気が立ち込めている。
 
 伏兵? まさか…一人も逃すつもりは無いのか…?
 
 生唾を飲み込み、兵士達を生かす道を模索する。
 
 「わ…我らがこの先に行く目的はすでに気づいているのでは?」
 
 それに対する返答は静かな物だった。
 
 「そうか…ならどうする?
 悪いが、こちらに武があるぞ」
 
 小鬼が手を上げた瞬間。
 地中より這い出る妖魔あり。
 大蜘蛛…この大きさならば町や村が危険なレベル、クラス参~弐 と言った所だろう。
 
 それが複数地中からボコボコと現れた。
 偵察を入れ、想定していたのだが数が多い。
 この子鬼に更にこの大蜘蛛達と戦うとなると戦力が足りない。
 
 だが、ルークの強さに気づけない弱きもの達は慢心する。
 
 「なんだ、少し数が多いが。
 まあ、問題ないだろ」
 「森の中で戦うより楽だ」
 「隊長! 一気にやっちゃいましょうよ」
 
 そんな部下達を背にカゲシゲは冷や汗を書く。
 心の中で、辞めてくれ刺激するな!!
 と叫ぶが彼らには当然伝わらない。
 
 「何、ビビってんすか?
 一匹の小鬼に蜘蛛は面倒っすけど俺達も30人いるんすから。
 勝てない訳ないっしょ」
 「馬鹿!!よせ!」
 
 一人の部下が暴走し陰陽術を行使した。
 
 「火術…発火」
 
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