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弐章 国づくり
19 蜘蛛の巣
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蜘蛛の里は酷かった。
何が酷いかと言われればその家だろう。
それは白い糸で作られた家でそこら中に円状の家々があちらこちらと無造作に作られている。
「どうぞ、この家です。
お入りください」
蜘蛛の巣の中に俺はいる。
俺なら入らない。
恐ろしすぎる。
だが、シュラは堂々とした態度で蜘蛛の後に続いていく。
他のメンバーもまた怖い様子でキョロキョロと辺りを見渡し俺に近すぎず遠過ぎずの距離を保っている。
「旦那…大丈夫なんですかい?
これ罠じゃ…」
「黙れ、人間。
妾は貴様と話す気は無い。
ルークの奴が生かす事を決めた故貴様を殺さぬが…。
それ以上臭い口を開いてみろ。
殺すぞ…」
アイノスケはそう言われ慌てて下がった。
シュラはやはりと言うか人間が嫌いらしい。
それに対し妖魔の人達には少し優しい様な気がする。
子供達が周りに集まるのにもそれほど気にしていない様だったし。
俺達は蜘蛛の巣へと入り座り、話を聞く。
蜘蛛の糸はベトベトとはしておらずそれどころかかなり上質な布のように折り重ねられ、まるで巣の中は上質なカーペットの様になっていた。
使い分けているのか、それともこの様な糸しか出せないのか。
後で研究のしがいがありそうだ。
そして今着ているボロボロの白衣の事を考え後で服でも作れないかと聞く事に決めた。
全員が入り床に座ると蜘蛛が話し始めた。
相変わらずこの光景には慣れない。
「何もお出しする事が出来ず申し訳ありません」
「そんな物は期待などしておらぬ。
早く貴様の頼みとやらを言え」
シュラは俺の体を使い堂々たる様子で腕を組み話す。
その様子に蜘蛛は怯える様にその大きな体を出来るだけ小さく見せ、反応は事あるごとにビクついている。
まるで危険な実見をしている俺のようだ。
「すっ…すいません。
ごっご無礼を、お許しください」
「許す。
続けろ」
シュラは即答し話を促す。
「はい、そのお願いと申しますのは…」
内容はこうだ。
今この里が危険な状況にある。
なので力を貸してほしい。
短く簡単に言えばこんな感じだろう。
なんでも人間の偵察が何度も森に入ったらしい。
その度に森の妖魔が狩られたと言う。
それは、この蜘蛛達も例外では無い。
「それで…我らが出向き戦ったのですが、逃してしまい…。
きっと人間の事です。
我らの力を調べに来たのでしょう。
恐らくですが、数日後には人間の陰陽師がこの森にくると思います」
シュラはそれを聞きニヤニヤと頬を緩ませ蜘蛛を見た。
「ほう、それはなんとも面白そうな事か…。
良かろう、妾が直々にその人間共を相手してやる」
そしてシュラは間を開け声を重くして言葉を続ける。
「で…対価は貴様らの何を献上する?
妾と取引するのだ…。
分かっておるとは思うが、それ相応の物でなければ釣り合わぬぞ」
蜘蛛は恐れ、たじろいだが決死の覚悟でそのシュラの問いに答えた。
「わっ…我らの命を貴方様に捧げます!!」
この答えに俺は困惑する。
自分の命よりも森や里が大切なのだろうか?
馬鹿な、自分がいるからこそ、里が大切なのだろうに…。
シュラはその答えに笑わず、蜘蛛を見据えた。
「なるほど…それが報酬か。
フフ…悪く無い。
決まりだ、それで構わん」
「ありがとうございます。
貴方様の様なお強い方がこの森にいて下さるだけで心強い事です」
蜘蛛は頭を下げているのか、体を伏せた。
…
シュラはただ一人、山を降り開けた平原で目を瞑り胡座をかいている。
「ルークよ、此度の小競り合いも命を取らぬつもりか?」
『当然だ、わざわざ敵を作る必要もないだろ。
それに相手は人間、どの様な文化、組織かは知らないが…。
恐らくここで殺せばまた次と更に人を増やしやって来るだろう。
殺すのは得策とは言えない』
まあそれもあるが、俺の目的の為にも人間との関係は良い方が好ましいしな。
「そんなもの、また倒せばいいだけの話しであろう?
何なら、妾がその国を滅ぼしてやっても良いぞ」
シュラがそう言うが俺はそれ以上は話さなかった。
足元の糸に振動が伝わった為だ。
昨日、俺はシュラと体を変わり蜘蛛達に指示を出していた。
まずは偵察、足の早い蜘蛛と伝達用の糸を引く蜘蛛を走らせ少し遠くの森に配置するよう指示していく。
後は連絡の方法振動パターンを教えれば敵が何処から、何処でどれ程の数が分かる。
まあ、急ごしらえの為、風などの問題が浮き彫りになったが無いよりはマシだ。
敵は…3。
人間、南の方角 ここから1つ先の山付近。
目的は不明。
…人間が3人?
蜘蛛達を殲滅するつもりなのか?
余程の精鋭か先鋒部隊なのか?
交渉の余地はあるか…。
考えを巡らす。
最悪の場合撃退。
念の為、蜘蛛たちには穴を掘らせ地面の中に配置してある。
やばくなればそれで形勢逆転、もしそれでも無理そうなら蜘蛛の糸を仕掛けまくった森まで撤退するつもりだ。
準備は万全を期した、後は敵の出方を伺うのみ。
何が酷いかと言われればその家だろう。
それは白い糸で作られた家でそこら中に円状の家々があちらこちらと無造作に作られている。
「どうぞ、この家です。
お入りください」
蜘蛛の巣の中に俺はいる。
俺なら入らない。
恐ろしすぎる。
だが、シュラは堂々とした態度で蜘蛛の後に続いていく。
他のメンバーもまた怖い様子でキョロキョロと辺りを見渡し俺に近すぎず遠過ぎずの距離を保っている。
「旦那…大丈夫なんですかい?
これ罠じゃ…」
「黙れ、人間。
妾は貴様と話す気は無い。
ルークの奴が生かす事を決めた故貴様を殺さぬが…。
それ以上臭い口を開いてみろ。
殺すぞ…」
アイノスケはそう言われ慌てて下がった。
シュラはやはりと言うか人間が嫌いらしい。
それに対し妖魔の人達には少し優しい様な気がする。
子供達が周りに集まるのにもそれほど気にしていない様だったし。
俺達は蜘蛛の巣へと入り座り、話を聞く。
蜘蛛の糸はベトベトとはしておらずそれどころかかなり上質な布のように折り重ねられ、まるで巣の中は上質なカーペットの様になっていた。
使い分けているのか、それともこの様な糸しか出せないのか。
後で研究のしがいがありそうだ。
そして今着ているボロボロの白衣の事を考え後で服でも作れないかと聞く事に決めた。
全員が入り床に座ると蜘蛛が話し始めた。
相変わらずこの光景には慣れない。
「何もお出しする事が出来ず申し訳ありません」
「そんな物は期待などしておらぬ。
早く貴様の頼みとやらを言え」
シュラは俺の体を使い堂々たる様子で腕を組み話す。
その様子に蜘蛛は怯える様にその大きな体を出来るだけ小さく見せ、反応は事あるごとにビクついている。
まるで危険な実見をしている俺のようだ。
「すっ…すいません。
ごっご無礼を、お許しください」
「許す。
続けろ」
シュラは即答し話を促す。
「はい、そのお願いと申しますのは…」
内容はこうだ。
今この里が危険な状況にある。
なので力を貸してほしい。
短く簡単に言えばこんな感じだろう。
なんでも人間の偵察が何度も森に入ったらしい。
その度に森の妖魔が狩られたと言う。
それは、この蜘蛛達も例外では無い。
「それで…我らが出向き戦ったのですが、逃してしまい…。
きっと人間の事です。
我らの力を調べに来たのでしょう。
恐らくですが、数日後には人間の陰陽師がこの森にくると思います」
シュラはそれを聞きニヤニヤと頬を緩ませ蜘蛛を見た。
「ほう、それはなんとも面白そうな事か…。
良かろう、妾が直々にその人間共を相手してやる」
そしてシュラは間を開け声を重くして言葉を続ける。
「で…対価は貴様らの何を献上する?
妾と取引するのだ…。
分かっておるとは思うが、それ相応の物でなければ釣り合わぬぞ」
蜘蛛は恐れ、たじろいだが決死の覚悟でそのシュラの問いに答えた。
「わっ…我らの命を貴方様に捧げます!!」
この答えに俺は困惑する。
自分の命よりも森や里が大切なのだろうか?
馬鹿な、自分がいるからこそ、里が大切なのだろうに…。
シュラはその答えに笑わず、蜘蛛を見据えた。
「なるほど…それが報酬か。
フフ…悪く無い。
決まりだ、それで構わん」
「ありがとうございます。
貴方様の様なお強い方がこの森にいて下さるだけで心強い事です」
蜘蛛は頭を下げているのか、体を伏せた。
…
シュラはただ一人、山を降り開けた平原で目を瞑り胡座をかいている。
「ルークよ、此度の小競り合いも命を取らぬつもりか?」
『当然だ、わざわざ敵を作る必要もないだろ。
それに相手は人間、どの様な文化、組織かは知らないが…。
恐らくここで殺せばまた次と更に人を増やしやって来るだろう。
殺すのは得策とは言えない』
まあそれもあるが、俺の目的の為にも人間との関係は良い方が好ましいしな。
「そんなもの、また倒せばいいだけの話しであろう?
何なら、妾がその国を滅ぼしてやっても良いぞ」
シュラがそう言うが俺はそれ以上は話さなかった。
足元の糸に振動が伝わった為だ。
昨日、俺はシュラと体を変わり蜘蛛達に指示を出していた。
まずは偵察、足の早い蜘蛛と伝達用の糸を引く蜘蛛を走らせ少し遠くの森に配置するよう指示していく。
後は連絡の方法振動パターンを教えれば敵が何処から、何処でどれ程の数が分かる。
まあ、急ごしらえの為、風などの問題が浮き彫りになったが無いよりはマシだ。
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交渉の余地はあるか…。
考えを巡らす。
最悪の場合撃退。
念の為、蜘蛛たちには穴を掘らせ地面の中に配置してある。
やばくなればそれで形勢逆転、もしそれでも無理そうなら蜘蛛の糸を仕掛けまくった森まで撤退するつもりだ。
準備は万全を期した、後は敵の出方を伺うのみ。
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