異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

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弐章 国づくり

18 うごめく森

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 俺は、異世界を旅している。
 全ては、過去に自分が救う事の出来なかった友たちを探す為の旅。
 それは、見つけるか、俺が死なない限り終わらない。
 
 まずプランはこう。
 第一に拠点を作る事。
 第二に情報収集
 これには異界人の話を片っ端から聞いていき見つけるつもりだ。
 
 取り敢えずはこんな所…。
 だが、この妖魔の子供達をどうすべきか、と悩んでいるのが現状だ。
 先に妖魔の里を巡り返そうか。
 そう考えている。
 
 「ルーク様、手を…」
 
 イナリが、手を差し伸べてくる。
 子供だ、きっと手を繋いで歩きたいのだろう。
 その手を握り、歩くと不思議と懐かしいな…と思う自分がいる事に気づいた。
 
 懐かしきあの頃…。
 まだ彼らがいた頃の時間、あの時間はまるで夢の様に楽しく、夢、幻の様に手のひらからするりと消えてしまった時間。
 
 取り戻すんだ…あの頃を。
 
 「ルーク様? どうされたんですか? 涙が…」
 「いや、なんでもないよ」
 
 軽く袖で拭い笑って見せる。
 まだだ…涙は、夢が叶った時に流そう。
 ここまで来た、この異世界まで。
 あと少し…あと少しだ。
 
 歩き、3日が経過した頃。
 山が見えた。
 それは高くそびえ立つ山。
 ここにたどり着くには食料の問題に水があったが山賊の倉庫から頂き、手に入れた。
 
 「ここがそうなのか?」
 「いえ、ここを抜ければ近道になると聞いた事があります。
 ですので、この山を超えれば見えるはずですよ」
 
 なんというべきか…山だ。
 話を聞く限り妖魔の里はどうやらあの山の奥にあるらしい。
 疲れそうだな…。
 
 「よし、行くか…」
 
 俺が山に入ろうとした時、テンとイナリが体を震わせなぜか体にしがみついてきた。
 
 「ここ、違う。
 私達の知ってる森じゃない」
 「やめた方がいいかも…」
 
 どうやら、この森におびえているらしい。
 確かにこの森は暗く静か。
 子供が怖がるのも無理は無いだろう。
 俺でも少し怖いくらいだ。
 
 「安心しろ、やばかったらなんとかする」
 
 きっとシュラが…。
 
 「ルーク様…」
 
 子供達は目を輝かせ俺の近くによってくる。
 
 「かっこいいです」
 
 そんな事をして、気持ちの良い気分を楽しんでいると、シュラが話しかけてきた。
 
 『クク…気をつけろよ…。
 この森は殺気に満ちておる』
 
 え…まじでやばいのか…。
 なら、回り道した方がいいのでは…。
 そう思い、言おうとしたが子供達の視線が痛かった。
 
 「よ…よし、それじゃあ行くか」
 
 …
 
 暗い森の中、獣道を行く。
 俺も馬鹿なものだ。
 子供達による尊敬の眼差しに押され、危険を犯すとは。
 
 だって…あそこでやっぱり回り道しようとは言えない。
 
 「あの…旦那、さっきから気になってるんですがね…。
 さっきからこの音…付いてきてないっすか?」
 
 カサカサ…
 
 確かにアイノスケの言うとおり、この音は先程から一定の距離を保ち周りを囲み移動している。
 
 それに気づいている皆は俺の近くに寄り沿い進んでいく。
 
 「なぜ…襲って来ないんだ?」
 
 妖魔ならすぐに襲って来るはず。
 それはあの黒い霧の中で嫌というほど経験した。
 妖魔では無いのか…?
 
 「多分ですけど…ルーク様が常に発せられてる妖気のおかげかなと…」
 
 イナリは震えながらそう呟く。
 妖気? なんだそれは…。
 
 そう思って聞こうとしたが、それよりも先につけて来ている何かが動いた。
 森がざわめき目の前の木々より6つの赤く光る何かが見える。
 そして次には目の前に大きな蜘蛛が現れた。
 
 それを見て俺はほっと息を撫で下ろす。
 
 「なんだ…ただの小さい蜘蛛か」
 
 確かに大人の人間程の背丈ほど大きいが、今まで戦ってきた蜘蛛に比べれば威圧と言い大きさと言い比べ物にならない。
 
 「あ…あの…強き方…。
 私は…この山に住まう蜘蛛族の長です。
 私達に戦う意志はありません。
 なので…少し話を聞いて貰いたい」
 
 これには驚いた。
 蜘蛛が見た目とはあり得ない綺麗な女性の声で喋っている。
 人間の声帯でも奪ったとか、そんな落ちだろうか?
 
 「ほう…聞こう…。
 それと、他に隠れておる者も死にたくなければ出てこい…」
 
 そんな事を考えているとシュラが急に体を取り、勝手に口を動かす。
 シュラが話すと突如としてこの場にいるアイノスケを除く全員は体をビクつかせ、俺を見た。
 どうやら全員怯えているらしい。
 あれ程懐いていたイナリやテンも手を離し距離を少し取ろうとゆっくり下がっている。
 
 「はい…申し訳ありません。
 私の配下達がとんだ御無礼を」
 
 続々と木々の奥から大きな蜘蛛達が這い出てくる。
 シュラはそれを見やると話を続けた。
 
 「それで…妾に話とはなんだ?」
 
 ん?…こいつ強き方って呼ばれて出てきたな。
 こいつはそう言う性格だ、妙にプライドが高く俺と同じでおだてれば調子に乗りやすい。
 
 蜘蛛は身構えながらも話を続ける。
 
 「はい…話と言うより…。
 お願いでございます…
 ここで話すのも、失礼に当たるかと思いますのでこの先にあリます。
 我らの里にお立ち寄り下さい」
 
 シュラは満足げに頷くと足を進めていく。
 
 そして俺は、妖魔の事は知らない為、このままシュラの好きな様にさせておく事にした。
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