異界門〜魔術研究者は小鬼となり和風な異世界を旅する〜

猫松 カツオ

文字の大きさ
上 下
17 / 90
弐章 国づくり

17 名も無き者

しおりを挟む
 売られそうになっていた亜人達は涙を流し息子や娘を抱き締め泣いていた。
 しかし、全員がそうだった訳ではない。
 天狗族のテンと妖狐のイナリは俺の側で少しでも離れまいと白衣を掴んでいる。
 
 話を聞くと、二人共、単独で捕まったらしい。
 里を出て二人でこっそりと落ち合い遊びに行った。
 までは良かったのだが、道に迷い人里近くまで山から降りてしまったそうだ。
 
 うん…何というか…子供らしい。
 きっと親は今頃は血眼になって探しているのだろう。
 
 そして彼ら他、3組の親子は人里におり、食べ物を買い込んでいた際に捕まったらしい。
 酷い話だ。
 
 お金は山賊と一緒に風魔法で飛ばしてしまった為、もう無い。
 本日初やらかし…。
 そして、よく考えれば他の山賊を飛ばした為、檻に入れといた山賊…このままだと助けが来なくて餓死する。
 しかし…また開けに行くのはかっこ悪い…。
 俺はそう思い、目の前の男を呼んだ。
 
 「アイノスケ君、この鍵を洞窟の檻の中に放ってきてくれたまえ」
 「任せてくだせぇ旦那。
 そんな雑用ならいくらでも…へい」
 
 彼は、こういった雑務に向いているらしい。
 言われるがままに走って行きすぐ帰って来た。
 きっと、今までこうして生き繋いで来たのだろう。
 手慣れた速さ。
 便利な事、この上ない。
 
 「旦那! 放ってきやしたぜ!
 次は何をしやしょう?」
 「次はそうだな…うん…」
 
 どうするか、とりあえず拠点が欲しい所だ。
 この世界で活動、調査、そして捜索する為の。
 そのためにはまず…人の村にでも行くべきだろうか?
 しかし、妖魔は嫌われており、下手をすれば捕まえられる可能性すらある。
 となると、妖魔の里か…。
 
 「よし! 決めた。
 まずは妖魔の里とやらに向かうことにする。
 テン、イナリ。
 場所を教えてくれ」 
 「えっと」
 「その…、私達も迷子になって…その道が…」
 
 しまったそうだった。
 子供に頼るべきでは無い案件だった。
 ならば大人は…。
 着たいを込めた目で見る。
 するとやはり知っている様だった。
 白い髪をした犬神族の大人がオロオロとしながらも話し出す。
 
 「あの…正確ではありませんが…。
 大体の場所なら分かりますよ」
 
 
 ✿❀✿❀✿
 
 火の上がる村、少女は一人その中で佇んでいた。
 
 いつもの様に帰りを迎えてくれる村の人達はいない。
 帰る家は火に包まれ跡形もなく潰れてしまっている。
 
 「お婆ちゃん!! お爺ちゃん!」
 
 少女の叫び、呼ぶ声に返事は無い。
 ただ、炎に包まれた家がギギギ…パチパチと音を立て崩れていくだけだ。
 
 「あっ!」
 
 ズシャリ
 
 何かに躓き転んだ。
 それを見ると人の形をした何かだった。

 「…何これ…?
 お婆ちゃん!! お爺ちゃん!!
 どこにいるの!?」
 
 怖くなり少女は起き上がると血が滲み出る膝を無視し涙を流しながら村を彷徨う。
 
 グガァアアアア!!
 
 そんな中、空気が震え炎が一時的に消える程の唸り声がこだました。
 少女は恐る恐る声がした方へと歩み、それを見る。
 瓦礫の中に立っている赤い体に角。
 鬼だ。
 鬼が炎の中を平然と歩き暴れ回っている。
 
 あいつが…村を…。
 
 鬼は何かと戦っているらしく、大きな声で唸り、黒装束の集団に向かって行く。
 悪霊払いだろうか?
 きっとそうだ。
 悪い鬼を退治しに来たに違いない。
 
 少女はそう思いながら意識が遠くなっていくのを感じる。
 疲労からか…煙のせいか、この熱気のせいかは分からないが抗うすべも無くそのまま地面に倒れ込み意識を手放した。
 
 …
 
 暖かい…気持のいい心地だった。
 どうやら、抱きしめられている様でとても安心感がある。
 目を開け見ると森の中、誰かに抱っこされ運ばれているらしく木々が離れていく。
 
 横を向きその顔を見ると黒装束を着た女性だった。
 
 「起きた? 起こしてごめんね…。
 もう少しで安全な……場所につくから」
 
 女性の声は少し、違和感があった。
 どうやら痛みをこらえているらしく、どこかフラフラとした足取りだ。
 
 「大丈夫? お姉ちゃん、血が」
 
 頬から流れる血を見て少女は心配そうに尋ねる。
 女性は左袖でその血を拭う。
 
 足を引きずり腕からも血が垂れ息も荒い。
 それでも少女は確認したい事があり聞いた。
 
 「ねぇ? お爺ちゃんとお婆ちゃんは何処?」
 
 その問には沈黙が長く続いた。
 なんと応えるべきだろうか…。
 あの村に生き残った人は私とこの子だけ。
 この子の言う人達はきっと…。
 
 「す…少しの間、出掛けてる。
 だからその間は私が、面倒を見るようにって頼まれたの」
 
 嘘だった。
 正直にもう死んでこの世にはいない、と伝えるべきだったのだろうか?
 これまで、戦いしかして来なかった私には分からない。
 
 それでも…私はこの子に光を見た。
 暖かな光、この暗く冷たい世界の中に浮かぶ、まるで太陽の様な光。
 
 まだよく、分からない感情だけど私は…この子と暮らしてみたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...