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弐章 国づくり
16 マムシ山賊団
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山賊が住まう古びた寺、その障子が開き大人の男が5人、外へと現れた。
相対するは子供の青小鬼が一人。
戦況を普通に見れば小鬼に勝機は無く、無謀かに見えた。
「おいおい、あいつ子供相手に殺られたんじゃあねえだろうな」
小鬼が腰につけた刀を見据え、一際大きな男が睨みつけてくる。
こいつが親玉なのだろうか…。
それは分からないが、話が通じる相手ではなさそうだ。
そもそも、俺や他の人達を売り飛ばそうとしている連中だ、ろくな奴らじゃない。
「おい、お前らさっさとそこのガキと逃げてるガキ共を捕まえろ!!
もし大金になるガキを逃す下手でもすりゃあ、あの方に消されるぞ」
「へい」
「任せてくだせぇ」
5人のうち2人が俺の方へ、残り一人一人が岩の洞窟、そして外の牢屋の前にいる子供を捕らえようと走り出した。
「ツインフレイム 『対なる炎』」
両手を広げ二つの火の玉をそれぞれの目の前に着弾させる。
爆風に飛ばされ二人の男が空を飛ぶ。
「待て、俺が相手をしてやる」
そう告げ5人を見やるともう既に今の攻撃で二人が伸び残り3人となっていた。
「妖術使い!?」
「ボス!逃げましょう!!
俺達じゃ、無理だ」
部下の二人は今の魔法を見て既に心が折れたらしい。
逃げようと背を向け走り出そうとしている。
だが…。
「ふざけんじゃねぇよ!!」
大きな体躯の男が刀を抜き一度に男達の背中を切り裂く。
「雑魚が、もしここで逃げたところでマムシ様に殺されるのが落ちだ。
弱く、そんな事もわからねぇ部下はいらねぇ!」
その言葉を痛みでもがいている男達に浴びせると俺に向けて刀の切っ先を向けた。
「それで、お前は逆らった訳だ…もったいねえが殺す」
「ほお、やれるものならやってみたらどうだ?」
少し挑発してやる。
この発言に意味は無い、ただ少し格好つけ、ふざけて見ただけだ。
「ほお、威勢のいいガキだな。
それとも、この雑魚共を妖術で怖がらせた事に調子乗ってんのか?
こいつ等は騙せても俺は騙されん。
見た所これ程の威力、強すぎだ!」
魔法でえぐれ煙を上げている地面を見て笑う。
「恐らく貴様の妖術は幻影。
つまりは幻、コケ脅しだ!
派手にやりすぎたなぁ小僧!!」
男はそう叫び襲いかかってくる。
「テンペスタ 『嵐』」
俺がそう唱えると風が巻き起こり男、そして寺を丸ごと包み飛ばした。
寺は余程古くなっていたらしい。
みるみると分解されていき下の土台部分のみが残りその他は空へと消えた。
「悪いな。
だが…うるさくなくなった…」
もう安全と見て天狗族の男の子とイナリが駆けつけ俺に近づく。
「ルーク様、さすがです!!
私、一時はどうなるのかと」
天狗族の少年がそう話しかけてくる。
「凄いです!
火に風に、不思議な傷を治す妖術。
本当に凄いです」
イナリもまた俺を褒めてくれている。
俺は調子に乗った。
「ん?そうか?
そうかなー?」
褒められるのは好きだ、研究室に籠もり続けた人生アイラ以外にあまり褒められる事は無い。
なのでついついもっと良い所を見せようと調子に乗りやすい、例え子供に褒められたとしても……。
「そういえば、君の名前はなんていうんだ?」
天狗の少年は少し慌てた様子で話す。
「わっ…僕はテンと申しますです。
それにしても見事な妖術ですね。
風を扱うは我ら天狗族が一番だと思ってましたが。
これほどの風、頭領(とうりょう)であらせられるフウカ様と肩を並べられる程の凄まじさで…感服しました」
頭を下げるテンを見て俺は高揚感に満たされた。
それほど凄い魔法だっただろうか?
まあ、確かに向こうの世界でも俺は魔術の第一人者として王国に認められていたからな…。
こちらの世界でも通用するレベルなのだろう。
そんな事を考えていた為、注意が散漫となっていたらしい。
「キャー!!」
「離して!」
声がした方向を見ると鬼の少女が人間に捕まり刀を首に向けられていた。
「おら! オメェらおとなしくしやがれ!!」
「ユウカ!! お願いします。
その子では無く私に刃をお向け下さい!!」
俺は、人間の男を見て手を銃の形へと構え人差し指を向ける。
「一応、忠告しとくが、俺が使える魔法はさっきのやつだけじゃ無い。
恐らくお前は、人質を取り盾に使う事で魔法を使えない様にしているつもりだろうが、威力を抑えればどうにでもなる。
降伏しろ…」
「へっ、小鬼が何言ってんでぇ。
そんなコケ脅しがこのアイノスケ様に効くかってんだい…」
「アグアゲショス 『水弾』」
俺の指先より放たれる水の弾。
かなり威力は調整されているので当たっても致命傷にはならない。
その弾はねらい違わず男の刀を持つ手に吸い込まれていく。
「痛って!!」
痛みにたまらず刀を落とし手を抑えた。
「えい!!」
おまけに自由になった小鬼の蹴りがスネに当たる。
「ぬが!!」
男はぴょんぴょんとスネを押さえ跳ねている。
しばらくして、ようやく動きを止めたかと思うとアイノスケは今の自分が置かれた現状に唖然とした。
檻から大人の妖魔達が出て自分は人質も味方もおらず一人。
…
「すいませんでしたー!!
いやー、あっしもマムシ山賊団の一員なもんでね。
この仕事が成功できなきゃあ、明日の御飯(おまんま)も食えねえ。
嫌々、やってたんでさぁ」
こいつ、変わり身の早い奴だ。
さっきまでは人質を捕まえて調子乗ってたくせに。
まあ、調子乗るのは俺もそうなのだけれども。
「そのー、それで何ですがね?
お願いが…ありやして。
あっしを部下にして貰えやせんか?」
「なんでお前を…」
そう俺が言おうとするとアイノスケはそれを遮り話を続ける。
「まあまあ、旦那。
このまま、ここに入ればマムシの大親分に消される身。
ですが、旦那のお膝下なら安心かと思いましてね」
アイノスケは頭を叩き調子よく笑う。
人…か、何かこの世界に関した情報を得られるかも知れない。
俺はそう思い信用ならないと思いながらもこの男を連れて行くことに決めたのだった。
相対するは子供の青小鬼が一人。
戦況を普通に見れば小鬼に勝機は無く、無謀かに見えた。
「おいおい、あいつ子供相手に殺られたんじゃあねえだろうな」
小鬼が腰につけた刀を見据え、一際大きな男が睨みつけてくる。
こいつが親玉なのだろうか…。
それは分からないが、話が通じる相手ではなさそうだ。
そもそも、俺や他の人達を売り飛ばそうとしている連中だ、ろくな奴らじゃない。
「おい、お前らさっさとそこのガキと逃げてるガキ共を捕まえろ!!
もし大金になるガキを逃す下手でもすりゃあ、あの方に消されるぞ」
「へい」
「任せてくだせぇ」
5人のうち2人が俺の方へ、残り一人一人が岩の洞窟、そして外の牢屋の前にいる子供を捕らえようと走り出した。
「ツインフレイム 『対なる炎』」
両手を広げ二つの火の玉をそれぞれの目の前に着弾させる。
爆風に飛ばされ二人の男が空を飛ぶ。
「待て、俺が相手をしてやる」
そう告げ5人を見やるともう既に今の攻撃で二人が伸び残り3人となっていた。
「妖術使い!?」
「ボス!逃げましょう!!
俺達じゃ、無理だ」
部下の二人は今の魔法を見て既に心が折れたらしい。
逃げようと背を向け走り出そうとしている。
だが…。
「ふざけんじゃねぇよ!!」
大きな体躯の男が刀を抜き一度に男達の背中を切り裂く。
「雑魚が、もしここで逃げたところでマムシ様に殺されるのが落ちだ。
弱く、そんな事もわからねぇ部下はいらねぇ!」
その言葉を痛みでもがいている男達に浴びせると俺に向けて刀の切っ先を向けた。
「それで、お前は逆らった訳だ…もったいねえが殺す」
「ほお、やれるものならやってみたらどうだ?」
少し挑発してやる。
この発言に意味は無い、ただ少し格好つけ、ふざけて見ただけだ。
「ほお、威勢のいいガキだな。
それとも、この雑魚共を妖術で怖がらせた事に調子乗ってんのか?
こいつ等は騙せても俺は騙されん。
見た所これ程の威力、強すぎだ!」
魔法でえぐれ煙を上げている地面を見て笑う。
「恐らく貴様の妖術は幻影。
つまりは幻、コケ脅しだ!
派手にやりすぎたなぁ小僧!!」
男はそう叫び襲いかかってくる。
「テンペスタ 『嵐』」
俺がそう唱えると風が巻き起こり男、そして寺を丸ごと包み飛ばした。
寺は余程古くなっていたらしい。
みるみると分解されていき下の土台部分のみが残りその他は空へと消えた。
「悪いな。
だが…うるさくなくなった…」
もう安全と見て天狗族の男の子とイナリが駆けつけ俺に近づく。
「ルーク様、さすがです!!
私、一時はどうなるのかと」
天狗族の少年がそう話しかけてくる。
「凄いです!
火に風に、不思議な傷を治す妖術。
本当に凄いです」
イナリもまた俺を褒めてくれている。
俺は調子に乗った。
「ん?そうか?
そうかなー?」
褒められるのは好きだ、研究室に籠もり続けた人生アイラ以外にあまり褒められる事は無い。
なのでついついもっと良い所を見せようと調子に乗りやすい、例え子供に褒められたとしても……。
「そういえば、君の名前はなんていうんだ?」
天狗の少年は少し慌てた様子で話す。
「わっ…僕はテンと申しますです。
それにしても見事な妖術ですね。
風を扱うは我ら天狗族が一番だと思ってましたが。
これほどの風、頭領(とうりょう)であらせられるフウカ様と肩を並べられる程の凄まじさで…感服しました」
頭を下げるテンを見て俺は高揚感に満たされた。
それほど凄い魔法だっただろうか?
まあ、確かに向こうの世界でも俺は魔術の第一人者として王国に認められていたからな…。
こちらの世界でも通用するレベルなのだろう。
そんな事を考えていた為、注意が散漫となっていたらしい。
「キャー!!」
「離して!」
声がした方向を見ると鬼の少女が人間に捕まり刀を首に向けられていた。
「おら! オメェらおとなしくしやがれ!!」
「ユウカ!! お願いします。
その子では無く私に刃をお向け下さい!!」
俺は、人間の男を見て手を銃の形へと構え人差し指を向ける。
「一応、忠告しとくが、俺が使える魔法はさっきのやつだけじゃ無い。
恐らくお前は、人質を取り盾に使う事で魔法を使えない様にしているつもりだろうが、威力を抑えればどうにでもなる。
降伏しろ…」
「へっ、小鬼が何言ってんでぇ。
そんなコケ脅しがこのアイノスケ様に効くかってんだい…」
「アグアゲショス 『水弾』」
俺の指先より放たれる水の弾。
かなり威力は調整されているので当たっても致命傷にはならない。
その弾はねらい違わず男の刀を持つ手に吸い込まれていく。
「痛って!!」
痛みにたまらず刀を落とし手を抑えた。
「えい!!」
おまけに自由になった小鬼の蹴りがスネに当たる。
「ぬが!!」
男はぴょんぴょんとスネを押さえ跳ねている。
しばらくして、ようやく動きを止めたかと思うとアイノスケは今の自分が置かれた現状に唖然とした。
檻から大人の妖魔達が出て自分は人質も味方もおらず一人。
…
「すいませんでしたー!!
いやー、あっしもマムシ山賊団の一員なもんでね。
この仕事が成功できなきゃあ、明日の御飯(おまんま)も食えねえ。
嫌々、やってたんでさぁ」
こいつ、変わり身の早い奴だ。
さっきまでは人質を捕まえて調子乗ってたくせに。
まあ、調子乗るのは俺もそうなのだけれども。
「そのー、それで何ですがね?
お願いが…ありやして。
あっしを部下にして貰えやせんか?」
「なんでお前を…」
そう俺が言おうとするとアイノスケはそれを遮り話を続ける。
「まあまあ、旦那。
このまま、ここに入ればマムシの大親分に消される身。
ですが、旦那のお膝下なら安心かと思いましてね」
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