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運命の出会い

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 早朝の朝。
 冒険者が行き交う街道の中。
 灰色のローブを着た男が人混みを縫うように歩いていく。
 
 そんな中、一人の女性と肩がぶつかった。
 
 「あっ…すいません」
 
 彼女は走り、慌てていたらしくぶつかると直ぐに頭を下げ謝った。
 
 「フィレア、何している!?
 依頼に遅れちゃうぞー!」
 「ちょっと待って!」
 
 急かされ慌てる彼女を見て灰色のローブを着た男は微笑み話しかける。
 
 「別に気にしてないよ。
 それより…早く行ったほうがいい。
 依頼に遅れると報酬額が差し引かれるから」
 「はっはい!
 本当にすいませんでした!」
 
 彼女はぶつかってしまった相手が怒っていない事を悟り彼女も笑いかけ再び謝ると仲間の後を追い人混みに消えた。
 
 …
 
 「フィレア!守れ」 
 「お願いモモ!守って」
 
 人気のない山道。
 そこには荷馬車が一台と4人の冒険者パーティー。
 そしてそれを数匹の狼がその周りを取り囲むように広がり全方面から馬車を狙い襲いかかってくる。
 
 それに対し冒険者パーティーは一組に固まり対応した。
 
 だが…失敗。
 依頼である荷馬車の護送は結果、守らなければいけなかった馬や荷物は傷つき彼らが所属するギルドへと損害賠償請求が送られる結末となった。
 
 「ごめんなさい私がしっかり守らなきゃいけなかったのに…」
 「いいってフィレア大丈夫、失敗は誰にでもあるから」
 
 このパーティーのリーダーであるハサドは落ち込むフィレアにそう笑って言った。
 
 …
 
 それからその日の夕暮れ時の事…。
 
 「確認したところ…現在フィレアさんのメンバー権限は失効されています…」
 「そんな…何かの間違いじゃないですか?
 もう一度確認をお願いします!!」
 
 ギルド内。
 皆の注目がカウンターの受付嬢と肩にもふもふの小さな生物を乗せた女性フィレアに集まっている。
 フィレアはそんな中、受付の女性と話を進めていた。
 話の内容はギルド員、全員に与えられるメンバー権限について…。
 
 「ファファファ…」
 
 不思議な笑い声を出す男がカウンターより奥から現れフィレアに近づく。
 この男の名はベガ、このギルドのマスターだ。
 
 「フィレアさん…貴方また依頼を失敗しましたね?
 貴方がこのギルドに入ってから今回でもう3回目ですよ」
 「すいません…次は失敗しませんから」
 
 その言葉を聞きベガはため息をつく。
 
 「そもそも貴方をギルド員にしたのはその珍しい召喚師という役職だったからこそ、行く宛もない貴方をこのギルドに入れてあげたのですけどねぇ…」
 
 そしてベガはフィレアの持つギルドカードをすっと奪い取るとギルドの出口に指をさし言う。
 
 「この際です、はっきりと言いましょう貴方はいらない。
 さぁ、荷物を纏めてその肩にいる毛むくじゃらの小汚いペットを連れて何処とにでもお行きなさい」
 
 そして居場所が無くなり荷物を纏めギルドを出る際。

 「正直…貴方は本当に期待はずれもいいところでしたよ」
 
 そう、ギルドマスターのベガがつぶやいていた。
 更には周りからはクスクスという笑い声が聞こえフィレアは涙をこらえながら肩に乗り心配している召喚獣ピコを撫でながらその場を離れた。
 
 …
 
 「ごめんね…またギルドから追い出されちゃった…。
 私って本当に駄目だな…」
 
 道の端でピコを手の平に乗せそう話しかけ、頭を撫でる。
 落ち込み目から水が溢れ落ちた時、彼女の目の前に手が指し伸ばされた。
 
 「ギルドから追い出されたって?
 なら、うちに来るといい」
 
 フィレアは涙を拭い顔を上げるとそこには灰色のローブを纏った男が目の前に立っていた。

 「へ?
 あの…貴方は?」
 
 見知らぬ男…それも怪しい姿をした。
 
 「ああ…これは失礼しました。
 私はテラ、リベラシオンのギルドマスターをしている者です。
 君達の話し声が聞こえてしまってね」
 
 そう言いテラはローブについた金色のバッジを見せた。
 それはギルドマスターを証明するバッジ。
 だが…リベラシオンなんて聞いたことのないギルド名だ。
 
 フィレアのそんな疑問に答えるかのようにテラは指をさし教える。
 だが…指先はフィレアに向けられていた。
 
 「私?」
 「いや…違う。
 ちょうど君が座っている後ろ…そこがホームだ」
 「え!?ここが…」
 
 そこはギルドのホームと言うより廃墟の家といわれた方が納得できる印象を受ける。
 現にフィレアは誰も住んでいないだろうと思い人通りも少ない道にあったこの玄関先の階段に座っていたのだから。
 
 「まぁ、ギルドって言ってもまだ10人くらいしかいない弱小ギルドだけどね」
 
 テラはそう言うと扉を開けフィレアをギルドのホームへと案内した。
 扉を開けると地下へ通じる階段があり、そこを二人はコツコツと音を立てながら降りる。
 
 その際にテラはギルドから追放された理由を聞く。
 それにフィレアはただ自分が弱いからですと答えた。
 
 元気が無かった為、何か話をと思い聞いたのだが彼女はよけいに落ち込んでしまったらしい。
 どうも…こういった時に励ますのは苦手だ。
 
 「そう…か。
 すまない嫌なことを聞いてしまった…」
 
 テラは薄暗い中、階段の一番下まで降りると扉を開ける。
 すると扉の内側から光が溢れ出し二人を包んだ。
 
 そこは酒場、だが今はギルドのホームとして利用している。

 「あっ!
 テラさんおかえりー!!」
 「マスターおかえりなさいませ」
 
 「ああ、ただいま」
 
 そこには数人の冒険者達がテラの帰りを待っていた。
 
 フィレアは外の外観と中の内装のギャップに驚いているらしくキョロキョロと周りを見回している。
 
 「テラさん!
  おかえりなさい!!」
 
 部屋に入り数歩進むと明るい声と共に一人の少女が近寄り後ろにいるフィレアを覗きこむ。
 
 「後ろのお姉ちゃんは誰ですか?
 もしかして新しい家族!?」
 「いや…それはこれから彼女に決めてもらってからだ」
 
 そう言い俺は後ろにいるフィレアを皆に紹介した。
 
 「私はルミネ!
 よろしくねフィレアお姉ちゃん!!」
 
 それからフィレアは皆に囲まれワイワイと盛り上がり徐々にではあるが笑顔を取り戻していったようだった。
 
 そんな彼女を見てテラは微笑みカウンターに座る。
 
 「どうでしたか?
 依頼の話は」
 
 このギルドで受付嬢をしてくれている女性がカウンターでそう話をしながら飲み物をグラスに注ぎテラの前に置く。
 
 「まずまずだな…。
 冒険者組合からいくつか譲っては貰ったが数件程度さ…」
 
 冒険者組合…主にギルドを束ねている組織で街の人から集めた依頼をギルドへと提供してくれる。
 
 「皆が満足出来るような好条件の依頼ばかりにしてやりたいんだがな…」
 
 このギルドはまだできて数年とたってもいない為、冒険者組合からの信頼は薄い。
 その為大抵のいわゆる好条件の依頼は大きなギルドへ行ってしまい逆にあまり条件の良くない依頼は小さなギルドへと来てしまうのだ。
 
 「仕方ありませんよマスター。
 一人で背負わず皆で一歩ずつこのギルドを良くして行きましょう。
 それに皆はもうマスターのおかげで満足していますよ」
 「そうだな…確かにこのまま依頼をこなし続ければ少しずつではあるが確かに信頼は得られる」
 「ええ…頑張りましょう、皆で」
 
 「ええ!?
 フィレアお姉ちゃん召喚師なの!?」

 その言葉を聞き後ろを向くとフィレアがちょうど皆に召喚魔法を見せている所だった。
 
 「ほお、召喚魔法…それもこれは…」
 
 感じる魔力には何処か雑さを感じるがとても力強い魔力を感じた。
 
 「獣魔召喚。
 おいで…モモ」
 
 光が酒場のホームを包み地面に魔法陣が現れる。
 そして現れたのは大きなパンダだった。
 
 「凄いな。
 こんな召喚獣を出せるのに前のギルドから追い出されたのか」
 「はい、依頼を3回失敗してしまったんです…。
 私が駄目なばっかりに皆に迷惑をかけちゃって。
 その…この子達は凄いんですけど長く召喚維持ができなくてすぐ帰ってしまうんです」
 
 その様子を見ていた俺は立ち上がり彼女の前まで歩き止まる。
 
 「少しいいかい…」
 
 そう言うや否やテラは彼女の胸…心臓の上辺りに触れようと手を伸ばす。
 
 「何するんですか!?」
 
 パンッっと音が響きそしてその後、どっと笑い声がその場を満たした。
 
 「ハハハハ! 
 マスター!またやられちまったな!!」
 「テラさん!
 それをやるならちゃんと説明しないと!!」
 
 別に…胸を触るために触れようとしたのでは無い。
 俺の特殊職、解放者の力を発揮させる為に必要なことだからだ。
 
 解放者…その能力は自分、または他者の力を解き放ち解放する力。
 他にも封印や呪いの解除も可能だ。
 
 召喚師なども数少ない特殊職だが俺の力は少し違う。
 これまでに発現されていないユニークジョブと呼ばれる特殊職の中でもさらに特殊なものでおそらくは自分くらいしか持っていない職業だろう。
 
 それらを説明しフィレアの胸に触れた。
 
 「フィレア、汝の力を解放する」
 
 彼女の奥底に眠る魔力…それらを解放する。
 どうやらフィレアの魔力はかなり隠れているらしく少し時間がかかった。
 
 「何これ…力がどんどん溢れてくる…」
 「驚いたな、フィレア。
 君にはまだかなりの潜在魔力があるみたいだ」
 
 これまでかなりの数の人達にこの力を使用してきたが彼女程に魔力量の底が見えないのは初めてだ。
 
 「これで少しは以前より魔力を引き出せる様になったはずだ。
 あとは努力次第で強くなれるよ」
 「え? 
 まだ強くなれるのですか!?
 今でも魔力が溢れてくるのに…」
 
 フィレアは自分の胸や手を見ては溢れ出る魔力を感じている様だ。
 
 「明日時間はあるかな?
 よければ明日ルミネの魔法を見るついでに君の召喚術も見よう。
 一応以前所属していたギルドでも召喚師はいたから少しはその知識が役立てると思う」
 
 テラはその日、フィレアにゆっくりと休むようにと告げ空き部屋と食事を与えた。

 …
 
 次の朝、テラは依頼の紙を一つ手に取りフィレア、ルミネと共に街の外へ出た。
 
 依頼内容は家畜を襲うガルムと呼ばれる狼型魔獣の討伐だ。
 
 ガルムは冒険者組合が指定する危険レベルのA~Eで分けられている所のD。
 一番下から二番目の危険度の為、訓練にはもってこいだ。
 
 それにギルドマスターである自分がいる為万が一の事はまず起こらないだろう。
 
 うちのギルド、リベラシオンのメンバーの多くはフィレアの様にギルドから追い出された……つまりは追放された、行く宛のない者やそもそもギルドに入れなかった個人で行っていた初心者の冒険者が多い。
 
 その為、一定の期間、自分や今は依頼をこなしている為不在だが以前所属していたギルドを抜ける際に引き抜いた他のS級冒険者二人が今日の様に初心者向けに指導、訓練を行っているのだ。
 
 ルミネは嬉しそうに先頭を走るのを見守りながら、しばらく歩いていると隣にいたフィレアが話しかけてきた
 
 「あの…ルミネちゃんって親御さんはいないのですか?」
 
 なぜそんな事を聞くのか…。
 フィレアの問いの意図に自分は少し首をかしげ聞く。
 
 「なぜそれを聞くんだ?」
 「えっと…昨日私が寝ているお布団に潜り込んでこたんですけど…。
 その時に何だか嬉しそうな…でも悲しそうな顔をしていて…。
 それで…私もそうだったからもしかしてと思って…」
 
 このご時世、親がいないなんて事は珍しくは無い。
 魔物に襲われたり流行病に倒れたり…戦争に派遣、またはそれに巻き込まれたりとこの世界は死に満ち満ちている。
 
 だが…その中でもルミネの過去は悲惨だ。

 俺は今目の前で明るく振る舞っているルミネを見て少し考え、そしてそのルミネが今、懐いているこの彼女フィレアにその事を話すかどうか思案する。
 その結果。
 
 「少し話そうか…彼女の話を」
 
 ルミネの心に残った傷を彼女が埋めてくれるのではと思い話を始めた。
 
 ルミネが住んでいた場所はとても貴重な鉱石が取れる標高の高い街だ。
 もとは村だったのだが鉱石の噂を聞きつけ労働者が集まり徐々に大きな街へと成長。
 
 村人やそこで暮らす人々は協力して働き、食料を得て、それを皆で分配して暮らした。
 街で取れる鉱石を金に変え村々で取れる農作物、牛の父、鶏の卵などを買い町長の家に持ち寄りそれぞれ家に持ち帰る。
 そんな平和な日常を彼らは送っていた。
 
 隣の村や街が作物の不作のために飢餓に陥った際には、その街の町長はそれらの村や街を援助する事を躊躇わず決め実際に多くの人々を救った。
 
 だが、その裕福さに目をつけた連中、貴族や他の街はその資金の源である鉱石を手に入れようと多くの者が羨み妬んだ。
 
 そんなある日ついにその時は訪れる。
 とある盗賊団の襲撃にあい街は一夜にして焼け落ち街の人々はただ一人の少女を残して全員等しく惨殺された。
 
 その話を前で楽しそうに歩くルミネに聞かれぬようフィレアに話し。
 
 「今は私が親代わりをしているんだ」
 
 と。
 締めくくり話を終えた。
 
 「そう…だったのですか…」
 
 フィレアの顔をふと見るとその目には涙が溢れ出し一筋の水滴が流れ落ちていた。
 
 他者を気遣い想いやれるとても優しい娘だ…。
 
 そしてその彼女の肩に乗る小さな召喚獣はそんな彼女を気遣い寄り添っている。
 
 召喚獣に好かれるわけだ。
 これが彼女の強みになるだろう。
 
 テラは心の中でそう書き留め目的地の森に向け歩き続けた。

 …
 
 「フィレアお姉ちゃん!!
 そっちに行ったよ!!」
 
 ガルムがフィレアに向かい走る。
 
 「獣魔召喚!
 お願いモモ!!」
 
 フィレアがそう唱えると巨大なパンダが目の前に現れ近づくガルムをギュっと抱き止め捕まえた。
 
 「ありがとうモモ!」
 
 召喚獣のモモは以前とは違い消える事は無くその場に居続けガルムを気絶させるまで抱きしめ続けていた。
 
 …
 
 それから数日の間フィレアは。
 ルミネとテラと共に依頼をこなし召喚術の訓練や冒険者としての知識を学んだ。
 
 たった数日の間でフィレアは見違える程に成長した。
 
 だが現在。
 フィレアは泉の前で息を切らし悔しそうな表情で泉を見ていた。
 
 「やっぱり駄目…ですね…」
 「魔力量は足りている…後は自身の気持ちの問題だ…」
 
 フィレアの召喚獣は3体。
 その内の2体は召喚することができるが残りの一体は子供の頃、奇跡的に召喚できた事のみ。
 
 フィレアはテラやルミネと別れた後少し重い足取りで街の中にある食事処を目指して歩き、その道中テラの言葉を頭の中で繰り返していた。
 
 「後は自分の気持ち…か…」
 
 そんな考え事で頭をいっぱいにし困った様な面持ちで街中を歩く。
 
 目的の食事処に到着し、店に入ろうとした時…。
 
 「フィレアじゃないか!」
 
 そう後ろから呼びかけられ振り向く。
 するとそこには見覚えのある顔が並んでいた。
 以前まで所属していたギルドのパーティーメンバーの仲間達だ。
 
 「ハサドさん!それに皆も!」
 
 そう言えば仲間達とはギルドから追放される前日から会えていなかった。
 
 「ごめんなさい…私、皆に相談もせずパーティーを抜けちゃったりして…」
 
 フィレアはそう申し訳なく感じ目をそらす。
 だが、彼らは不自然な程に笑顔になりフィレアに笑ってみせる。
 
 「何言っているんだよ、俺達は仲間じゃ無いか」
 
 ……
 
 「いいよ、私がお金払っておくから」
 「そうか? すまないな」
 
 彼らハサド達との楽しい食事を終え皆と別れフィレアは帰路につく。
 
 明日も頑張らなくちゃ。
 
 そう心に決意し両頬を両手で叩いた。
 
 「まじで馬鹿だよなあいつ」
 「本当にそうだよねーちょっと仲間のふりしただけであんなに嬉しそうにしちゃってさー」
 
 ふと、そんな話し声が聞こえた。
 聞き覚えのある声。
 
 フィレアは様子を見ようと少しふらついた足取りで壁に沿い話し声が聞こえる、テラス席を見た。
 
 先程、別れた仲間の皆だ。
 
 「あいつがギルドから追放されたって聞いた時マジで笑っちまったよ。
 やっとか…てな!」
 
 ハハハハ!!
 
 ハサドが愉快そうに話し他の仲間達が笑う。
 
 「そういえばさー、ハサドー。
 そもそも、なんであんな使えないそれも貧相な女を仲間なんかにしたのー?」
 
 ハサドはその問いに笑う。
 
 「ああ…あのフィレアって女ああ見えて金を持ってんだよ。
 確か貴族出身だとか言ってたかな?
 少し仲間だとか適当な事言ったら金を出すんだよ馬鹿だからな。
 あと優しくしてやったら一発やらせてくれないかなって思ってさぁ」
 「やだぁー、リーダーの変態。
 私みたいな可愛い子じゃ無くてあんなのが好みだったの?」
 「そんな訳ねえだろ、あんなの友達でも仲間でも何でもねえよ。
 ただの俺の財布さ」
 
 
 使えない能力 弱い 迷惑をかけてしまった 仲間 友達 。

 そう…だったんだ…。
 
 「そう…だよね…クエストの時だってただのお荷物だったし…。
 私なんて……」
 
 勝手に私が皆を仲間だと勘違いしていただけだ……。

 ただそれだけの話…。

 でも何でこんなに胸は…。
 
 「痛いの……?」
 
 ………
 
 リベラシオンのホーム。
 そこでフィレアは召喚獣であるピコを抱きしめ泣いていた。
 
 だが…ギィと音を立て扉が開き見る。
 そこには新しい仲間達が扉から顔を覗かせていた。
 
 「よぉ…どうしたんだい、悲しそうな顔しちゃってさ。
 おじさんでいいなら話し聞いてやるぞ」
 「フィレアさん今日はマスターが奢ってくれるそうですからお酒をお飲みになりませんか?
 辛いときは皆で騒ぐに限ります」

 フィレアは皆が集まり扉の隙間から心配そうに覗くそれを見て。
 なんだかそれが可笑しな物に感じ涙を拭い笑ってみせた。
 
 フィレアにとって悲しくもありそして同時に嬉しかった日。
 
 「そういえば…ルミネちゃんは寝ているんですか…?」
 
 …
 
 その同日、ルミネは帰り道。
 数名の覆面を被った集団に囲まれていた。
 
 「おじさん達、どこの人…?」
 
 ……
 
 フィレアとテラ、リベラシオンのメンバー全員は受付けのメンバー一人を残しギルドホームから出てルミネの捜索にあたっていた。
 
 一人のギルドメンバー、十分に戦えるとはいえまだルミネは幼い。
 
 ルミネがまだ帰って来てないことに気づき全員、慌てた様子で出てきたのだ。
 
 「あの…テラさんそう言えば今日ルミネちゃんは今日いつも来ていた訓練に来ていませんでしたけどどうしたんでしょうか?」
 「ああ…それは…」
 
 テラは一瞬迷ったが、懐から紙を見せた。
 
 「フィレア、数日前に出してくれた入団希望書を覚えているか?
 お前の入団が正式に冒険者組合の方で受理されてな、それで皆で入団祝いのパーティーをやる話になった。
 ルミネにその話をしたら…」
 
 フィレアお姉ちゃんの入団祝いのケーキは私が用意する!
 
 ルミネはそう言い今日、朝からギルドホームを飛び出して行った。
 
 事が事なので隠し事をすべきでは無いとテラは判断しフィレアに教える。
 
 ケーキ屋の前に付き事情を話すと店主は数時間前の日暮れ頃に自分で作ったケーキを持ってこの店を出ていったと言う。
 
 「ルミネちゃん、あの店主さんに頼み込んでケーキを自分で作ったらしいですね…それでその後は…」
 
 フィレアは胸に手を当て心が温まるのを感じ、そしてなら今ルミネが何処にいるのだろうかと不安が押し寄せてくる。
 
 「ここからホームに帰るルートを行ってみよう」
 「はい!」
 
 ケーキ屋から出てリベラシオンのホームまでの道、様々なルートがあるがテラはその中でもできるだけ近道を捜索しながら進んだ。
 その中でもできるだけ事件に巻き込まれかねない路地などを選んだ。
 
 そして。
 ルミネをついに見つけた。
 だが…。
 
 そこには汚れた水たまりの上で仰向けになり血を流す幼い少女の姿があった。
 
 「ルミネちゃん!?」
 「ルミネ!!」
 
 二人は側に近づきルミネの体を起こす。
 
 「酷い怪我…」
 
 明らかに転んだとかそんな怪我じゃ無い、人がつけた傷それも複数箇所同時、それどころかこれは…拷問に近い……敵を倒すなどでは無くできるだけ気絶しないよう痛みだけを与えるようにしてある。
 
 「一体、何が…テラさん?」
 
 信じられない程の怒りがこみ上げてくる。
 
 だがそれよりもまずは。
 
 ルミネを抱き上げ水たまりから離す。
 そしてテラは懐からビンを取り出し蓋を取るとルミネにかけた。
 
 赤色のポーション、今持っている中で一番効き目のある物だ。
 
 そして背中に手を当てルミネの自然治癒力を出来るだけ解放させる。
 
 するとルミネは薄っすらと目を開け口を開いた。
 
 「ケーキ……」
 
 ルミネが手を伸ばす方を見るとそこには潰れ泥水に使ったケーキだった物があった。
 
 「ごめん、フィレアお姉ちゃん。
 ケーキ頑張って作ったんだけど駄目になっちゃった…」
 
 テラはルミネの頭を撫で落ち着かせる。
 
 「ケーキならまた作ればいい。
 今度は皆で。
 それで…何があった?」
 
 「マスター…あいつら…フィレアお姉ちゃんが狙いです…。
 この女は何処だって絵を持って…」
 
 テラの服を握るルミネの手に力が入る。
 
 「言わなかったよ…言うもんか…
 家族を…売るくらい…なら死んだほうがましだもん…。
 もう誰かが居なくなっちゃうのは…もういや……」

 ルミネはそれだけを言うと気を失うように眠ってしまった。
 
 「そうか…」
 
 テラは周りを見渡しギルド方面へ歩き始めた。
 
 「聞いたなお前ら…」
 
 その言葉を聞きフィレアはあたりを見渡す。
 すると気付けばいつの間にかギルド、リベラシオンの面々が屋根伝いや路地の影に集結していた。
 
 「何処の誰か知らんが誰に手を出したのか分からせる必要がある」
 「了解だマスター、追跡は任せろ」
 「なら、情報収集は私が」
 
 ギルドマスターの命令に従い有無も言う事もなくそれぞれが散開し散り散りにきえていく。
 
 フィレアは彼らの仲間になりあまり時間がたってはいないが彼らの並々ならぬその怒りはひしひしと感じ取れた。
 
 ……
 
 今回の襲撃…間違いなく自分のせいだ。
 
 フィレアは、荷物を纏め誰にも気づかれぬようギルド、リベラシオンのホームを後にする。
 
 もう犠牲を出すわけにはいかない。
 やっと出会えた本当の仲間達が傷つくくらいなら…。
 
 彼女が大通りを歩いていると事件の犯人と思われる男が現れた。
 
 「ファファファ…。
 やっと見つけましたよ。
 フィレアさん、全くあんな弱小ギルドに貴方が入ったせいで貴方を探すのに少々手こずってしまいました…。
 では来てもらいましょうか我々のホームに」
 
 それは以前所属していたギルドのギルドマスター、ベガだった。
 
 ……
 
 ベガは事の経緯を話しフィレアに紅茶を差し出す。
 
 「いやぁ、それにしてもフィレアさんまさか貴方が貴族の出身、ましてやあの4大貴族の一人娘だとはさすがの私も知りませんでしたよ~。
 何でも数年前に家出をなされたとか?」
 
 ベガは口を抑えて笑い対面のソファに座り自分の紅茶を飲み始めた。
 
 「まさに棚からぼた餅、金の卵を産む鶏……ファファ…。
 さて、どうしましょうかネェー。
 このまま拉致して金をせびるか…。
 もしくはこのままクエストを完璧に遂行し4大貴族に貸しを作っておくか…。
 ふむ…悩みますネェ…」
 
 ベガは一人でそんな事を言っているがフィレアにはどうでもよく感じた。
 そんな事より…。
 
 「ルミネちゃんに手を上げたのは誰!」
 
 そんな怒りをあらわにしここに来て初めて口を開いたフィレアを見てベガは鼻で笑いゆっくりとティーカップをそっとおいた。
 
 「ああ、あの子ねあの馬鹿な弱小ギルドの雑魚。
 さっさとあなたの事を喋っていれば痛めつけられずに住んだのにねぇ。
 ファファ…ほんとお馬鹿」
 
 ベガが指を鳴らす。
 
 「お呼びでしょうか?」
 
 すると何処から現れたのか数名の黒ずくめの姿をした者達がベガの後ろで立っていた。
 
 「ええ…よんだわ…」
 「あなた達がルミネちゃんをっ……」
 
 フィレアが立ち上がり魔法で召喚獣を出そうとした瞬間、ドーンと言う音と共に壁が吹き飛ばされた。
 
 「なに!?」
 
 慌てた様子でベガは壊れた壁に向け手を伸ばし魔法陣を展開する。

 爆発で巻き起こった煙の中そこに立っていたのはテラだった。
 
 「フィレア、無茶をするな。
 少し肝が冷えたぞ」
 「ナナナ…何で貴方がここに!?
 下にいた私の駒たちは!?」
 
 その問いにテラはちらりと後ろをみやり階段の下の様子を見た。
 
 「さぁな、今頃全員縄で縛られているんじゃないか?」
 「何をふざけた事を!」
 
 ベガは自らの手に魔力を集中させ魔法を発動させた。
 
 「ダークネスベルウェラ」【常闇の結晶】
 「無駄だ、リベラシオンチェンジ」
 【変換解放】
 
 テラがそう言い放つと途端にベガの発動しようとしていた魔法は消え霧散した。
 
 「まさか!……魔法を魔素に変えたと言うの!?」
 
 ベガは驚愕の表情を浮かべテラを見た。
 
 弱小ギルドのマスターがこんな力を持っていて良いものなの!?
 
 目まぐるしく回転する思考、そしてベガの頭に一つの単語が浮かび上がった。
 
 魔術師殺し…。
 確かいたはずだそんな二つ名を持つ奴が…まさか……。
 
 「貴方達! 何ぼやっとしてるの!?
 早くアイツをこの部屋からつまみ出しなさい!!」
 
 だがその問いに答えるものはいなかった。
 
 なぜだ…なぜ答えない!!
 
 ベガが後ろを振り向くとそこには部屋の天井と床すれすれに届く巨大な魔法陣が発動していた。
 
 「お願いリヴァイアサン」


 
 その魔法陣から見えるのは巨大な蒼い鱗を持つ禍々しい口。
 
 「ファ…?」
 
 ベガが間抜けな表情を浮かべた瞬間、巨大な口が開き巨大な水のレーザーが放たれた。
 
 「ぶぽぽぽ!!」
 
 水のレーザーはベガを飲み込み壁を貫き果てしない空へと消えた。
 
 ドラゴンを一瞬だが召喚しベガを倒し。
 黒服の者達はフィレアの召喚獣であるモモが抱きしめて気絶させた。
 
 散らかりきったギルドマスターの部屋を見渡しテラはフィレアに近づく。
 
 「本来は入団のパーティーの後に渡そうと思っていたんだが…。
 今渡すとしよう」
 
 テラはポケットから腕輪を取り出すとフィレアに渡した。
 それはギルドリベラシオンのマークが入った腕輪だ。
 
 「ようこそリベラシオンへ。
 さぁ行こう下で皆が待っている」
    
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マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
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貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
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今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

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