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第6話
5・後半戦
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1対0のまま、50分が過ぎた。
残り10分とアディショナルタイム──このままいけば勝てるわけだけど。
「なーんか、へんな感じ」
お姉ちゃんが、退屈そうに双眼鏡を下ろした。
「なんかさ、うちの学校のほうが強そうな雰囲気じゃん? さっきからずっと攻撃してるし。けど、まだ1点しか入ってないんだよね」
「『強い』というか、ボールポゼッション率が高いんだよね」
結麻ちゃんが、聞き慣れない言葉を口にした。
「ポゼッ……なに?」
「ポゼッション率。ボールを持っている割合っていえばいいのかな」
たしかに、試合中ボールを多く持っているのはうちの学校だ。今も10番の人を中心に、上手にパスをまわしている。
「ポゼッション率が高いと、傍目にはなんとなく上手に見えるみたい。でも、どんなにパスまわしが上手でも、サッカーってシュートが決まらないと勝てなくて……」
結麻ちゃんがそう言った矢先、相手チームにパスカットされてしまった。
「あ……っ」
「速……っ」
大きく出したパスに、左から走ってきた選手が追いつく。
すごい、速い!
でも、これってピンチなんじゃ……
ディフェンダーが駆け寄ろうとした矢先、逆サイドにパスがいく。
もうひとり走り込んでいた選手が、チャンスとばかりにシュートを放った。
「うわ……っ」
ボールは、キーパーの指先をすり抜けたものの、ゴールの上にがつんっとはじかれた。
「あぶなかったね、今の」
「う、うん……」
よかった、まだ1対0のままだ。
でも、こんなの心臓に悪すぎる。
どうか早くもう1点とってほしい。
「あんたが応援してる子、フォワードだったよね」
お姉ちゃんが、ジロリと私を睨んだ。
「フォワードって点をとるポジションでしょ。ぜんぜん目立たないじゃん。やる気ないんじゃないの?」
「そんなことないよ!」
間中くんが活躍していないのは、相手チームの選手にがっちりマークされているからだ。
本人は、なんとかはずそうとがんばっている。でも、どんなに動いても相手がついてくるからちっともパスをもらえないのだ。
「トモちゃんが応援してるのって、間中くん?」
突然そう問われて、私は「えっ、あっ、ええと」とおかしな声をあげてしまった。
「間中くん、すごく上手なんだってね。うちのクラスのサッカー部の人が『あいつは1年生のなかでもずば抜けてすごい』って言ってたよ」
だから楽しみにしてきたの、と結麻ちゃんは微笑んだ。
「朝練にも毎日休まないで参加しているみたいだし。きっと、今日もシュート決めてくれるよ」
「……うん!」
聞いた、間中くん?
結麻ちゃん、応援してくれているよ。
朝練に毎日参加しているのも、ちゃんと知っていたよ。
(だから、がんばりなよ)
絶対勝つって言ってたじゃん。
早く、結麻ちゃんにすごいところアピールしなよ。
ゴール決めて、こっちに手を振りなよ。
(がんばれ……がんばれ……!)
そんな願いが通じたのか。
ボールが8番に渡った瞬間、間中くんはすぐさま走り出した。
「あ……っ」
それまできっちりマークしていたディフェンダーが、慌てたように後を追う。
8番からのパスは、きれいに間中くんの真ん前に落ちた。
「いけ──っ!」
間中くんは、素早く右足を振り抜いた。
キーパーは一歩も動けないまま、ボールはゴールの隅っこに突き刺さった。
「やったぁ!」
入った、決まった! これで2対0だ!
「見た見た、結麻ちゃん!? あれね、あのマークを外すの、間中くんめちゃくちゃ頑張ってたの! あれをやるために図書室で本を借りて、トレーニングをがんばってたの!」
「そ、そう……」
驚いた様子の結麻ちゃんの隣で、お姉ちゃんが「うるさい」と顔をしかめた。
「あんた興奮しすぎ。とりあえず座りなよ」
「あ……うん」
しまった、いつの間にか立ちあがっていたみたい。
これは、ちょっと──かなり恥ずかしい。
と、フィールドでもみくちゃにされていた間中くんが、きょろきょろと応援席を見まわした。
(あ、手を振るつもりだ)
急いで「ここだよ」と示そうとしたけれど、間中くんは自力で見つけたらしい。ぱっと視線が止まると、大きく両手を振りまわした。
まっすぐ──ただ、結麻ちゃんだけに向けて。
(……バカ)
まずは私に、って言ったのに。
それじゃ、誰が好きなのかバレちゃうじゃん。
ほら、案の定お姉ちゃんが怪訝そうな顔をしている。
「あの子、結麻とも知り合いなの?」
「うん、たまに挨拶してくれるよ」
「ふーん、そうなんだ……」
まずい、これは余計な一言が発動するパターン。
思わず身構えたけれど、お姉ちゃんはもう一度「ふーん」と呟いただけだった。結局、試合は2対0のまま終了し、間中くんたちは3回戦進出を決めた。
残り10分とアディショナルタイム──このままいけば勝てるわけだけど。
「なーんか、へんな感じ」
お姉ちゃんが、退屈そうに双眼鏡を下ろした。
「なんかさ、うちの学校のほうが強そうな雰囲気じゃん? さっきからずっと攻撃してるし。けど、まだ1点しか入ってないんだよね」
「『強い』というか、ボールポゼッション率が高いんだよね」
結麻ちゃんが、聞き慣れない言葉を口にした。
「ポゼッ……なに?」
「ポゼッション率。ボールを持っている割合っていえばいいのかな」
たしかに、試合中ボールを多く持っているのはうちの学校だ。今も10番の人を中心に、上手にパスをまわしている。
「ポゼッション率が高いと、傍目にはなんとなく上手に見えるみたい。でも、どんなにパスまわしが上手でも、サッカーってシュートが決まらないと勝てなくて……」
結麻ちゃんがそう言った矢先、相手チームにパスカットされてしまった。
「あ……っ」
「速……っ」
大きく出したパスに、左から走ってきた選手が追いつく。
すごい、速い!
でも、これってピンチなんじゃ……
ディフェンダーが駆け寄ろうとした矢先、逆サイドにパスがいく。
もうひとり走り込んでいた選手が、チャンスとばかりにシュートを放った。
「うわ……っ」
ボールは、キーパーの指先をすり抜けたものの、ゴールの上にがつんっとはじかれた。
「あぶなかったね、今の」
「う、うん……」
よかった、まだ1対0のままだ。
でも、こんなの心臓に悪すぎる。
どうか早くもう1点とってほしい。
「あんたが応援してる子、フォワードだったよね」
お姉ちゃんが、ジロリと私を睨んだ。
「フォワードって点をとるポジションでしょ。ぜんぜん目立たないじゃん。やる気ないんじゃないの?」
「そんなことないよ!」
間中くんが活躍していないのは、相手チームの選手にがっちりマークされているからだ。
本人は、なんとかはずそうとがんばっている。でも、どんなに動いても相手がついてくるからちっともパスをもらえないのだ。
「トモちゃんが応援してるのって、間中くん?」
突然そう問われて、私は「えっ、あっ、ええと」とおかしな声をあげてしまった。
「間中くん、すごく上手なんだってね。うちのクラスのサッカー部の人が『あいつは1年生のなかでもずば抜けてすごい』って言ってたよ」
だから楽しみにしてきたの、と結麻ちゃんは微笑んだ。
「朝練にも毎日休まないで参加しているみたいだし。きっと、今日もシュート決めてくれるよ」
「……うん!」
聞いた、間中くん?
結麻ちゃん、応援してくれているよ。
朝練に毎日参加しているのも、ちゃんと知っていたよ。
(だから、がんばりなよ)
絶対勝つって言ってたじゃん。
早く、結麻ちゃんにすごいところアピールしなよ。
ゴール決めて、こっちに手を振りなよ。
(がんばれ……がんばれ……!)
そんな願いが通じたのか。
ボールが8番に渡った瞬間、間中くんはすぐさま走り出した。
「あ……っ」
それまできっちりマークしていたディフェンダーが、慌てたように後を追う。
8番からのパスは、きれいに間中くんの真ん前に落ちた。
「いけ──っ!」
間中くんは、素早く右足を振り抜いた。
キーパーは一歩も動けないまま、ボールはゴールの隅っこに突き刺さった。
「やったぁ!」
入った、決まった! これで2対0だ!
「見た見た、結麻ちゃん!? あれね、あのマークを外すの、間中くんめちゃくちゃ頑張ってたの! あれをやるために図書室で本を借りて、トレーニングをがんばってたの!」
「そ、そう……」
驚いた様子の結麻ちゃんの隣で、お姉ちゃんが「うるさい」と顔をしかめた。
「あんた興奮しすぎ。とりあえず座りなよ」
「あ……うん」
しまった、いつの間にか立ちあがっていたみたい。
これは、ちょっと──かなり恥ずかしい。
と、フィールドでもみくちゃにされていた間中くんが、きょろきょろと応援席を見まわした。
(あ、手を振るつもりだ)
急いで「ここだよ」と示そうとしたけれど、間中くんは自力で見つけたらしい。ぱっと視線が止まると、大きく両手を振りまわした。
まっすぐ──ただ、結麻ちゃんだけに向けて。
(……バカ)
まずは私に、って言ったのに。
それじゃ、誰が好きなのかバレちゃうじゃん。
ほら、案の定お姉ちゃんが怪訝そうな顔をしている。
「あの子、結麻とも知り合いなの?」
「うん、たまに挨拶してくれるよ」
「ふーん、そうなんだ……」
まずい、これは余計な一言が発動するパターン。
思わず身構えたけれど、お姉ちゃんはもう一度「ふーん」と呟いただけだった。結局、試合は2対0のまま終了し、間中くんたちは3回戦進出を決めた。
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