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第6話
1・結麻ちゃんからの返事
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文化祭まで2週間をきった、ある昼休み。
「えっ、マジで?」
「うん。結麻ちゃん、2回戦観にいってもいいって」
とはいえ、当日は吹奏楽部の練習もあるから、途中からの観戦になるみたいだけど。そう伝えても、間中くんのテンションは変わらない。
「ヤバいヤバい、俺、絶対ゴール決める! 絶対池沢先輩にカッコいいとこ見せる!」
ハイハイ、ガンバッテ。
間中クンナラデキルヨ、キット。
口にはしなかったものの、どうやら伝わるものがあったらしい。
「佐島、呆れた顔してる」
「してないよ。『頑張れ』とは思ってる──いちおう」
「いちおうじゃん!」
力いっぱい背中を叩かれたので「痛い!」と抗議する。こんなこと、結麻ちゃんにはしないよね。というかできないよね。まあ、いいけど。
「あ、もうひとつ。試合を観にいくの、うちのお姉ちゃんもだから」
「へっ……佐島、ねーちゃんいたっけ?」
「いるよ。3年生。結麻ちゃんと同い年」
でも、結麻ちゃんと違ってダメダメだけど。
わがままで無責任で、ほんと自分勝手。今回のことも、私は結麻ちゃんだけに声をかけたのに、どこからか話を聞きつけたのか、いきなり「私も行くから」って言い出した。たぶん、気になる男子がサッカー部にいるせい。この間まで騒いでた年下男子は一体どうなったんだろう。
「それでさ、うちのお姉ちゃん、ほんっっっと余計なことばかり言う人だから。間中くんの態度を見て『あの子、結麻のこと好きなんじゃないの?』とかうっかり言っちゃうかも」
私の忠告に、当然間中くんは眉を下げた。
「そんなの困る! そういうのは、俺からちゃんとしたい!」
「だよね。だったら、当日は露骨な態度は控えてね」
「……露骨なって?」
「ゴールを決めたとき、結麻ちゃんにだけ手を振るとか」
「それなら大丈夫」
間中くんは、ニカッと笑った。
「池沢先輩だけじゃない、ちゃんと佐島にも手を振るから」
「べつに、私には振らなくても……」
「でも振る! 俺、友達や家族が観に来てたらだいたい手を振る!」
──友達。そうだね、私たちは「友達」だ。
「じゃあ、結麻ちゃんより先に私に手を振ってよ」
「えっ、なんで?」
「そうすれば『私に手を振ったついで』っぽく見えるでしょ」
「……ついでとか、なんかヤダ」
「じゃあ、結麻ちゃんを好きってこと、お姉ちゃんに気づかれてもいいの?」
気づかれたら、間違いなく余計な発言が飛び出すと思うけど。
私の指摘に、間中くんは「うっ」と言葉を詰まらせた。
「わかった。まずは佐島に手を振る」
「そうして。そのあと『あ、池沢先輩!』って感じで、結麻ちゃんに手を振ればいいから」
「……池沢先輩、気づいてくれるかな」
「さあね」
たぶん、にっこり笑って手を振ってくれるだろうけど。
今はまだ教えてあげない。
「どうしよう……池沢先輩が手振りかえしてくれたら、俺、心臓止まるかも」
「止まらせないでよ。試合中でしょ」
「そうだった! 試合中に止まるの、絶対ダメ!」
「試合後ならいいの?」
「試合後も絶対ダメ!」
──なんだかなぁ。間中くんと話していると、会話のレベルがどんどん下がっていく気がする。
なのに、それすらも楽しいと思っている自分がいるんだから、たいがい私もどうかしている。
と、間中くんの大きな目が、ジッと私を見ていることに気がついた。
「……なに?」
「あ、ええと……」
なぜか煮え切らない答え。
理由は、教室に戻るとき明らかになった。
「えっ、マジで?」
「うん。結麻ちゃん、2回戦観にいってもいいって」
とはいえ、当日は吹奏楽部の練習もあるから、途中からの観戦になるみたいだけど。そう伝えても、間中くんのテンションは変わらない。
「ヤバいヤバい、俺、絶対ゴール決める! 絶対池沢先輩にカッコいいとこ見せる!」
ハイハイ、ガンバッテ。
間中クンナラデキルヨ、キット。
口にはしなかったものの、どうやら伝わるものがあったらしい。
「佐島、呆れた顔してる」
「してないよ。『頑張れ』とは思ってる──いちおう」
「いちおうじゃん!」
力いっぱい背中を叩かれたので「痛い!」と抗議する。こんなこと、結麻ちゃんにはしないよね。というかできないよね。まあ、いいけど。
「あ、もうひとつ。試合を観にいくの、うちのお姉ちゃんもだから」
「へっ……佐島、ねーちゃんいたっけ?」
「いるよ。3年生。結麻ちゃんと同い年」
でも、結麻ちゃんと違ってダメダメだけど。
わがままで無責任で、ほんと自分勝手。今回のことも、私は結麻ちゃんだけに声をかけたのに、どこからか話を聞きつけたのか、いきなり「私も行くから」って言い出した。たぶん、気になる男子がサッカー部にいるせい。この間まで騒いでた年下男子は一体どうなったんだろう。
「それでさ、うちのお姉ちゃん、ほんっっっと余計なことばかり言う人だから。間中くんの態度を見て『あの子、結麻のこと好きなんじゃないの?』とかうっかり言っちゃうかも」
私の忠告に、当然間中くんは眉を下げた。
「そんなの困る! そういうのは、俺からちゃんとしたい!」
「だよね。だったら、当日は露骨な態度は控えてね」
「……露骨なって?」
「ゴールを決めたとき、結麻ちゃんにだけ手を振るとか」
「それなら大丈夫」
間中くんは、ニカッと笑った。
「池沢先輩だけじゃない、ちゃんと佐島にも手を振るから」
「べつに、私には振らなくても……」
「でも振る! 俺、友達や家族が観に来てたらだいたい手を振る!」
──友達。そうだね、私たちは「友達」だ。
「じゃあ、結麻ちゃんより先に私に手を振ってよ」
「えっ、なんで?」
「そうすれば『私に手を振ったついで』っぽく見えるでしょ」
「……ついでとか、なんかヤダ」
「じゃあ、結麻ちゃんを好きってこと、お姉ちゃんに気づかれてもいいの?」
気づかれたら、間違いなく余計な発言が飛び出すと思うけど。
私の指摘に、間中くんは「うっ」と言葉を詰まらせた。
「わかった。まずは佐島に手を振る」
「そうして。そのあと『あ、池沢先輩!』って感じで、結麻ちゃんに手を振ればいいから」
「……池沢先輩、気づいてくれるかな」
「さあね」
たぶん、にっこり笑って手を振ってくれるだろうけど。
今はまだ教えてあげない。
「どうしよう……池沢先輩が手振りかえしてくれたら、俺、心臓止まるかも」
「止まらせないでよ。試合中でしょ」
「そうだった! 試合中に止まるの、絶対ダメ!」
「試合後ならいいの?」
「試合後も絶対ダメ!」
──なんだかなぁ。間中くんと話していると、会話のレベルがどんどん下がっていく気がする。
なのに、それすらも楽しいと思っている自分がいるんだから、たいがい私もどうかしている。
と、間中くんの大きな目が、ジッと私を見ていることに気がついた。
「……なに?」
「あ、ええと……」
なぜか煮え切らない答え。
理由は、教室に戻るとき明らかになった。
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