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第8話

1・投げやりな告白のあと

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 半ば投げやりな俺の告白に、ナツさんは、それほど大きくない目をこれでもかというほど真ん丸にした。

「今のほんと? ほんとにほんと? 青野もオレのこと好きになったってこと?」
「ええ、まあ……」

 たぶん、と付け加えようとしたところで、ナツさんが俺にダイブしてきた。

「やった! オレも! オレも青野のことが好き!」
「げほ……っ、いや、待っ……」

 待ってくれ、と咳き込みながら、俺は何度も彼の背中を叩く。
 だって、みぞおちが痛い。たぶん、ナツさんがダイブした際に、スマホか何かが直撃したせいだ。なのに、ナツさんはすっかり舞い上がっていて、俺の訴えに気づいていない。

「じゃあ、やろ! 今すぐやろ!」
「や……っ、るって何を……」
「セックス」

 あまりにも直球すぎるその一言に、今度は別の意味で俺は咳き込んだ。

「ちょっ……な……っ、ここ学校ですよ!?」
「そうだよ」

 それが何? と言わんばかりに、ナツさんは不思議そうに首を傾げている。
 そうだ……この人はこういう人だった。もともとモラルが欠落しているというか、保健室で寝ていた俺のズボンに平気で手をかけてくるような人じゃないか。
 じわり、と不安が湧き起こる。
 あれ、俺……たぶんこれからこの人と付き合うんだよな?
 それって大丈夫か? 俺、本当にナツさんとやっていけるのか?

(ていうかこの人、本当に俺のことが好きなんだよな?)

 まさかとは思うけど「やりたいだけ」ってことはないよな? もちろん、俺だってそんなふうに疑いたくはない。ここ数日の彼からのアプローチは、すべて本心だと信じたい──けど。
 俺は、まじまじとナツさんを見た。
 ナツさんは、きゅるんとした目で、俺の次の言葉を待っている。
 もしも今、ここで俺が「オッケー、了解! やりましょう!」と言えたなら、すべては丸く治まるのだろう。
 でも、無理だ。俺の心には、すでに不信感が芽生えている。

(そもそも──だ)

 俺は、本当にこの人のことを好きなのか?
 好きだとしたら、なぜ彼からの誘いにふたつ返事で応じることができないのだ?

(もしも今、目の前にいるのが夏樹さんなら──)

 今すぐ俺は理性を手放して、彼を組み敷いていたに違いない。
 なのに、ナツさんに対しては、どうしても二の足を踏んでしまう。もちろん、彼への不信感もあるけれど、それ以上に強いのは、実は「俺自身」への不信感ではないのだろうか。

(やばい……自信がなくなってきた)

 この想いは、本当に「恋」なのか。実は、単に雰囲気に流されただけではないのか? ナツさんへの「好き」という気持ちは、夏樹さんへのそれと本当に同等のものなのか?

「……青野?」
「……」
「ねえ、青野青野青野、青野ってば!」

 それでも無言を貫く俺に、どうやらナツさんは限界を迎えたらしい。

「わかった、やるね! オレ、青野のこといっぱい気持ち良くしてあげる!」

 当たり前のようにズボンに伸びてきた右手を、俺は阻止するべくしっかりと捕まえた。

「痛っ……ちょっ、青野、何!?」
「仮です!」

 気がついたら、俺は叫び返していた。

「俺のナツさんへの気持ちは、まだ『仮』です。つまり『好き(仮)』ということです!」
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